江戸前期の豪農住宅として
中家住宅は、大阪府泉南郡熊取町五門西にある江戸時代前期の民家で、主屋1棟が昭和39年(1964年)5月29日に国の重要文化財に指定され、表門及び唐門2棟が附として加えられている。
国指定文化財等データベースは主屋の規模を桁行24.5メートル、梁間16.1メートルと記す。入母屋造・茅葺の妻入りで、四面に庇をめぐらせ、そこは本瓦葺とする。北面の突出部はさらに桁行9.1メートル、梁間5.9メートル。文化庁の解説文は、江戸初期の豪農の家であり近畿地方でも有数の古い住宅であると評している。
中家の地域における位置は高い。江戸時代には岸和田藩の大庄屋を務めた家で、藩内の七人庄屋のうち、熊取谷の中家と隣接する降井家の二家は「熊取両人」と並び称されるほど別格に扱われた。
家伝はさらに古い時代に及ぶ。平安時代、後白河法皇が熊野行幸の際に立ち寄ったとされ、唐門は御車寄せの御門を建てて迎えた由来をもつと伝わる。主屋正面の妻面に大きく描かれた「右三ツ巴」の家紋も、その折に甘瓜を献上したという伝えに結びつけられている。
土間と喰違三間取りが示すもの
南面する三間薬医門の表門をくぐると、主屋が妻面を正対させて立つ。中に入れば、指定の理由は文書ではなく身体で分かる。
土間である。近畿地方の古民家のなかでも最大規模で、農家の炊事場というより寺院の庫裏や武家の台所に近い印象を受ける。熊取町はこの土間を独立性の強いものと説明する。居室部へ至る通路ではなく、それ自体がひとつの空間として成立しているという意味である。頭上には架構形式の小屋組が露出し、柱の省略の多い居室部と合わせて、建物全体に中世的な気配が残る。
平面にも注目したい。ダイドコロが土間へ大きく張り出す。踏込みのあるナンドとザシキまわりは喰違三間取りを骨格とする。三室を整然と並べるのではなく、わずかにずらして配する構成である。この形式は泉南地方と和歌山県紀ノ川筋に分布し、のちに田の字型の四間取りへ発展していく。つまり中家住宅は、その移行以前の段階を保っている。
江戸後期の古図を見ると、失われたものの大きさが分かる。敷地はいまよりはるかに広く、表門の位置は現状よりずっと手前にあった。主屋の東側には式台玄関のつく別棟の客殿(書院)が建ち、西面して組物をもつ向唐門は、その客殿に至る賓客用の門として使われた。ほかに長屋門や郷蔵などの付属屋が並び、背後には堀がめぐらされていた。
電気実験の松と、訪問のための情報
この屋敷には建築史とは別の系譜の逸話がある。主屋の西側には、かつて周囲5メートル、樹齢600年といわれる松があった。江戸時代中頃、大坂における蘭学の開祖とされる橋本宗吉(1763〜1836)は、中家の協力のもとでこの松を使い、フランクリンの空中電気の実験を追試した。
宗吉は結果を著書『阿蘭陀始制エレキテル究理原』に「泉州熊取谷にて天の火を取りたる図説」として挿絵入りで載せた。図には、高さ19間(約34.5メートル)の枝に取り付けた桶状の器から伸びる針金を握る人物と、指先に火花が散るもう一人が描かれている。挿絵を描いたのは望遠鏡製作で知られる貝塚の岩橋善兵衛である。宗吉が同時代の蘭学者と異なるのは、翻訳で紹介するにとどまらず自ら試みた点にある。松はのちに枯れて撤去され、いまは跡地に石碑が立つ。熊取町は平成8年(1996年)3月13日、この地を町指定文化財の史跡とした。
住宅は長く個人の所有だったが、平成6年(1994年)に熊取町の所有となり一般公開されている。入館は無料、個人の見学に申込みは不要である。開館は午前10時から午後4時30分まで、入館は午後4時まで。バスなど団体で訪れる場合は事前に連絡が求められている。
休館日には注意が要る。季節によって逆転するためである。1月・2月・8月は月曜から金曜が休館で、土日祝日のみ開いている。それ以外の月は水曜が休館で、祝日にあたる場合は翌日に振り替わる。年末年始(12月29日から1月3日)も休館する。
アクセスはJR阪和線の熊取駅から東へ徒歩約15分。南海本線の泉佐野駅からは南海バスの「山の手台・小谷方面」に乗り「五門」下車すぐ。徒歩数分の場所には、昭和初期の綿布工場を転用した熊取交流センター煉瓦館があり、あわせて回りやすい。
Q&A
- 中家住宅は見学できますか。入館料や予約は必要ですか。
- 見学できます。平成6年から熊取町が所有し一般公開しており、入館は無料、個人の見学に申込みは不要です。開館は午前10時から午後4時30分(入館は午後4時まで)。団体でバス利用の場合は事前連絡が必要です。
- 中家住宅の休館日はいつですか。
- 季節で逆転します。1月・2月・8月は月曜から金曜が休館で土日祝のみ開館。それ以外の月は水曜が休館(祝日の場合は翌日)です。年末年始(12月29日〜1月3日)も休館します。
- 中家住宅の建築上の見どころはどこですか。
- 土間と平面です。土間は近畿地方の古民家でも最大規模で、居室部は踏込みのあるナンドとザシキまわりを喰違三間取りとします。のちの田の字型四間取りに先立つ古式な形式です。
- 中家住宅で重要文化財に指定されているのはどの建物ですか。
- 主屋1棟が昭和39年5月29日に指定されました。表門及び唐門の2棟は附として指定に含まれています。江戸後期の古図に描かれた客殿や長屋門などは現存しません。
- 中家住宅へのアクセスを教えてください。
- JR阪和線の熊取駅から東へ徒歩約15分です。南海本線の泉佐野駅からは南海バス「山の手台・小谷方面」に乗車し「五門」下車すぐ。徒歩圏に熊取交流センター煉瓦館があります。
基本情報
| 名称 | 中家住宅 主屋(なかけじゅうたく) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府泉南郡熊取町五門西一丁目 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 附・表門及び唐門2棟 |
| 指定年 | 昭和39年(1964年)5月29日 |
| 員数 | 1棟(主屋) |
| 寸法 | 桁行24.5m、梁間16.1m/北面突出部 桁行9.1m、梁間5.9m |
| 所有者 | 熊取町 |
| 公開状況 | 一般公開・無料。10:00〜16:30(入館16:00まで)。休館日は季節により変動 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 中家住宅(大阪府泉南郡熊取町)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2228
- 熊取町 — 中家住宅について
- https://www.town.kumatori.lg.jp/soshiki/shogaigakushu/gyomu/shisetsu/1/shisetsu_riyoannai/3485.html
- 熊取町 — 中家住宅 利用時間・休館日
- https://www.town.kumatori.lg.jp/bunka_sports/shisetsu/1/index.html
- 熊取町 — 歴史・文化のページ
- https://www.town.kumatori.lg.jp/soshiki/shogaigakushu/gyomu/kanko_joho/rekishi_bunka/2785.html
- OSAKA-INFO(公益財団法人大阪観光局)— 中家住宅
- https://osaka-info.jp/spot/nakake-jyutaku-naka-residence/
最終更新日: 2026.08.19