田園の中に残る造り酒屋の屋敷構え
丸本家住宅及び丸本酒造は、岡山県浅口市鴨方町本庄にある慶応3年(1867年)創業の造り酒屋の屋敷で、明治中期から昭和初期に建てられた座敷屋・店・蔵など11件が平成15年(2003年)12月1日に国の登録有形文化財に登録された。
所有者は丸本酒造株式会社。代表銘柄に「竹林(ちくりん)」がある。浅口市の登録文化財一覧はこの屋敷を「丸本家住宅及び丸本酒造」11棟としてまとめて掲げるが、文化庁のデータベースでは11件がそれぞれ独立した登録で、登録番号は33-0066から33-0076まで連番で振られている。
敷地は田地に接している。一段下がった田との境を石垣で固め、南辺を道が通る。住まいの中心である座敷屋を仕込蔵や物置蔵が取り巻き、外から見えるのは蔵の白い壁と瓦屋根の連なりである。
酒造りは現在も続いている。蔵元は、登録された建物の中で今も醸造を行っていると案内しており、屋敷全体が博物館ではなく稼働中の事業所であることが、見学の条件を大きく左右している。
屋敷の配置 ― 南の進入路から北の水場まで
文化庁の解説文を突き合わせると、11件の位置関係がほぼ再構成できる。屋敷への入口は南側にあり、そこから北へ向かって商い、醸造、住まい、水場の順に並ぶ。
南面:店と表構え
屋敷の南面に進入路が開き、その西脇に丸本酒造店が建つ。2階建の店舗で、1階が土間と帳場、2階が座敷である。店の南方には脇門・塀及び石段があり、川に面して一段高く築いた石垣の上に塀を回し、店の出入口の前に切石積の石段を据える。敷地の南辺には、道に沿って折れ曲がる細長い南蔵が延びる。
西辺:仕込みと蒸米
店の西面はそのまま西蔵に接続する。西蔵は敷地の西の縁を限る仕込蔵で、その南の妻面に接して、敷地の南西端に酒米を蒸す釜場が建つ。店の背後から座敷屋へ向かう途中、西蔵の東側面に沿って取合廊下が延び、蔵の前の荷捌き場になっている。
中央:座敷屋と庭
蔵に囲まれた敷地の中央に座敷屋が北を正面にして建つ。接客のための座敷で、11件のうち唯一の明治期の建物である。座敷屋の南には庭があり、その南面と西面を丸本家住宅塀が仕切る。
東辺と北端:大型の蔵と井戸
座敷屋の東、高台に東蔵が建つ。建築面積747平方メートルで11件中最大の仕込蔵である。その東に長さ30メートルの細長い東囲蔵が並び、屋敷の東の縁をつくる。敷地の北端は水場で、上屋をかけた石造の井戸と、田との境の石垣がある。
歩く順序を仮に立てるなら、南の進入路から店と脇門を見上げ、西蔵と釜場の並びを確かめ、取合廊下を抜けて座敷屋へ、そこから東蔵・東囲蔵を経て北の井戸へ至る流れになる。ただし敷地内を自由に歩けるわけではない(後述)。
清水屋の創業と建物の年代
蔵元の会社案内によれば、初代の丸本嘉之松が慶応3年(1867年)に酒造業を興し、屋号を「清水屋」とした。水がよいことに由来すると伝わる。文化庁の解説文も、敷地北端の井戸を屋号のもとになった存在と位置づけている。
登録された11件の年代は大きく三つの層に分かれる。最も古いのが明治中期の座敷屋。次に大正初期の一群で、店・脇門と塀と石段・西蔵・南蔵・東囲蔵・住宅塀・井戸と石垣がここに入り、東蔵は大正2年(1913年)と年まで特定されている。最後が昭和初期で、昭和7年(1932年)頃の釜場と、同じ昭和初期の取合廊下が加わり、西蔵・東蔵・南蔵にも増築が施された。
この層は蔵元の沿革と重なる。沿革は、大正7〜8年(1918〜1919年)に鴨方の醸造場が13軒を数える酒造業の好況があったこと、昭和7〜11年(1932〜1936年)に新しい醸造機器の導入と醸造場の建設で増産を図ったことを記している。大正の蔵群と昭和初期の釜場・取合廊下は、それぞれの時期の設備投資の跡として読める。
構造にも時期の違いが出ている。西蔵・南蔵・東囲蔵・釜場・取合廊下の小屋組には洋式のトラスが使われる一方、東蔵は垂木や根太に至るまで丸太材で組まれている。外観は瓦葺と漆喰壁の伝統的な姿で揃えながら、屋根の内側では新しい架構を採り入れていった経緯がうかがえる。
11件の登録と、その評価のされ方
11件はすべて平成15年(2003年)12月1日付の登録で、告示は同年12月25日、第39回の登録にあたる。登録基準も11件すべてが「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
文化庁の解説文を並べて読むと、ほぼすべてが「屋敷のどの面の景観をその建物が担っているか」に言及している。店は屋敷南面の外観を整え、西蔵は西面と南面の景観の主要素とされ、東蔵は北東部、東囲蔵は東辺を受け持つ。南蔵については、規則正しく小窓を並べた長い壁面が周囲の田園風景と相まって独特の景観をつくると書かれている。個々の建物の意匠よりも、田地の中に一つの屋敷構えとしてまとまっている姿そのものが評価の中心にある。
蔵元と公益社団法人岡山県観光連盟は、丸本酒造を岡山県の酒蔵として初めて登録有形文化財となった酒造場と紹介している。
登録の日付については資料間に食い違いがある。蔵元と岡山県観光連盟は「平成15年9月19日」を挙げているが、文化庁のデータベースと浅口市の一覧はいずれも同年12月1日を登録年月日としている。本サイトは文化庁のデータベースに従った。9月19日が登録に先立つ手続きの日付にあたる可能性はあるが、公開資料では確認できていない。
訪ねる
丸本家住宅及び丸本酒造は稼働中の酒造場で、建物の内部を常時公開している施設ではない。敷地の奥まで入れるのは、予約制の蔵見学に参加した場合に限られる。
蔵見学
蔵見学は蔵元が定める開催日にだけ行われ、公式サイトの申込みページから予約する。時間は午前9時から午前11時までと、午後2時から午後4時までの2部制で、1回の定員は10〜15名程度。中学生以上が対象で、中学生と高校生は保護者の同伴が必要になる。料金は文化財保全料として1団体あたり30,000〜50,000円である。内容は酒蔵の説明、試飲、精米所の見学、質疑応答で、蔵元は案内が建物の解説ではなく酒造りの説明に沿って進むと明記している。
醸造場の衛生を守るための条件が細かい。当日は納豆・ヨーグルト・柑橘類を口にしないこと、入場前に石けんで手を洗うこと、帽子・白衣・マスクを着用すること(蔵元が用意する)が求められる。蔵の中は急な階段や配管が多く、小さな子どもや高齢の人の参加は控えるよう案内されている。
なお、公式サイトは令和8年(2026年)1月の告知で、現在は蔵見学の開催日を設けていないとしている。2026年9月25日に確認した時点でもこの告知が最新だった。訪問を考える場合は、まず開催の有無を問い合わせる必要がある。
酒の購入と営業日
岡山県観光連盟の案内では、酒蔵で酒を購入でき、試飲もできる。営業時間は午前8時から午後5時。日曜・祝日・ゴールデンウィーク・お盆・年末年始が休みで、春から夏にかけては土曜も休む。土曜休みの始まりを公式サイトは3月、岡山県観光連盟は4月としており、3月に訪れる場合は電話で確かめたい。電話は0865-44-3155。
交通
JR山陽本線の鴨方駅からタクシーで約15分。車なら山陽自動車道の鴨方インターチェンジから約5分で、普通車10台程度の駐車場がある。郵便の宛先は浅口市鴨方町本庄2485で、文化庁のデータベースでは字吉宗2485と表記される。
撮影について明文の規則は公表されていない。敷地や建物を撮りたい場合は、見学の申込み時か受付で確認するのが確実である。掲載した時間・料金・休業日は2026年9月25日時点で確認した情報である。
参考文献
- 国指定文化財等データベース 丸本家住宅座敷屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003695
- 国指定文化財等データベース 丸本酒造店(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003697
- 国指定文化財等データベース 丸本酒造東蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003702
- 国指定文化財等データベース 丸本酒造南蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003704
- 国指定文化財等データベース 丸本酒造井戸及び石垣(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003705
- 文化遺産オンライン 丸本酒造店
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/116777
- 浅口市内の国登録有形文化財一覧(浅口市教育委員会ひとづくり推進課)
- https://www.city.asakuchi.lg.jp/page/2031.html
- 丸本酒造|岡山観光WEB(公益社団法人岡山県観光連盟)
- https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_11569.html
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 丸本家住宅及び丸本酒造 |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県浅口市鴨方町本庄字吉宗2485 |
| 所有者 | 丸本酒造株式会社 |
| 指定 | 登録有形文化財 11件 |
| 座標 | 34.56406, 133.58918 |