前川國男が初めて設計した美術館
林原美術館本館は、岡山県岡山市北区丸の内の岡山城二の丸跡に昭和38年(1963年)に建てられた鉄筋コンクリート造の美術館建築で、令和5年(2023年)に国の登録有形文化財に登録された。設計は前川國男建築設計事務所、施工は荒木組。地上2階・地下1階で、建築面積は938平方メートルある。昭和61年(1986年)に増築を受けている。
前川國男(1905〜1986年)は昭和3年(1928年)にフランスへ渡ってル・コルビュジエのもとで学び、戦後の日本の近代建築を先頭で引っ張った建築家である。岡山では県庁舎(1957年)、天神山文化プラザ(1962年)に続く仕事になる。新築の美術館としては岡山市で最初の例で、前川本人にとっても初めての美術館だった。
林原美術館本館の敷地には、江戸時代、岡山藩主池田家の二の丸屋敷の対面所があった。城の内堀のすぐ西という場所に、前川は周囲の石垣と釣り合う低い建物を置いた。
「造形の規範」とされた二つの理由
林原美術館の登録建物5棟のうち、「造形の規範となっているもの」の基準で登録されたのは林原美術館本館だけである。文化庁の国指定文化財等データベースの解説は、その理由を平面の組み立て方と、外壁の材料・工法の二つに分けて示している。
中庭を巡る「一筆描き」の平面
建物の中心には竹を植えた中庭がある。展示室は単位となる空間をL字につないで中庭を囲み、来館者は歩みを止めずに一巡してロビーへ戻ってくる。前川はこの考え方を「一筆描き」と呼んだ。文化庁の近現代建造物の調査報告は、師のル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館の回遊する平面からの影響を指摘している。
同じ報告は、この流れるような平面がのちの埼玉県立博物館(1971年)や熊本県立美術館(1977年)に発展していったと位置づける。前川の美術館建築の系譜は、林原美術館本館から始まっている。
焼過ぎ煉瓦とPC板
外壁には、高い温度で焼き締めて色も形も不揃いになった焼過ぎ煉瓦を張った。一方、南面の小さな庇や格子、ロビーのカウンター、展示ケースの円弧形の巾木といった細かな部材は、工場で成形するプレキャストコンクリート(PC板)でつくっている。
1960年代の前川は、打放しコンクリートから離れ、工場製の部材で生産性と仕上がりの精度を両立させる方向へ進んでいた。煉瓦で建物を包む手法は、のちに型枠へタイルを打ち込む外装へつながっていく。文化庁の解説が「後の前川の作品に通じる」と書くのは、この二つの技術的な試みを指している。
林原美術館本館で見ておきたいところ
長屋門をくぐって石段を上がる途中で、林原美術館本館の北東の隅を見上げたい。下から石積みの壁、PC板、焼過ぎ煉瓦と、3種類の材料が一つの角に集まっている。煉瓦は1枚ずつ焼き色が違い、近くで見ると赤褐色から黒に近いものまで混じる。この不揃いが、壁一面に手ざわりのある表情を生んでいる。
館内に入ると、正面のガラス越しに竹林の中庭が見える。展示室は中庭の右手にL字に続き、反時計回りに進むと自然にロビーへ出る。順路の表示を探さなくても迷わない。
ロビーのラウンジは、展示室の通路より750ミリ低い。事務室とともに一段下げてあり、南側の庭とつながる。展示を見終えて段を下りると、天井の高さも視線の先も変わる。文化庁の調査報告は、この高低差を「鑑賞」と「余韻」を切り替える仕掛けとして読んでいる。
南の庭は彫刻家の流政之が設計した。ラウンジから庭の方向を見ると、PC板の小庇と格子が細かく並ぶ南面の造りがよく分かる。
林原美術館本館を見学するには
林原美術館本館はいまも美術館として使われている建物で、開館日に入館料を払えば展示室とロビーに入れる。常設展示がなく、企画展と特別展の会期中だけ開いているため、展示替えの期間は建物の内部も見られない。会期は公式サイトの年間予定表で先に確かめておきたい。
建物の中を撮影したい場合、公式の利用案内には撮影についての記載がないので、入館時に受付で尋ねるのが確実である。車椅子の場合は、門の内側の内線電話で館員を呼ぶとリフトとスロープで入館できる。
Q&A
- 林原美術館本館は誰が設計しましたか?
- 前川國男建築設計事務所の設計で、施工は荒木組です。前川國男にとって初めての美術館の設計でした。
- 林原美術館本館はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか?
- 昭和38年(1963年)の建築で、昭和61年(1986年)に増築されています。令和5年(2023年)8月7日に登録有形文化財(建造物)として登録されました。
- 林原美術館本館の「一筆描き」の平面とはどんなものですか?
- 竹林の中庭を囲んで展示室をL字につなぎ、立ち止まらずに一巡してロビーへ戻れるようにした平面です。前川國男自身がこの呼び方をしています。
- 林原美術館本館の外壁の煉瓦にはどんな特徴がありますか?
- 高温で焼き締めた焼過ぎ煉瓦で、色と形が1枚ずつ異なります。のちに前川が用いた打込みタイルの外装につながる手法とされています。
- 林原美術館本館の内部は見学できますか?撮影はできますか?
- 開館日に入館料を払えば展示室とロビーに入れます。展示替えの期間は休館です。撮影の条件は公式の利用案内に記載がないため、受付で確認してください。
基本情報
| 名称 | 林原美術館本館 |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県岡山市北区丸の内2丁目7-115 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 令和5年(2023年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造2階地下1階建、建築面積938平方メートル |
| 所有者 | ナガセヴィータ株式会社 |
| 公開状況 | 美術館として開館日に公開(入館料が必要) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)林原美術館本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014670
- 文化庁 近代の文化遺産の保存と活用 林原美術館
- https://www.bunka.go.jp/kindai/kenzoubutsu/research/okayama/005/index.html
- 岡山県 林原美術館本館、東蔵、中蔵、西蔵、長屋門(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/350711.pdf
- 林原美術館 建築家 前川國男の生誕120周年によせて
- https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/1651/info_tpl/
- 林原美術館 利用案内
- https://www.hayashibara-museumofart.jp/data/guide/
最終更新日: 2026.09.24