承応元年に再建された美作最大の三重塔
岡山県北部、美咲町定宗の山中に高さ約26メートルの三重塔が立つ。本山寺の三重塔で、岡山県内の三重塔としては最も大きい。承応元年(1652年)、津山藩二代藩主の森長継が再建したもので、建立年を記した棟札が塔とともに残されている。
参道から見上げる姿は、各重とも三間四方の整った三重塔である。初重には擬宝珠高欄を付した縁がめぐり、中央の間には桟唐戸を構え、両脇の間は板張りとする。柱間を埋める中備えは、三間とも間斗束を置く。外観だけを見れば、近世以前の塔の形式を忠実に踏襲している。
特徴は内部の構造にある。深い軒の出を支えるために、組物だけに頼らず、内側から桔木と呼ばれる隠れた梃子材で軒の荷重を受ける。手先肘木の繋ぎ方にも、それまでとは異なる新しい手法が用いられている。外見は正統的でありながら、骨組みには次の時代の工法を取り込んだ塔である。
重要文化財に指定された理由
本山寺三重塔が国の重要文化財に指定されたのは、昭和55年(1980年)12月28日である。評価の核心は、外観と内部構造のずれにある。17世紀半ばには、後の時代の建築を方向づける構造手法が現れ始めていた。本塔は、そうした近世的な手法を、伝統的な意匠の塔のなかにいち早く採り入れた遺構の一つにあたる。
軒の支持に桔木を用いた点が、その代表である。隠された梃子材を用いることで、初期の塔が必要とした密な組物に頼らずとも、深い軒の出を確保できる。承応元年の段階で大型の塔にこの手法が使われていた事実は、日本の大工が軒の構造をどのように解決してきたかをたどるうえで、重要な手がかりとなる。
指定には、建立年を記す棟札も含まれている。年代を明示する同時代の文書資料を伴う建造物は多くない。古い木造建築の年代をめぐる推定の幅を、この棟札が大きく狭めている。
訪れる際の見どころ
塔そのものと同じくらい、そこへ至る道のりに見るべきものがある。石段を上り、貞享3年(1686年)の仁王門をくぐると、約4,200坪の境内に十数棟の堂塔が杉木立の間に並ぶ。木々が建物を覆い、三重塔は開けた境内の正面からではなく、幹の間から姿を見せる。
塔に近づいたら、見上げてほしい。桔木が支える深い軒の出は、真下から眺めると、重なり合う垂木が頭上に広がるさまがよくわかる。初重の擬宝珠高欄も、改めて目を向ける価値がある。
塔のほど近くには、建武2年(1335年)に造立された石造の宝篋印塔が立つ。本山寺に現存する建造物のなかで最も古く、これも国の重要文化財である。観応元年(1350年)建立の本堂も、同じく国の指定を受けている。三重塔は昭和62年(1987年)から平成元年(1989年)にかけて解体修理が行われており、現在見られる姿は再建当時の形によく近い。
周辺の見どころとアクセス
本山寺は、時間をかけて巡りたい寺である。三重塔と本堂のほかに、永正16年(1519年)の常行堂、森氏の霊廟として承応元年(1652年)に権現造で建てられ、のちに松平氏の霊廟となった御霊屋、弘化2年(1845年)の長屋などが残る。これらの多くは岡山県指定の文化財である。長屋は石垣の上に建ち、城郭を思わせる構えをもつ。
当寺は美作西国三十三所観音霊場の第1番札所であり、その歴史は浄土宗の宗祖と仰がれる法然ともつながる。長承元年(1132年)、後に法然となる人物の両親が、この寺で安産を祈願したと伝わる。法然の生誕地とされる誕生寺は、隣接する久米南町にあり、本山寺とあわせて訪ねやすい。
美咲町は卵かけご飯で全国に知られ、町内には地元産の卵を主役にした店が点在する。歩く人には、寺と血洗の滝、南東の吉井高原を結ぶ自然歩道が整備されている。
本山寺は山あいの奥まった場所にある。車であれば、中国自動車道の津山インターチェンジから約30分で、広い駐車場が設けられている。鉄道の場合は、最寄りのJR弓削駅からタクシーで約20分を要する。寺へ向かう道は所々狭いため、時間に余裕をもって向かいたい。
Q&A
- 三重塔はいつ、誰によって建てられたのですか。
- 承応元年(1652年)、江戸時代の初期に、津山藩二代藩主の森長継によって再建されました。建立年は、現存する棟札によって確かめられています。
- アクセスはどうなっていますか。
- 中国自動車道の津山インターチェンジから車で約30分で、駐車場があります。鉄道の場合はJR弓削駅からタクシーで約20分です。
- 塔の内部は見学できますか。
- 塔の内部は公開されていません。この種の塔では一般的なことです。境内は開かれており、塔は外から間近に見て、写真に収めることができます。
- 三重塔のほかに見ておきたいものはありますか。
- 観応元年(1350年)の本堂と、建武2年(1335年)の石造宝篋印塔は、いずれも国の重要文化財です。境内にはほかに、永正16年(1519年)の常行堂、承応元年(1652年)の御霊屋、貞享3年(1686年)の仁王門もあります。
基本情報
| 名称 | 本山寺三重塔(ほんざんじさんじゅうのとう) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県久米郡美咲町定宗 |
| 指定区分 | 重要文化財(国指定) 昭和55年(1980年)12月28日指定 |
| 年代 | 承応元年(1652年) 江戸時代初期 |
| 構造及び形式 | 三間三重塔婆、こけら葺 |
| 高さ | 約26メートル(岡山県内最大の三重塔) |
| 員数 | 1基(附 棟札1枚) |
| 所有者・宗派 | 本山寺(天台宗) |
| アクセス | 中国自動車道 津山ICから車で約30分/JR弓削駅からタクシーで約20分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3103
- 文化遺産オンライン
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/195760
- 岡山観光WEB(岡山県観光連盟)
- https://www.okayama-kanko.jp/spot/11898
- 岡山県「本山寺と血洗の滝を訪ねるみち」
- https://www.pref.okayama.jp/page/573759.html
最終更新日: 2026.06.02