鉄道人が考案した、椅子の茶室

小林一三は茶道具を数千の単位で蒐集し、生涯の数寄者として茶の湯を修めた。だが同時に、彼は問題を解くことを好む実業家でもあった。昭和11年(1936)、池田の山荘の南東側に茶室を建てるにあたり、彼は古典的な茶室が持たないものを加えた。椅子である。即庵と名づけられたその茶室は、時代のなかでも独創的な一席であり、彼自身の発想から生まれた。

建物は南庭に面し、軽快な姿を見せる。入母屋造桟瓦葺、軒先を銅板葺とする。中心にあるのは三畳台目の茶室で、点前座の畳を短くとる台目の構えである。その二方に四半瓦敷の床が回り、椅子席が設けられて、客は椅子に腰かけて茶を喫することができる。トコと点前座が並び、天井は杉板を網代に張り、土間の上には竹垂木を見せる化粧屋根裏天井が架かる。

椅子は思いつきではない。一三は十席ほどの椅子席を、そこに腰かけた客が、畳に座す客と同じ目の高さで外を眺められるように配した。茶席の視界を共有する世界を保ったまま、正座の負担から身体を解くこと。それが狙いであった。

茶室が登録された理由

平成21年(2009)8月、即庵は山荘・正門・塀・もう一棟の茶室とともに、国の登録有形文化財に登録された。登録番号は27-0531。多くと同じく、国土の歴史的景観に寄与しているものという基準による登録である。その興味は、この茶室が試みたことにある。茶の伝統に深く浸った人物が、その最も動かしがたい約束事の一つ、すなわち座るという所作を、室の空間の論理を損なわずに改めたのである。

和洋の融合は、椅子にとどまらない。台目に短くとった点前座、網代の天井、露わな垂木という古典の語彙を、身体が室をどう占めるかを問い直す西洋の自在さと結び、それを昭和の名席と称されるほどの手際でなしている。庇に掲げられた扁額は、自らも著名な数寄者であった畠山一清の筆であり、この一室を、茶の道を真摯に修めた二十世紀初頭の実業家たちの交わりのなかに位置づけている。

即庵は、その本来の場を独特の仕方で生き延びてもいる。平成21年(2009)に逸翁美術館が新館へ移った際、この意匠は即心庵と名づけた一室として再現され、展覧会会期中の日曜には今も来館者に茶が供される。働き続ける後継を持つ登録茶室は、そう多くない。

訪れて見るべきところ

茶室と瓦敷の椅子席が接する場所に立ち、二つの論理を一度に受け取りたい。一方には、点前座を引き寄せた台目の茶室の緊密な作法があり、他方には、四半瓦敷の上に並ぶ椅子が、まったく異なる姿勢を誘う。この二つが、一つの小さな建物のなかで軋みなく共存できること。それこそがこの席の達成である。

天井を見上げれば、杉板が網代に編まれ、土間の上では竹垂木が露わに架かる。これらは伝統的な茶室の質感であり、一三は客の座り方を変えてもなお、それを保った。近くの新館を訪ねれば、その再現の席で、椅子に腰かけながら畳上と同じように外を眺めて一服し、この発想を直に味わうことができる。

Q&A

Qなぜ茶室に椅子があるのですか。
A小林一三が、正座に代えて椅子で茶を喫せるよう即庵を設計したためです。椅子は、腰かけた客の目の高さが畳上の客と同じになる高さに設えられています。
Q「台目」とは何ですか。
A点前座の畳を短くとる茶室の構えを指します。即庵は三畳台目の席で、簡素で広く用いられる茶室の形式です。
Q茶人としての小林一三はどのような人でしたか。
A阪急の創業者は、約5,500件の美術品を集めた熱心な数寄者でした。茶の基本を守りつつ独自の工夫を加えており、即庵の椅子席はその最も明瞭な例です。
Qこのような席で実際に茶を飲めますか。
A飲めます。この意匠は現在の逸翁美術館内に即心庵として再現され、展覧会会期中の日曜に来館者へ茶が供されます。日程は事前に美術館でご確認ください。
Q即庵はいつ建てられましたか。
A昭和11年(1936)、山荘の一連の造営が進むなかで建てられました。主屋の竣工は昭和12年初頭です。即庵は旧本館の南東に接続し、南庭に面して建ちます。

基本情報

名称逸翁美術館即庵(茶室)
所在地大阪府池田市建石町1965他
指定区分登録有形文化財(登録番号27-0531)
登録年月日平成21年(2009)8月7日(告示8月25日)
員数1棟
構造木造平屋建、入母屋造桟瓦葺・軒先銅板葺、建築面積23平方メートル。昭和11年建築。三畳台目に椅子席を伴う
所有者公益財団法人阪急文化財団
交通阪急宝塚本線 池田駅から徒歩約10〜13分
公開小林一三記念館の敷地内。現・逸翁美術館では再現の即心庵で会期中の日曜に呈茶。最新情報は事前にご確認ください

References

文化庁 — 国指定文化財等データベース 逸翁美術館即庵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007765
阪急文化財団 — 小林一三記念館 施設紹介(登録有形文化財)
https://www.hankyu-bunka.or.jp/kinenkan/facility/
阪急文化財団 — 逸翁美術館
https://www.hankyu-bunka.or.jp/itsuo-museum/

最終更新日: 2026.07.05