江戸堀コダマビル:大阪の都心に佇む1935年築のスパニッシュ和洋折衷住宅

大阪市西区の肥後橋駅からほど近い静かな路地に、周囲の高層オフィスビルとは一線を画す温かみのある佇まいの建物があります。江戸堀コダマビルは、1935年(昭和10年)に綿布商・児玉竹次郎の本宅として建てられた鉄筋コンクリート造の近代建築です。スパニッシュスタイルと日本の伝統意匠が見事に融合したこの建物は、2007年に国の登録有形文化財に登録され、2014年には「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」にも選定されました。昭和初期の大阪商人の暮らしを今に伝える、貴重な「生きた建築」です。

児玉竹次郎の物語:丁稚奉公から綿布商へ

江戸堀コダマビルの歴史は、建築主である児玉竹次郎の立身出世の物語と深く重なります。竹次郎は1878年(明治11年)に岐阜県で生まれ、12歳で大阪へ丁稚奉公に出ました。長年の修業を経て、1902年(明治35年)に靱上通で独立し、「児玉竹平商店」を設立。ミシンや蒲団などの道具一式を借り受け、ワイシャツ・カラー・カフスの製造販売を始めました。やがて綿布商として大きな成功を収めます。

事業の成功を受けて、1935年に江戸堀北通1丁目に自邸を建設しました。設計は岡本工務店所属の山中茂一が担当。岡本工務店は、近隣にある日本基督教団大阪教会をはじめ、アメリカ人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの作品を数多く手がけた実績があり、そのヴォーリズ譲りのスパニッシュスタイルが本建物にも色濃く反映されています。

戦火を免れた奇跡と変遷の歴史

第二次世界大戦における大阪大空襲では、周辺一帯が焼け野原となり、児玉竹平商店の店舗も焼失しました。しかしこの本宅は、鉄筋コンクリートの耐火構造であったことに加え、裏手に江戸堀川が流れていたことが幸いし、奇跡的に戦火を免れました。

戦後、児玉家は兵庫県宝塚市に移住し、建物は住宅として一棟貸しされました。1967年から1978年にかけては会員制クラブ「大阪精華倶楽部」として利用され、1972年には竹次郎の孫・竹之助の管理に移ります。1978年の全面改修を経てテナントビルに転換。1982年には日本建築学会の『日本近代建築総覧』に「明治、大正、昭和の保存すべき貴重な建築物」として掲載されました。1986年には1階の一部に本格的な音響特性を備えた音楽レッスンホールが開設され、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーなど著名な音楽家が大阪でのコンサートの際に練習に利用しています。

文化財としての価値

江戸堀コダマビルは、2007年(平成19年)10月2日に国の登録有形文化財に登録されました。登録にあたっては、間口わずか7.9メートルの南北に細長い敷地を最大限に活かした立体的な空間構成が高く評価されています。光庭(ひかりにわ)を建物の中核に据え、地下1階から屋上まで巧みにプランニングを施した構造は、都市型住宅の優れた事例として認められました。

鉄筋コンクリート造地上3階地下1階建、塔屋付きで、建築面積は111平方メートル。外観はスパニッシュスタイルでまとめられ、限られた都市の土地に対して創造的な解決策を示した昭和初期の住居建築として、建築史上重要な位置を占めています。

建築の見どころ:スペインと日本が出会う場所

江戸堀コダマビルの最大の魅力は、西洋と日本の意匠が自然に調和している点にあります。ヴォーリズ建築を多く手がけた岡本工務店の影響を受けたスパニッシュスタイルが基調となっており、温かみのあるスタッコ(漆喰)仕上げの外壁、正面右側の半円形のバルコニーと鉄製の装飾的な手摺が特徴的です。一方で、正面左側の窓周りには日本の伝統的な文様である「青海波(せいがいは)」が施され、寺社建築に見られる肘木や垂木を思わせる装飾も見受けられます。

エントランスのオープンテラスには、イタリア人デザイナーのクラウディオ・サロッキによるガラス屋根が架かり、その下には近隣の損害保険会社ビルから移された柱頭や、アーティスト大久保英治によるオブジェが飾られています。1階にはステンドグラスが現存し、建物に彩りを添えています。

住宅として使用されていた当時、内部は伝統的な大阪の町家のように、鰻の寝床状に奥まった構造の中に襖で仕切られた和室が並んでいました。地下には石炭を燃料とするボイラーが設置され、全館暖房が完備。水洗トイレと浄化槽も備えるなど、1930年代の個人住宅としては極めて先進的な設備を誇っていました。

現在のコダマビル:芸術・音楽・生活文化の発信地

現在の江戸堀コダマビルは、文化財としての価値を守りながら、多彩なテナントが入居する複合施設として活用されています。1階にはブティック「Bon Voyage」と本格的な音響設備を備えた室内楽練習室があり、2階にはイタリア資料室とビル事務所が入っています。ビルオーナーはイタリア共和国からコンメンダトーレの称号を受章しており、その縁でイタリアの現代美術や文化に関する貴重な資料が収蔵されています。3階の談話室は、文化イベントや展示会の会場として利用されています。

2006年に開設された「大正・昭和の家庭用品展示室」も見逃せません。宝塚の実家の蔵に保管されていた台所用品や生活雑貨などが展示されており、近代日本の暮らしぶりを身近に感じることができます。

毎年秋に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)」では、建物内部と展示室を無料で特別公開しています。普段は入れない空間を見学できる貴重な機会です。

アクセス・見学のご案内

江戸堀コダマビルは、大阪市西区の西船場エリアに位置し、近代建築が点在する趣のある地域にあります。Osaka Metro四つ橋線・肥後橋駅が最寄り駅で、駅から西へ江戸堀北通りを進むと、通りの南側に道路から少し奥まった場所に建っています。

建物の外観はいつでもご覧いただけます。内部の見学については、通常はテナントや貸室利用者に限られますが、毎年10月下旬に開催されるイケフェス大阪の期間中は、ガイドツアーや展示とともに無料で一般公開されます。談話室や室内楽練習室などの貸室は、事前予約で利用可能です。

周辺の見どころ

江戸堀コダマビルの周辺には、文化的・建築的に興味深いスポットが数多くあります。

  • 日本基督教団大阪教会:ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した赤レンガの教会。西船場エリアを代表する近代建築のひとつです。
  • 大阪中之島美術館:2022年に開館した現代美術の美術館。国内外の近現代美術作品を幅広く所蔵しています。
  • 大阪市立科学館:「宇宙とエネルギー」をテーマにした参加体験型の科学館。人気のプラネタリウムも併設しています。
  • フェスティバルホール:中之島にある世界的に著名なコンサートホール。卓越した音響でクラシックからポップスまで多彩な公演が行われています。
  • 靱公園:バラ園やテニスコートを備えた都市のオアシス。ビルから南へ徒歩圏内の憩いの場です。

Q&A

Q江戸堀コダマビルの内部は見学できますか?
A建物の外観はいつでもご覧いただけます。内部の一般公開は、毎年10月下旬に開催される「イケフェス大阪(生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪)」の期間中に行われます。また、室内楽練習室や談話室、会議室などの貸室は予約制でご利用いただけます。詳しくはビル事務所(06-6445-6020)にお問い合わせください。
Q最寄り駅からのアクセス方法を教えてください。
AOsaka Metro四つ橋線の肥後橋駅が最寄り駅です。駅から西へ江戸堀北通りを進むと、通りの南側に建物が見えます。所在地は大阪市西区江戸堀1-10-26です。
Q「大正・昭和の家庭用品展示室」とは何ですか?
A2006年に開設された展示スペースで、児玉家の宝塚の蔵に保管されていた大正から昭和初期の台所用品や生活雑貨を展示しています。当時の暮らしぶりを身近に感じられる貴重な展示です。
Qヴォーリズとの関係はありますか?
A江戸堀コダマビルはヴォーリズが直接設計したものではありませんが、施工を担った岡本工務店は、近隣の大阪教会をはじめヴォーリズの建築作品を多数手がけた経歴があります。そのため、ヴォーリズが得意としたスパニッシュスタイルの影響が本建物にも色濃く表れています。
Q見学に費用はかかりますか?
Aイケフェス大阪の期間中は無料で内部を見学できます。それ以外の時期に貸室をご利用の場合は利用料がかかります。詳細はビル事務所(06-6445-6020)までお問い合わせください。

基本情報

名称 江戸堀コダマビル(旧児玉竹次郎邸)
所在地 〒550-0002 大阪府大阪市西区江戸堀1-10-26
竣工 1935年(昭和10年)
設計 山中茂一(岡本工務店所属)
構造 鉄筋コンクリート造 地上3階地下1階建、塔屋付/建築面積111㎡
文化財指定 国登録有形文化財(2007年10月2日登録)
その他選定 生きた建築ミュージアム・大阪セレクション(2014年選定)/日本近代建築総覧掲載(1982年)
アクセス Osaka Metro四つ橋線 肥後橋駅より徒歩すぐ
電話番号 06-6445-6020
公式サイト https://www.edobori-kodamabuilding.com/

参考文献

江戸堀コダマビル - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/江戸堀コダマビル
江戸堀コダマビル|大阪市西区|近代建築|レンタルスペース(公式サイト)
https://www.edobori-kodamabuilding.com/
江戸堀コダマビル - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/182636
江戸堀コダマビル - 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006423
生きた建築ミュージアム・大阪セレクション 江戸堀コダマビル[旧児玉竹次郎邸] - 大阪市
https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000647421.html
江戸堀コダマビル[旧児玉竹次郎邸] - 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2025
https://ikenchiku.jp/ikefes2025/program/kodama-bl/

最終更新日: 2026.03.28