小学校の校地に建つ本格の茶室
三水第一小学校茶室(さみずだいいちしょうがっこうちゃしつ)は、長野県上水内郡飯綱町大字普光寺179にある昭和17年(1942年)建築の木造平屋建の茶室で、平成28年(2016年)2月25日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。通称を法母庵(ほうもあん)という。
建築面積は41平方メートル、屋根は鉄板葺。特徴は平面にある。三畳と四畳半、二つの茶室が並び、水屋を共有する構成をとる。四畳半の二辺には、矩折れに入側縁が廻る。
この規模の建物に茶室を二間設ける例は多くない。理由は使い手を考えれば見えてくる。一学級の児童が四畳半一間で順番を待つのでは稽古にならない。水屋という水回りを一つにまとめたうえで席を二つ用意すれば、大人数が同時に手を動かせる。
文化庁の台帳は、建築から41年を経た昭和58年(1983年)の移築を記録している。
村の学校がなぜ茶室を求めたのか
建設費を出したのは、のちに三水村長を務める岩間清治である。八十二文化財団がまとめた記録によれば、岩間は校長・白鳥義千代が掲げた「歌道や茶道の実践による農村女性の人格形成教育」という構想に感銘を受け、寄附を決めたという。理念を語るだけでなく、実際に稽古のできる部屋を用意したことになる。
設計の下敷きになったのは、白鳥が師事した奥田正造(1884年〜1950年、東京成蹊高等女学校長)が東京に構えた茶室「法母庵」と伝わる。奥田は茶道を基礎に据えた女子教育で知られ、その茶の理念を『茶味』にまとめた人物である。信州に建てられたこの茶室は、師の庵の名をそのまま受け継いだ。施工にあたった棟梁は倉井の松橋由平。
建築年にも目を留めたい。昭和17年は太平洋戦争のさなかで、木材も職人も屋根材も逼迫していた時期にあたる。その年に、山あいの学校が細部まで手の込んだ茶室を建てている。
登録有形文化財の登録基準は三つある。この茶室が該当するとされたのは、そのうち「造形の規範となっているもの」。登録件数の多くは第一の基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されるため、第二の基準が適用される例は相対的に少ない。町並みへの寄与ではなく、建物そのものの造りの質が評価されたという読み方ができる。
細部の見どころと、訪ねる際の作法
三畳の席のほうが格式は厳しい。躙り口を備え、天井は掛込天井とする。掛込天井は軒裏をそのまま室内に引き込む形式で、入口側が低く抑えられ、席に着いてから視界が上に開ける。
四畳半の席は数寄屋風にまとめられている。柱は面皮付。角に樹皮の名残を残した柱で、製材されきらない木の表情がそのまま残る。床柱にはコブシの皮付丸太を用いる。コブシはこのあたりの山で、葉に先んじて白い花を咲かせる木である。
訪問には準備がいる。この茶室は学校の敷地内に建っており、公園や寺院の境内のように誰でも立ち入れる場所ではない。児童の体験学習の場として使われてきた建物である。飯綱町では平成30年(2018年)4月に町内4小学校が2校へ統合され、三水第一小学校はこのとき閉校となった。見学を希望する場合は、事前に飯綱町教育委員会へ連絡し、現在の公開状況を確認したい。学校敷地に予告なく立ち入るのは避けるべきである。
飯綱町は長野市の北に位置する。しなの鉄道北しなの線の牟礼駅から車で5分ほど、上信越自動車道の信州中野インターチェンジからは車で20分ほどの距離にある。
Q&A
- 三水第一小学校茶室は一般に見学できますか。
- 自由な見学はできません。学校の敷地内にあり、児童の体験学習の場として使われてきた建物です。見学を希望する場合は、事前に飯綱町教育委員会へ問い合わせ、現在の公開状況を確認してください。予告なく学校敷地に立ち入ることは控えてください。
- 三水第一小学校茶室が「法母庵」と呼ばれるのはなぜですか。
- 教育者・奥田正造が東京に構えていた茶室「法母庵」を設計の手本にしたと伝わり、その名を受け継いだためです。飯綱町の資料でも、名称を三水第一小学校茶室、通称を法母庵として記載しています。
- 三水第一小学校茶室に茶室が二間あるのはなぜですか。
- 学校教育に使うためです。三畳と四畳半の二席が水屋を共有する平面とすることで、一間だけの茶室では順番待ちになってしまう大人数の稽古を、同時に進められるようにしています。
- 三水第一小学校茶室はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
- 建築は昭和17年(1942年)、当時の校名は三水第一国民学校でした。文化庁の台帳は昭和58年(1983年)の移築を記録しています。登録有形文化財への登録は平成28年(2016年)2月25日、登録番号は20-0499です。
- 三水第一小学校茶室へのアクセスを教えてください。
- 所在地は長野県上水内郡飯綱町大字普光寺179で、長野市の北にあたります。しなの鉄道北しなの線の牟礼駅から車で5分ほど、上信越自動車道の信州中野インターチェンジからは車で20分ほどです。
基本情報
| 名称 | 三水第一小学校茶室(さみずだいいちしょうがっこうちゃしつ)/通称 法母庵 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県上水内郡飯綱町大字普光寺179 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 20-0499 登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成28年(2016年)2月25日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積41平方メートル 昭和17年建築・昭和58年移築 |
| 所有者 | 飯綱町 |
| 公開状況 | 学校敷地内につき自由見学不可。飯綱町教育委員会への事前問い合わせが必要 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)三水第一小学校茶室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010970
- 文化遺産オンライン 三水第一小学校茶室
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/292680
- 八十二文化財団 信州の文化財 三水第一小学校茶室
- https://www.82bunka.or.jp/bunkazai/detail.php?no=6166&seq=0
- 飯綱町 小学校統合情報
- https://www.town.iizuna.nagano.jp/docs/446.html
最終更新日: 2026.08.20