岡山城二の丸の対面所跡に開いた美術館

林原美術館は、岡山県岡山市北区丸の内の岡山城二の丸跡にある美術館で、昭和39年(1964年)に開館し、昭和38年(1963年)竣工の本館と、江戸末期から明治前期の長屋門・土蔵3棟をあわせた5棟が令和5年(2023年)に国の登録有形文化財となった。敷地は岡山城の内堀のすぐ西側にあたり、江戸時代には二の丸屋敷の対面所、いまでいう迎賓館が置かれていた。

対面所の建物は明治に入って失われた。美術館の英語版の案内によれば、明治以降この一画は旧藩主池田家の事務所として使われていたという。のちに美術館の敷地となる土地には、そのころすでに門と蔵が移されていた。

美術館を構想したのは岡山の実業家、林原一郎(1908〜1961年)である。祖父の代から続く水飴製造業を継いで大きく伸ばす一方、学生のころから刀剣の研究に没頭し、やがて日本と東洋の古美術を広く集めた。旧岡山藩主池田家に伝わった大名調度品もまとめて引き受けている。昭和36年(1961年)4月に52歳で亡くなり、同じ年の7月、遺族と当時の岡山県知事三木行治らが財団を設けた。

館舎は昭和38年に完成し、翌年10月1日に開館した。開館時の名称は「岡山美術館」で、昭和61年(1986年)に財団設立当初の「林原美術館」へ戻している。収蔵品は刀剣・甲冑・絵画・書跡・能面・能装束・蒔絵・陶磁などおよそ9,000件。常設展示は設けず、企画展と特別展ごとに収蔵品を入れ替えて見せる運営を続けている。

生坂向邸から移された門と3棟の蔵

林原美術館の登録建物5棟のうち、長屋門と東蔵・中蔵・西蔵の4棟は、もとは別の屋敷の建物である。移築元は生坂向邸(いくさかむかいやしき)。岡山藩池田家の分家にあたる生坂藩池田家の屋敷で、岡山県教育委員会の資料は、その位置を現在のルネスホールの向かい側付近としている。

生坂藩は備中国窪屋郡、いまの倉敷市と総社市の一部を主な領地とした1万5千石の支藩で、初代藩主は池田光政の三男、池田輝録(てるとし)である。廃藩ののち、分家の屋敷にあった門と蔵が、本家の城の二の丸跡に移されて並ぶことになった。

移築の年代は、資料によって書き方が少し違う。岡山県の資料は門と蔵の4棟をまとめて明治42年(1909年)頃とする。文化庁の国指定文化財等データベースは、長屋門を「明治後期移築」、中蔵を「明治26年頃・同42年頃移築」、つまり明治26年(1893年)頃と明治42年頃の2度と記しており、中蔵にだけ2つの年代が並んでいる。各棟のページでは、文化庁の記載に従って書いている。

5棟の登録と2つの登録基準

林原美術館の5棟は、令和5年(2023年)3月17日の文化審議会の答申を経て、同じ年の8月7日に登録有形文化財(建造物)として登録された。登録番号は33-0351(本館)、33-0352(東蔵)、33-0353(中蔵)、33-0354(西蔵)、33-0355(長屋門)と連番になっている。登録の時点の所有者は株式会社林原で、同社は令和6年(2024年)4月に社名をナガセヴィータ株式会社へ改めた。

適用された登録基準は2種類に分かれる。本館は「造形の規範となっているもの」。前川國男が設計した近代建築としての質そのものが評価された。長屋門と3棟の蔵は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、武家屋敷の門と蔵が石垣の上に並ぶ景観に重心が置かれている。

竣工年で並べると、長屋門が江戸末期、東蔵と中蔵が明治前期、西蔵が明治14年(1881年)、本館が昭和38年(1963年)。およそ130年の幅をもつ建物が、同じ日に1件ずつの登録有形文化財として登録されたことになる。

林原美術館の敷地の歩き方

林原美術館の敷地は東側の道路に面している。入口は長屋門で、東を向いて建つ門をくぐると、石垣に沿って石段が上り、その先に本館の入口が開く。敷地の高低差をそのまま使ったこのアプローチも、前川國男の計画の一部である。

本館は敷地の中ほどを占め、竹を植えた中庭を囲んで展示室がL字に巡る。土蔵3棟は敷地の北の縁、石垣に沿って東から東蔵・中蔵・西蔵の順に並ぶ。建築面積は東蔵89平方メートル、中蔵148平方メートル、西蔵176平方メートルで、西へ行くほど大きくなる。文化庁の写真はいずれも南面を正面として撮っている。

歩く順序は、門で武家屋敷の構えを見て、石段を上がって本館へ入り、展示室を一巡してロビーへ戻る、という流れになる。蔵は北の端にまとまっているため、どの位置から外観を見られるかは、来館したときに受付で確かめておくと迷わない。

林原美術館の開館時間・入館料・アクセス

林原美術館の開館時間は午前10時から午後5時で、入館の受付は午後4時30分に締め切られる。休館日は毎週月曜日(祝日など休日にあたる場合は翌日)、展示替えの期間(不定期)、年末年始。常設展示がないため、展示替えの期間は館全体が閉まる点に気をつけたい。

入館料は企画展の場合、一般(高校生を含む)600円で、中学生以下と友の会会員は無料。20名以上の団体と、障がい者手帳・療育手帳を持つ本人は500円で、介助者は1名まで無料となる。特別展と特別企画展は展覧会ごとに料金が定められる。

JR岡山駅からは歩いて約25分。バスは岡電バスの高屋行き、または宇野バスの瀬戸駅前行き・四御神行きに乗り、「県庁前」で降りて徒歩3分。路面電車なら東山行きで「県庁通」下車、徒歩7分である。問い合わせ先の電話番号は086-223-1733。

車椅子で訪れる場合は、長屋門を入ってすぐ右手の内線電話(内線13番または14番)で館員を呼ぶと、リフトでスロープまで上げてもらえる。館内には車椅子用のトイレもある。写真撮影の条件は公式の利用案内に書かれていないので、撮りたい場合は受付で確かめてほしい。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)林原美術館本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014670
国指定文化財等データベース(文化庁)林原美術館長屋門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014674
国指定文化財等データベース(文化庁)林原美術館中蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014672
岡山県 令和5年度の登録有形文化財(建造物)
https://www.pref.okayama.jp/page/870253.html
岡山県 林原美術館本館、東蔵、中蔵、西蔵、長屋門(PDF)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/350711.pdf
林原美術館 美術館概要
https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/about/
林原美術館 利用案内
https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/guide/
林原美術館 林原美術館の登録有形文化財(建造物)について
https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/1300/info_tpl/
Hayashibara Museum of Art(英語版案内)
https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/en/
ナガセヴィータ Sustainability Communication Book 2024(社名変更の記載)
https://group.nagase.com/viita/assetfiles/uploads/jp/6q83UerVuHSBL68EworV0Y.pdf

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称林原美術館
所在地岡山県岡山市北区丸の内二丁目7-115
所有者ナガセヴィータ株式会社
指定登録有形文化財 5件
座標34.66381, 133.93335