ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第二工場―キングポストトラスが架かる工場
第二工場は昭和十二年(1937年)、先行する長大な第一工場の北方に、直交して建てられた。二棟はL字に取り合う。桁行は約四四メートル、木造平屋建、鉄板葺、建築面積521平方メートル。文化庁のデータベースは、この二棟を併せて「工場の中核をなす建築」と記す。
二棟の間に横たわる三年は、東城の一鉄工所が全国に販路を持つメーカーへ変わっていった時間でもある。大正四年(1915年)に家庭用鋳物の製造から出発した山本鉄工所は、発動機や製材機の修理を経て、帝釈川発電所ダム工事などで持ち込まれた外国製さく岩機の修理を引き受けたことから、自社製さく岩機の開発へ進んだ。昭和九年に第一工場、昭和十二年に第二工場。そして昭和十四年二月、資本金百三十万円で株式会社山本鐵工所が設立される。
この順に並べると、第二工場が何であるかは明快である。最初の工場が満杯になった会社が建てる、二棟目の工場だ。
登録の理由と価値
第二工場は平成二十八年(2016年)二月二十五日、登録番号34-0157として第八十三回登録に加えられた。同日、社有地とその周辺で八棟が登録されている。
登録は指定とは別の制度である。平成八年(1996年)の文化財保護法改正で創設され、寺社や城郭を念頭に組み立てられてきた従来の指定制度では扱いにくい近代建造物に、保護の枠組みを与えることを目的とした。大規模な改変は許可制ではなく届出制で、建物が仕事を続けることが前提とされる。2016年に登録されたヤマモトロックマシンの建物群は、いずれも当時使われており、その多くが今も使われている。
適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。東城で評価されたのは、近代の工場群としては珍しく揃った一式だった。主要な工場二棟に仕上げ工場、便所棟、青年学校、そして道を挟んだ自治寮施設群。すべて木造で、一社が十数年の間に建て継いだものである。第二工場は、その群に平面の骨格を与えている。一棟の長い建屋だったものが、この棟の追加で敷地を囲む配置へ変わった。
見どころ
小屋組が第一工場との違いを最もよく示す。第一工場が梁間を三スパンに分け中央を持ち上げて採光の問題を解いたのに対し、第二工場はキングポストトラスで梁間を一気に架け渡す。頂点から陸梁の中央へ一本の真束を下ろし、そこから斜材を垂木へ張り出す形式で、標準的なトラスのなかでは最も簡素であり、この規模の梁間には材料の面でも合理的である。
トラスの上には越屋根が載る。第一工場と同じ装置で、熱を抜き、棟に沿って光の帯を加える。
そして窓。南妻面と両側面には上下窓が並ぶ。鍛冶場よりも学校や事務所に近い立面のリズムをつくる窓割りである。同じ日に登録された仕上げ工場は、南妻面の窓上部を欠円アーチ形とし、内部にはクイーンポストトラスを架けて、この方向をさらに進めた。二棟を見比べると、昭和初期の地方の工事者が洋風構法の語彙をどう咀嚼していったかが読み取れる。
外壁の仕上げも見ておきたい。壁はモルタル仕上げで、腰には洗出しが施されている。まだ硬化しきらないうちに表面を洗い、混ぜ込んだ骨材の石を出す手間のかかる技法で、本来は商家の店構えや上等な住宅に使われるものである。山間の町の工場にこれが用いられていること自体が、会社がこの建物をどう位置づけていたかを示している。
見学の条件は限られる。私有地に建つ稼働中の工場で、来訪者向けの設備も常設の公開もない。保存活用に取り組む有志が会社と共に不定期の見学会を開き、年によっては十一月初旬の「お通り」に合わせて内部が公開されてきたが、毎年の恒例ではない。内部を見たい場合は庄原市の観光協会などへ事前に問い合わせるのが確実である。二棟が取り合う角のあたりの外観は、公道から眺めることができる。
Q&A
- キングポストトラスとはどのような小屋組ですか。
- 棟から陸梁の中央へ一本の真束(キングポスト)を下ろし、斜材で垂木を支える洋式のトラスです。簡素で経済的、工場程度の梁間に適します。隣接する仕上げ工場は真束を二本立てるクイーンポストトラスで、中央に空間が空くのが違いです。
- 第一工場とはどのような位置関係ですか。
- 第一工場の北方に、直交して建っています。昭和九年竣工の第一工場は桁行七八メートル、昭和十二年竣工の第二工場は桁行約四四メートル。文化庁は両者を併せて工場の中核をなす建築と位置づけています。
- 洗出し仕上げとは何ですか。
- 骨材を混ぜた塗り壁が硬化しきる前に表面を水で洗い流し、中の石を露出させる左官の技法です。この建物では外壁の腰の部分に用いられ、その上はモルタル仕上げとなっています。
- 今も生産に使われているのですか。
- 敷地は現在も同社の東城工場であり、登録建造物は展示物として保存されるのではなく、使われ続けてきました。この継続こそ、登録制度が想定している姿でもあります。
- 東城へはどう行けばよいですか。
- 中国自動車道の東城ICが最寄りで、庄原ICから約30分、広島ICからは約90分です。JR芸備線の東城駅もありますが本数が限られるため、多くの来訪者にとっては車が現実的です。
基本データ
| 名称 | ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第二工場 |
|---|---|
| ふりがな | やまもとろっくましん(きゅうやまもとてっこうしょ)だいにこうじょう |
| 所在地 | 広島県庄原市東城町東城字下町6-3他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/種別 産業2次・建築物 |
| 登録年月日 | 平成28年(2016年)2月25日 登録番号34-0157 第83回登録 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 年代 | 昭和12年(1937年) |
| 構造及び形式 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積521平方メートル |
| 規模 | 桁行約44メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | ヤマモトロックマシン株式会社 |
| 公開状況 | 非公開(稼働中の工場・私有地)。不定期の見学会のみ、事前確認が必要 |
| 交通 | 中国自動車道 東城ICから車で約5分/JR芸備線 東城駅 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヤマモトロックマシン(旧山本鉄工所)第二工場」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010993
- 庄原市「登録文化財」
- https://www.city.shobara.hiroshima.jp/main/education/shogaigakushu/cat02/02/post_192.html
- ヤマモトロックマシン株式会社「会社案内・沿革」
- https://yrm.co.jp/company-info/
最終更新日: 2026.07.22