リバーサイドビルディング:中之島に佇むインターナショナルスタイルの名建築
大阪市北区中之島、土佐堀川のほとりに静かに佇むリバーサイドビルディングは、日本の戦後モダニズム建築を代表する優れた作品です。日本が高度経済成長のまっただ中にあった1965年(昭和40年)に竣工したこの鉄筋コンクリート造5階建てのオフィスビルは、東京大学教授として日本建築界に多大な影響を与えた建築学者・岸田日出刀の設計によるものです。2016年(平成28年)に国の登録有形文化財に登録され、文化財として認定された建造物の中でも比較的新しい建物として注目を集めています。周囲に林立する超高層ビルの中にあって、時が止まったかのような品格ある姿で、戦後日本の建築文化の粋を今に伝えています。
歴史的背景
堂島川と土佐堀川に挟まれた細長い中洲である中之島は、江戸時代から大阪の商業・文化の中心地として発展してきました。藩の蔵屋敷が立ち並び、世界初の先物取引市場とされる米市場が栄えた歴史を持ちます。明治期以降は、大阪府立中之島図書館(1904年竣工)や大阪市中央公会堂(1918年竣工)といった西洋建築の名作が建てられ、大阪の文化的中枢としての地位を確立しました。
リバーサイドビルディングが建つ以前、この場所には「クラブ・リバーサイド」と呼ばれる社交サロンがありました。各界の著名人が集う場として隆盛を誇り、土佐堀川から船で直接乗り付けることができたと伝えられています。1965年、現在のビルがオフィスビルとして竣工しました。所有者であるきりう不動産信託株式会社は、周辺の大規模再開発の中にあっても、この建物を大切に守り続けてきました。現オーナーの桐生幸之介氏は中之島生まれの中之島育ちで、地域のまちづくりにも深く関わる方です。
設計者・岸田日出刀について
岸田日出刀(きしだ ひでと、1899年〜1966年)は、東京大学工学部建築学科教授として、戦前から戦後にかけて日本の建築意匠設計分野で最高の権威として知られた人物です。内田祥三とともに設計した東京大学安田講堂(1925年竣工)は、大正から昭和への転換期を象徴する名建築として広く知られています。また、高知県庁舎、衆議院・参議院議長公邸、西本願寺津村別院(北御堂)など、数々の重要建築を手がけました。
岸田研究室からは、丹下健三(広島平和記念資料館、代々木国立競技場の設計者)、前川國男、立原道造、浜口隆一といった日本を代表する建築家・建築評論家が巣立ちました。リバーサイドビルディングは、岸田が亡くなるわずか1年前に完成した作品であり、彼の円熟したインターナショナルスタイルへの到達を示す晩年の代表作といえます。
文化財指定の理由
リバーサイドビルディングは2016年(平成28年)11月29日に登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化遺産オンラインの解説では「インターナショナルスタイルの事務所建築の秀作」と評価されています。登録の主な理由は以下の通りです。
第一に、高速道路の高架構造からヒントを得たとされる独創的な構造体系が挙げられます。建物の構造壁を内部の2本の大きな柱に集約し、そこから外側へ床をキャンチレバー(片持ち梁)で張り出すことで、建物の全長にわたる水平連続窓を実現しています。これにより、外壁面が構造的な制約から解放され、南北両面に途切れることのない帯状の窓が配されています。
第二に、建物の妻壁(両端の壁)が淡陶タイルによるモザイク状の装飾で飾られている点です。淡路島で生産されてきた伝統的なタイルを用いたこの装飾は、合理的なモダニズム建築に温かみのある工芸的な要素を加えています。
第三に、川と道路に挟まれた細長い敷地条件を活かし切った明快な建築構成が、インターナショナルスタイルの理念を高いレベルで体現している点が評価されています。
建築的見どころ
一見すると奇抜さのない控えめなビルですが、じっくり観察すると、卓越した設計思想を随所に感じることができます。
水平連続窓
建物の最大の特徴は、南北両面の全長にわたって伸びる水平連続窓です。北側の土佐堀川と南側の道路に面した両方の外壁に、途切れることなく帯状の窓が続きます。内部空間に立つと、一方に川の流れ、もう一方に都市の景色が広がり、まるで船上にいるかのような感覚を味わえます。この効果は、柱を内側に配置するキャンチレバー構造によって初めて実現されたものです。
高速道路の高架を思わせる構造
建物内部に入ると、大きな柱2本が室内に堂々と立っていることに気づきます。通常の建物では外壁沿いに柱を配しますが、このビルでは逆転の発想で柱を内部化し、そこから両側へ床を片持ちで張り出しています。この構造はまさに高速道路の高架橋のような原理で、窓面を分断しない広々とした眺望を獲得するための大胆な選択でした。
二倍の厚さの屋根構造体
屋上には通常の防水処理を施さず、構造躯体の厚みを通常の約2倍にあたる40センチメートルに設定しています。川辺に建つため土圧への対応という機能的な意味もありますが、高度経済成長期の豊かな建設予算があったからこそ実現できた贅沢な仕様といえるでしょう。
淡陶タイルのモザイク妻壁
細長い建物の両端にある妻壁は、淡陶タイルによるモザイク模様で飾られています。インターナショナルスタイルの合理的な外観の中に、地域の工芸的な温かみを添える洗練されたアクセントとなっています。
見学情報
リバーサイドビルディングは現在も民間のオフィスビルとして使用されているため、一般的な建物内部の見学には制限があります。ただし、2階にはコワーキングスペース「co-ba nakanoshima」が入居しており、ドロップインでの利用が可能です。文化財建築の中で仕事をするという贅沢な体験ができます。
毎年10月最終週末に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(Open House Osaka)」では、公開建物として参加した実績があり、普段は見られない内部を見学できる貴重な機会となります。2023年5月には「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」の第2期にも選定されました。
建物の外観は常時自由に見学・撮影が可能です。土佐堀川の対岸や中之島緑道からの眺めが特におすすめで、水平連続窓が際立つ午後の光の中での姿は格別です。
周辺情報
中之島エリアには文化施設や歴史的建築が数多く集まっており、リバーサイドビルディングを起点とした建築散策を楽しむことができます。
- 大阪市中央公会堂 — 1918年竣工のネオ・ルネッサンス様式の赤煉瓦建築で、国の重要文化財に指定されています。ステンドグラスや天井画が見事で、夜間のライトアップも幻想的です。東へ約800メートル。
- 大阪中之島美術館 — 2022年2月に開館した「黒い直方体」が印象的な美術館。近現代美術とデザインを中心に約6,000点以上のコレクションを所蔵しています。すぐ西側に位置します。
- 国立国際美術館 — 地下に展示空間を持つ独創的な美術館。ステンレスの竹をイメージしたエントランス構造が特徴的です。大阪中之島美術館に隣接しています。
- 大阪市立科学館 — 日本最大級のプラネタリウムを持つ体験型科学館。リバーサイドビルディングのすぐ西側にあります。
- 中之島公園・バラ園 — 中之島の東端に位置する大阪最古の公園。約310品種・3,700株のバラが5月と10月に見頃を迎えます。
- 中之島フェスティバルタワー — リバーサイドビルディングに隣接する超高層ツインタワー。フェスティバルホールやレストラン街、コンラッド大阪が入居しています。
Q&A
- リバーサイドビルディングの内部は見学できますか?
- 一般的なフロアの見学は制限されていますが、2階のコワーキングスペース「co-ba nakanoshima」はドロップインでの利用が可能です。また、毎年10月最終週末の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」では内部公開される場合があります。
- 設計者の岸田日出刀とはどのような人物ですか?
- 岸田日出刀(1899年〜1966年)は東京大学工学部教授で、建築意匠設計の第一人者でした。東京大学安田講堂の設計者として知られ、丹下健三や前川國男といった日本を代表する建築家を育てた教育者でもあります。リバーサイドビルディングは彼の晩年の作品です。
- リバーサイドビルディングへのアクセスは?
- 最寄り駅はOsaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」3番出口から徒歩約5分です。また、京阪中之島線「渡辺橋駅」からも徒歩約10分でアクセスできます。中之島三丁目、土佐堀川沿いに面して建っています。
- なぜ1965年の建物が文化財に登録されたのですか?
- 高速道路の構造からヒントを得た独創的な構造体系、全長にわたる水平連続窓、淡陶タイルによるモザイク装飾など、インターナショナルスタイルの事務所建築として極めて高い完成度を持つことが評価されました。登録有形文化財の中でも比較的新しい建造物として注目されています。
- 「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」とは何ですか?
- 大阪市が主催するプログラムで、歴史的・建築的価値を持ちながら現在も活用されている建物を「生きた建築」として選定するものです。リバーサイドビルディングは2023年5月に第2期選定建物に選ばれました。
基本情報
| 名称 | リバーサイドビルディング |
|---|---|
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2016年(平成28年)11月29日 |
| 設計 | 岸田日出刀(岸田建築研究所) |
| 竣工 | 1965年(昭和40年) |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造5階地下1階建、塔屋付 |
| 建築面積 | 175㎡ |
| 所在地 | 大阪府大阪市北区中之島3丁目1-8 |
| 所有者 | きりう不動産信託株式会社 |
| アクセス | Osaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」3番出口より徒歩約5分 |
参考文献
- リバーサイドビルディング — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/221277
- 国指定文化財等データベース — リバーサイドビルディング
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011350
- リバーサイドビルディング — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/リバーサイドビルディング
- リバーサイドビルの見どころ — co-ba nakanoshima (note.com)
- https://note.com/coba_nakanoshima/n/nfdc3473c0f85
- 生きた建築ミュージアム・大阪セレクション リバーサイドビルディング — 大阪市
- https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000647407.html
- 岸田日出刀 — 東文研アーカイブデータベース
- https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/9021.html
- 中之島散策 リバーサイドビルディングオーナー 桐生幸之介さん — 中之島スタイル
- https://www.nakanoshima-style.com/walk/6687
最終更新日: 2026.04.19