岩間山の中腹に建つ室町前期の本堂

本山寺の本堂は、南北朝の動乱期にあたる観応元年(1350年)に建てられた。岡山県内で現存する木造建築のなかでも古い部類に属し、長福寺の三重塔と並んで県下屈指の遺構に数えられる。所在地は岡山県北部、旧美作国にあたる久米郡美咲町定宗。山あいの道を登った先、岩間山の中腹に境内が開ける。

本山寺は天台宗の寺院で、本尊は観世音菩薩。山号を岩間山という。寺伝によれば大宝元年(701年)、狩人であった佐伯有頼が出家し、現在地より南方の山頂に堂を建てて新山寺と称したのが始まりとされる。創建から約五十年後、唐から渡来した高僧鑑真によって本山寺と改められたと伝わる。平安末期の天永元年(1110年)に現在地へ移ってからは、山岳仏教の道場として、また庶民の信仰を集める霊地として栄え、最盛期には僧坊が百二十を数えたという。

こうした歴史のなかに、後世へ続く一筋の縁がある。長承元年(1132年)、後に浄土宗の宗祖と仰がれる法然の両親、漆間時国夫妻がこの寺に参詣し、子を授かるよう祈願したと伝わる。法然は同じ久米の地で生まれており、本山寺は今も子宝や安産を願う人々が訪れる寺となっている。

重要文化財に指定された理由

本堂は大正12年(1923年)3月28日に国の重要文化財に指定された。その価値は、建立年代の古さと建築様式の両面にある。観応元年(1350年)という建立時期は、美作地方に残る寺院建築のなかでもとりわけ早く、県内有数の古建築として知られている。

十四世紀半ばの日本の寺院建築では、それまでの和様に、大陸から伝わった大仏様や禅宗様(唐様)が加わり、複数の様式が併存していた。本山寺本堂は、これらを意図的に組み合わせた折衷様の系譜に属する。和様を基調とした構造に、禅宗様の細部の意匠を取り入れた点が特徴である。様式の混在は、建築の作り手が広がりつつある形式の選択肢から自由に取捨選択していた時代の様相を示しており、中世建築を考えるうえで重要な手がかりとなる。

建物は桁行五間、梁間五間、一重の規模をもち、屋根は寄棟造で、檜皮を重ねて葺いている。間口が広く軒の高さを抑えた構成は、堅実でありながら格式を備えた外観を生んでいる。

訪れた際に注目したい見どころ

本堂を正面から眺めると、まず目に入るのが向拝である。入口の階段の上に一間分が張り出し、その上に向唐破風が架かる。緩やかにうねる曲線をもつこの破風は、日本の屋根の造形のなかでも特徴的な形のひとつで、背後に広がる寄棟屋根の長い稜線に対して、正面に一点の見どころと動きを添えている。

檜皮葺の屋根も、時間をかけて見たい部分である。瓦と異なり、檜皮葺は職人の手の感覚によって形が決まる。柔らかな軒先と深い出は、その下の木組みに濃い影を落とす。横手に回って眺めると、屋根の緩い勾配と張り出した軒が、この建物の印象の多くを生み出していることがわかる。

本堂は単独で建っているわけではない。背後には承応元年(1652年)、津山藩主森忠政によって建てられた三重塔がそびえる。これも国の重要文化財で、高さ26.4メートルは岡山県下の三重塔として最大、檜皮葺の屋根が周囲の杉木立のなかに段を重ねている。塔の脇には建武2年(1335年)造立の宝篋印塔が立つ。境内に現存する建造物として最も古く、これも国指定の文化財である。ほかにも永正16年(1519年)の常行堂や貞享3年(1686年)の仁王門など、県指定の建造物が境内に並ぶ。

境内の環境そのものも訪問の魅力となる。杉の木立と点在する堂塔に包まれた一帯は、静かで荘厳な雰囲気をたたえ、同じ天台宗の比叡山延暦寺を思わせる。日によっては参拝者の姿もまばらで、山中の静けさのなかで建物と向き合える。

本山寺の周辺

寺は岡山県北部の山中にあり、訪れるには多少の計画が要る。車であれば中国自動車道の津山インターチェンジからおよそ30分。鉄道の場合、最寄りはJR津山線の弓削駅で、そこからタクシーでおよそ20分の道のりとなる。境内には広い駐車場が設けられている。

本山寺は、法然にゆかりのある周辺の寺社とあわせて巡るとよい。法然の生誕地に建つ誕生寺は隣接する久米南町にあり、車で近く、県内有数の大仏を擁する。近くの斜面に階段状に広がる上籾の棚田は、田植えや稲刈りの季節に多くの撮影者を集める。美咲町は卵かけご飯でも全国に知られ、これを看板に掲げる食堂が地元にいくつもある。さらに足を延ばせば、血洗の滝や、毎年8月に両山寺で深夜に営まれる護法祭も同じ久米郡の内にある。

Q&A

Q本堂の内部に入れますか。拝観料は必要ですか。
A本山寺は現在も活動している寺院で、境内は基本的に拝観料なしで歩いて巡ることができます。本堂は外観からの拝観が中心で、本尊の観世音菩薩は通常は公開されない秘仏です。拝観時間や内部の公開状況は変わることがあるため、内部の拝観を希望する場合は事前に寺へ問い合わせるのが確実です。
Q車がなくても行けますか。
AJR津山線の弓削駅まで行き、そこからタクシーで20分ほどです。タクシーは駅で手配できます。寺の門前まで直通する公共交通はないため、時間に余裕をもち、帰りの交通手段も出発前に確認しておくと安心です。
Q訪れるのに適した時期はいつですか。
A木立に包まれた境内は一年を通して見ごたえがあります。晩春の新緑や秋の紅葉が檜皮葺の屋根に映える時期はとくに印象に残ります。山中のため冬は冷え込みます。積雪が予想されるときは暖かい服装を整え、路面の状況を確認してください。
Q香川県にある国宝の本山寺と同じ寺ですか。
A別の寺院です。香川県三豊市には同名の本山寺があり、その本堂は正安2年(1300年)の建立で国宝に指定されています。ここで紹介する美咲町の本堂は観応元年(1350年)の別の建物で、区分は重要文化財です。名称が同じため混同されやすいので注意してください。

基本情報

名称本山寺本堂(ほんざんじほんどう)
所在地岡山県久米郡美咲町定宗
寺院本山寺(天台宗・山号 岩間山)
建立年代観応元年(1350年)・室町前期
指定区分重要文化財(大正12年〔1923年〕3月28日指定)
員数1棟
構造及び形式桁行五間、梁間五間、一重、寄棟造、向拝一間、向唐破風造、檜皮葺
所有者本山寺
アクセス中国自動車道 津山ICから車で約30分/JR弓削駅からタクシーで約20分・駐車場あり

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3101
文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146798
本山寺(岡山県美咲町)― ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/本山寺_(岡山県美咲町)
本山寺|岡山観光WEB(岡山県公式観光サイト)
https://www.okayama-kanko.jp/spot/11898

最終更新日: 2026.06.02