軍勢のかたちをした石庭
岸和田城の本丸跡に広がるこの庭園は、昭和28年(1953年)に完成した。翌年に再建される天守閣に先立って造られた庭である。手がけたのは、昭和を代表する作庭家・重森三玲(しげもりみれい、1896〜1975年)。庭はもう一つの名で呼ばれる。「八陣の庭」である。
面積は6,581平方メートル。池もなければ、白砂を一面に掃いた広がりも、築山が連なる山水の風景もない。日本の石庭で見慣れたものの多くを、この庭は手放している。代わりに置かれたのは、三段の基壇に載った石組みの群れだ。守りの陣形を組んだ軍勢のように、円く配されている。岸和田市の依頼を受けた重森が設計し、平成26年(2014年)に国の名勝へ指定された。
陣形を写した庭
重森が主題に選んだのは、仏教思想でも神仙思想でもなく、中国の兵法だった。庭の構成は「八陣法(はちじんほう)」にもとづく。三国時代の軍師・諸葛孔明(しょかつこうめい)が用いたと伝わる、八つの陣立てである。
石組みの群れは九つ。中央に大将が座り、残る八群がそれを取り巻く。重森は中世の城郭の縄張図(なわばりず)を下敷きに平面を起こし、高さ約20センチの緑泥石片岩の縁取りを三段に積み上げた。上から見下ろすと、この基壇の段差が城壁のように読める。
重森が選んだ陣形には理由がある。庭の平面を決めている「方円陣(ほうえんじん)」は、本来、守りを目的とした構えである。敵を攻める陣ではなく、外敵から守る陣。重森はそちらを採った。その選択が、石一つひとつの傾きと向きを決めている。
名勝に指定された理由
文化庁は二つの根拠を挙げている。一つは芸術上の価値。抽象的な意匠と構成を重んじた重森の作庭理念が、妥協なくこの庭に貫かれている点である。もう一つは学術上の価値。近代日本庭園史のなかで、この庭が占める位置が明確だという点だ。
指定にはもう一つ知っておきたい事実がある。国の名勝に指定された庭園のなかで、これは戦後に作庭されたものとして最初の例にあたる。完成からわずか六十年あまりの庭が、何百年も古い庭園と並んで台帳に載った。
石を読む
最上段には大将の石組みが据えられている。15本の立石から成り、いちばん高い石は219センチに達する。中段には虎と風の二群。下段には六群が並ぶ。天・地・雲・龍・鳥・蛇である。それぞれに性格がある。天の石組みは三本の立石から成り、うち一本は234センチ。蛇は二つの石材を継ぎ合わせた長さ416センチの伏石。龍は265センチの石材を斜めに組む。石材は主に緑泥石片岩と石英片岩で、ひんやりとした青灰色の調子が選ばれている。
庭の見方は二つあり、重森はその両方を求めた。地上を一周すれば、各群を独立した彫刻として受け取れる。立石がどう均衡し、互いにどう応じ合うかを見ていくことになる。もう一つの見方は、真上からである。重森は翌年に天守閣が建つことを知っていた。三段の基壇と九つの群を、最上階から見下ろしたときに一枚の図として読めるよう構成したのだ。天守に登るのは付け足しではない。それで設計が完結する。
庭は、いまよりも厳しい姿で始まった。当初、裸の地面を破るのは三本のクロマツの老木と、大将・虎・龍の築山にわずかな苔地があるだけだった。現在はクロマツが一本残り、苔は失われている。石組みがほぼ単独で構成を担っている。
城のまわり
庭は天守閣の足元にあり、無料で開放されている。作庭者がもっとも重視した俯瞰の眺めは、天守閣最上階から得られる。こちらは入場料がかかる。天守閣は昭和29年(1954年)の建造で、戦後日本における城郭再建の先駆けの一つだった。文政10年(1827年)に落雷で焼失した本来の五層天守に代わる、三層三階の鉄筋コンクリート造である。
岸和田の名を広く知らしめているのは、9月のだんじり祭である。曳き手が巨大な木造のだんじりを全速で町中に走らせる祭で、城の近くのだんじり会館では一年を通してその伝統を紹介している。少し歩いた先にある五風荘の庭は、八陣の庭の硬質な幾何学とは対照的な、穏やかで伝統的な趣を見せる。城へは南海本線の岸和田駅から徒歩約10分、同線の蛸地蔵駅からは約7分である。
Q&A
- 庭を見るのに料金はかかりますか。
- 庭そのものは無料で開放されています。料金がかかるのは天守閣だけです。とはいえ天守の券は買う価値があります。最上階からの俯瞰こそ、作庭者がこの庭を見せようとした視点だからです。
- なぜ「八陣の庭」と呼ばれるのですか。
- 三国時代の軍師・諸葛孔明が用いたとされる八つの陣立てを、平面構成の主題としているためです。中央の大将と周囲の八群、合わせて九群の石組みが、守りの円陣を組んでいます。
- 見学にはどのくらい時間がかかりますか。
- 地上で庭を一周し、天守閣に上って俯瞰の眺めを見るなら、30〜45分ほどが目安です。天守閣の展示室もあわせて見る場合は、もう少し余裕を見てください。
- 天守閣の開場時間を教えてください。
- 天守閣は毎日午前9時から午後5時まで開場し、入場は午後4時30分までです。年末年始(12月29日〜1月3日)と展示替の期間は休場します。入場料は大人300円です。
- 京都の伝統的な石庭とは何が違うのですか。
- 伝統的な枯山水は仏教思想や神仙思想を主題とし、座って一定の位置から眺めることが多い庭です。八陣の庭は兵法を主題にとり、地上を歩く動きと、上空からの俯瞰の両方を前提に構成されています。
基本データ
| 名称 | 岸和田城庭園(八陣の庭) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府岸和田市 |
| 指定区分 | 名勝(国指定) |
| 指定年月日 | 平成26年(2014年)10月6日 |
| 作庭年 | 昭和28年(1953年) |
| 作庭者 | 重森三玲(1896〜1975年) |
| 面積 | 6,581平方メートル |
| 庭園の公開 | 無料で開放 |
| 天守閣の開場時間 | 9:00〜17:00(入場は16:30まで)/年末年始・展示替期間は休場 |
| 天守閣の入場料 | 大人300円、中学生以下無料 |
| アクセス | 南海本線・岸和田駅から徒歩約10分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)岸和田城庭園(八陣の庭)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/00003867
- 岸和田市公式ウェブサイト 岸和田城
- https://www.city.kishiwada.lg.jp/page/36-kishiwadajyo.html
- 岸和田市公式ウェブサイト 八陣の庭
- https://www.city.kishiwada.lg.jp/page/70-hachijin.html
最終更新日: 2026.05.26