備中の山あいに残る禅院の伽藍

洞松寺は、岡山県小田郡矢掛町横谷の舟木谷にある曹洞宗の禅寺で、応永19年(1412年)に喜山性讃(きさんしょうさん)が中興し、元禄10年(1697年)建立の本堂をはじめとする境内の9棟1基が平成23年(2011年)7月25日に国の登録有形文化財となった。読みは「とうしょうじ」、山号を舟木山という。

寺の始まりは古く、天智天皇の行幸にちなんで奈良の興福寺ゆかりの仏を迎え、法相宗の寺として開かれたと伝える。ただしこれは寺伝であり、確かな足取りが見えてくるのは室町時代からである。

応永19年、信濃出身の禅僧・喜山性讃が、備中猿掛城主の庄氏の帰依を受けて寺を曹洞宗として再興した。喜山は自分の師である恕仲天誾(じょちゅうてんぎん)を開山として迎え、自らは二世に座った。矢掛町教育委員会によれば、洞松寺はその後、庄氏や毛利氏の保護を受け、最盛期には備中国を中心に1,200の末寺を従える中本山となった。庄氏一族や家臣が寺に宛てた室町から安土桃山時代の古文書43通が「洞松寺文書」として伝わり、平成16年(2004年)に岡山県の文化財に指定されている。

いまの洞松寺は、観光寺院というより修行の場である。平成26年(2014年)には、曹洞宗が外国籍の僧侶を育てる「宗立専門僧堂」がここに併設された。境内を歩けば、作務衣姿の海外の修行僧とすれ違うことも珍しくない。

二ノ門から開山堂まで、一本の軸で歩く

伽藍は南北に長い谷の奥に、ほぼ一直線に並ぶ。参道を谷の奥へ向かって進むと、まず二ノ門が現れる。瓦屋根の小さな門で、ここから山門まではおよそ250メートル。境内の手前で東西に流れる水路を石橋で渡ると、正面に山門が立ちはだかる。

山門は天保10年(1839年)に再建された重層の門で、町内最大の門とされ、矢掛町の文化財に指定されている。国の登録から外れているのはこの山門だけで、それ以外の境内の建物はすべて登録有形文化財である。山門の両脇からは白い漆喰の土塀が延びている。

山門をくぐった正面、境内のいちばん奥に、北を向いて本堂が建つ。本堂の背後には位牌堂を挟んで開山堂が続き、門・本堂・開山堂が同じ軸に乗る。本堂の東には鐘楼を介して禅堂及び接賓が南北に長く延び、その北側の一郭に住職の居所だった書院月泉院が、土塀と小さな門に囲まれて建つ。西側には方丈及び書院と庫裏がつながって並び、庫裏は中庭を挟んで禅堂と向かい合う。

修行の場である禅堂と、寺の台所である庫裏が向かい合わせに置かれるのは、禅宗寺院の古い約束事である。洞松寺では、その組み合わせが江戸時代の建物のまま残っている。建物の年代は、元禄10年の本堂から、天保9年(1838年)の禅堂及び接賓と鐘楼、明治期の月泉院や土塀、水路の石垣まで、およそ200年にわたる。

国の登録有形文化財 9棟1基

平成23年7月25日に、洞松寺の建物は一括して登録された。文化庁の登録番号は33-0240から33-0249まで連続している。登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

  • 本堂(元禄10年/1697年)
  • 開山堂及び位牌堂(享保年間)
  • 方丈及び書院(宝暦3年/1753年)
  • 庫裏(宝暦2年/1752年)
  • 禅堂及び接賓(天保9年/1838年)
  • 鐘楼(天保9年/1838年)
  • 書院月泉院(明治前期)
  • 門及び土塀(明治前期)
  • 水路石垣及び石橋(明治後期)
  • 二ノ門(江戸末期)

一棟ずつ見れば、地方の禅寺にある建物である。登録の意味は、禅宗寺院に必要な建物が一つの境内にそろい、江戸中期から明治にかけて順々に整えられた伽藍の全体が崩れずに残っている点にある。境内一帯は、平成16年に矢掛町の文化財としても指定を受けている。開山堂に安置される喜山性讃と恕仲天誾の坐像2体は、岡山県の文化財である。

拝観とアクセス

洞松寺は現役の修行道場である。境内の参拝について、拝観料や受付時間を定めた案内は、寺と曹洞宗の公式情報のいずれにも見当たらなかった。建物の多くは修行僧の生活と修行の場であり、内部は基本的に外から眺めることになる。堂内の見学や坐禅への参加を望む場合は、事前に寺へ問い合わせたい。電話は0866-82-0087。

曹洞宗の寺院検索サイトによれば、外国人の参禅は英語で随時受け付けており、朝は午前4時10分から6時10分、夜は午後7時10分から9時までの坐禅に無料で加わることができ、宿泊も相談できる。一般向けの坐禅会も行われており、令和6年(2024年)1月には大本山總持寺と結んだ坐禅行事の会場にもなった。

撮影の可否を定めた公式の案内も確認できなかった。坐禅や作務の最中の修行僧にカメラを向けるのは控え、建物を撮る場合も声をかけてからにしたい。

電車の場合は、JR岡山駅から伯備線で総社駅へ出て、井原鉄道に乗り換え、三谷駅で下りる。三谷駅からは徒歩で30分ほど。山陽新幹線の新倉敷駅からタクシーを使えば20分ほどで着く。車で訪ねる場合、寺の一般駐車場(無料)を使える。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)「洞松寺本堂」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008763
国指定文化財等データベース(文化庁)「洞松寺二ノ門」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008771
矢掛町教育委員会「矢掛の文化財」国指定・登録文化財(洞松寺)
https://bunkazai.yakage-kyouiku.info/shiteibunkazai/nicp
矢掛町教育委員会「矢掛の文化財」町指定文化財・建造物(洞松寺山門)
https://bunkazai.yakage-kyouiku.info/shiteibunkazai/ticp/ticp_1
矢掛町教育委員会「矢掛の文化財」町指定文化財(洞松寺境内)
https://bunkazai.yakage-kyouiku.info/shiteibunkazai/ticp/ticp_7
矢掛町教育委員会「矢掛の文化財」県指定文化財(木造伝喜山性讃坐像ほか)
https://bunkazai.yakage-kyouiku.info/shiteibunkazai/picp
曹洞宗 曹洞禅ネット「洞松寺 (Tosho-ji)」坐禅のできるお寺
https://www.sotozen-net.or.jp/zazenlist-fo/tosho-ji
曹洞禅ナビ(曹洞宗公式寺院ポータル)「洞松寺」
https://sotozen-navi.com/detail/index_330028.html
大本山總持寺「總持寺 世界禅Challenge 洞松寺会場」
https://www.sojiji.jp/zen-in-one/toshoji/

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称洞松寺
所在地岡山県小田郡矢掛町横谷字舟木谷3796
所有者宗教法人洞松寺
指定登録有形文化財 10件
座標34.59078, 133.61970