紡績の町が持った倶楽部

岸和田市立自泉会館(自泉館)は、大阪府岸和田市岸城町にある昭和7年(1932年)竣工の鉄筋コンクリート造建築で、平成9年(1997年)5月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。設計は渡辺節、施工は大林組。単に「自泉会館」とも呼ばれる。

建設の元手は、岸和田紡績(岸紡。現在のユニチカの前身の一つ)の創設者・寺田甚与茂に贈られた慰労金だった。長男で二代目社長の寺田甚吉が、父の功績を記念する意味を込め、会社の社交場を兼ねた倶楽部施設としてこの建物を建てている。当時の岸和田は紡績業で潤い、寺田家は地域経済の中心にいた。会社の役員や取引先を迎え、催しを開くための場所が必要だった、という発想である。

その後の歩みは平坦ではない。岸和田紡績は昭和16年(1941年)に大日本紡績と合併し、独立した会社としては姿を消す。寺田甚吉は昭和17年(1942年)に岸和田市長となり、翌年の退任にあたって建物を市へ寄贈した。以後は集会所や貴賓室として使われる。昭和25年(1950年)のジェーン台風で市役所が大きな被害を受けたときには、市議会の議事堂が置かれた。のちに岸和田商工会議所へ貸与された時期もある。昭和57年(1982年)、市制60周年を機に修復され、現在の文化施設としての性格が定まった。

渡辺節の「小さい仕事」を読む

登録の基準は「造形の規範となっているもの」。登録番号27-0016、登録回は第2回で、平成8年(1996年)に文化財登録制度が発足した直後の、きわめて早い時期の登録にあたる。

文化庁の解説は、この建物を渡辺節の作品の中で「比較的小規模な住宅系のもの」として注目に値すると評価している。渡辺節(1884〜1967年)は大規模な事務所建築を得意とした建築家で、昭和6年(1931年)竣工の綿業会館(大阪市中央区、重要文化財)などで知られる。その事務所には若き日の村野藤吾が在籍していた。銀行や商社のビルを次々に手がけた設計者が、地方都市の倶楽部という小さな器にどう取り組んだか。この建物の関心はそこにある。

構造は鉄筋コンクリート造2階建、建築面積539平方メートル。様式は近世スパニッシュ風で、白い壁面に瓦屋根を載せた外観は装飾を抑えた穏やかなものになっている。ただし、玄関部には列柱が配され、そこだけは様式建築の語彙がはっきり顔を出す。全体を素気なく整えたうえで、人が最初に触れる一点に格式を集中させる。事務所建築で培った配分の感覚が、規模を落としても働いていることが読み取れる。

失われたものもある。戦時中の金属類回収令により、シャンデリアや階段の手すりといった装飾金属類が供出された。それを除けば、竣工時の意匠はおおむね保たれたまま現在に至っている。

訪ねる ― 見学の条件と周辺

自泉会館は現役の文化施設である。ホール、会議室、展示室は市内外を問わず文化活動であれば誰でも利用でき、ホールではピアノやオルガンのコンサートが年に数回開かれる。テレビドラマで使われたオルガンが展示されている。

見学については条件がある。岸和田市の案内によれば、開館は午前9時から午後5時まで、料金は無料。定休日は月曜(祝日の場合は開館し翌日休館)、年末年始、敬老の日の前日と前々日、3月の第2火曜。そして重要な点として、イベント開催時は館内を見学できない。貸館が入っているかどうかで可否が変わるため、遠方から向かうなら事前に電話(072-423-9743)で確認しておきたい。団体での見学は事前予約が必要で、駐車場は用意されていない。

建物は岸和田城の三の曲輪の北東部にあたる位置に建ち、岸和田市役所のすぐ近く。大阪府の観光案内によれば、南海本線の蛸地蔵駅から徒歩約10分、岸和田駅から徒歩約15分。岸和田城までは200メートルほど、岸城神社も同程度の距離にある。城の櫓門や八陣の庭とあわせて半日で回れる範囲に収まっており、紀州街道沿いの本町の古い町並みも歩いていける。

前庭には寺田甚与茂の銅像が据えられている。慰労金の受け手であり、この建物が記念しようとした人物である。玄関の列柱をくぐる前に、そちらへ一度目を向けておくと、建物の由来がひと続きの話として腑に落ちる。

Q&A

Q岸和田市立自泉会館は見学できますか。料金と開館時間を教えてください。
A見学は無料で、開館時間は午前9時から午後5時までです。ただしイベント開催時は館内を見学できません。定休日は月曜(祝日の場合は開館し翌日休館)、年末年始、敬老の日の前日と前々日、3月の第2火曜です。団体は事前予約が必要です。
Q岸和田市立自泉会館は誰が設計し、いつ建てられたのですか。
A設計は関西で活動した建築家・渡辺節、施工は大林組で、昭和7年(1932年)の竣工です。岸和田紡績の二代目社長・寺田甚吉が、父・甚与茂に贈られた慰労金をもとに倶楽部施設として建てました。
Q岸和田市立自泉会館はどのような様式の建物ですか。
A鉄筋コンクリート造2階建、建築面積539平方メートルの近世スパニッシュ風建築です。外観は装飾の少ない穏やかなつくりですが、列柱を配した玄関部に様式建築のモチーフが表れています。
Q岸和田市立自泉会館は借りて使うこともできますか。
Aできます。ホール、会議室、展示室は市内外を問わず、文化活動であれば誰でも利用の申し込みが可能です。詳細は自泉会館(072-423-9743)へ問い合わせてください。
Q岸和田市立自泉会館へのアクセスと駐車場は。
A南海本線の蛸地蔵駅から徒歩約10分、岸和田駅から徒歩約15分です。岸和田市の案内では駐車場は用意されていません。岸和田城まで200メートルほどの距離にあります。

基本情報

名称岸和田市立自泉会館(自泉館)/きしわだしりつじせんかいかん
所在地大阪府岸和田市岸城町5-10
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 27-0016
指定年平成9年(1997年)5月7日登録、同年5月29日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造2階建、建築面積539平方メートル
所有者岸和田市
公開状況見学無料(午前9時〜午後5時、月曜ほか休館、イベント開催時は見学不可、団体は要予約)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 岸和田市立自泉会館(自泉館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000140
文化遺産オンライン — 岸和田市立自泉会館(自泉館)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/184870
岸和田市 — 自泉会館
https://www.city.kishiwada.lg.jp/site/kishiwada-side/jisen.html
大阪文化財ナビ — 自泉会館
https://osaka-bunkazainavi.org/bunkazai/自泉会館
大阪ミュージアム(大阪府)— 岸和田市立自泉会館
https://www.osaka-museum.com/spot/search/?act=detail&id=712

最終更新日: 2026.08.19