昭和十六年、泉州の古社に建った拝殿
男神社拝殿及び幣殿は、大阪府泉南市男里にある昭和16年(1941年)建築の社殿で、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。木造平屋建、銅板葺、建築面積108平方メートル。棟を東西に向けて建ち、背後の本殿へ向かって幣殿が延びる。
拝殿は桁行五間、梁間二間の入母屋造。屋根の銅板はすでに緑青をふき、社叢の濃い緑に沈んで見える。
設計者は池田谷久吉(いけだやひさきち、1897〜1956)。泉佐野の生まれで、市立大阪工業学校(現在の大阪市立都島工業高等学校)を出たのち大阪府庁に技術者として勤め、大正15年(1926年)に退職して大阪市西区に池田谷建築事務所を構えた。昭和4年(1929年)には大阪府史跡名勝天然記念物調査委員に就任している。古建築を実地に測り、図面に起こす経験を重ねた設計者だった。
手がけた建物は泉州から河内へ広く分布する。熊取町の旧中林綿布本社工場、河内長野の観心寺恩賜講堂の移築設計、寝屋川の成田山不動尊明王院、大阪市内の金光教玉水教会会堂。戦後には岸和田城天守閣と今宮戎神社の本殿・拝殿も設計している。男神社の拝殿は、その仕事の中で戦時下に建てられた社殿という位置を占める。
細部に選ばれた古式の語彙
この建物の見どころは、軒の下、地上から数メートルの高さにほぼ集中している。
組物は舟肘木。柱の頂部に舟形の肘木を一材だけ載せ、その上で桁を受ける、日本の木造建築でもっとも簡素な受け方である。近世の社寺建築は斗栱を三段四段と積み、隙間という隙間に彫刻を詰める方向へ進んだが、池田谷はそれを採らなかった。
妻飾は豕扠首(いのこさす)。棟の両端に立つ三角形の壁面に、合掌形の扠首材を組み、その下に束を置く形式で、神社建築のごく古い層に属する意匠である。昭和10年代の新築でありながら、設計者は中世以前の語彙をここに引いた。
装飾が現れるのは一箇所だけである。幣殿が接続する中央間にのみ虹梁を架け、その上に蟇股を置く。参拝者が正面に立ったとき、視線がまっすぐ奥へ抜けていく、その一間である。文化庁の解説はこれらの細部を復古的な意匠と評し、設計者の技量がよく現れた例として登録理由に挙げている。
登録基準は「造形の規範となっているもの」。登録番号27-710、第88回登録にあたる。同じ日に旧拝殿及び幣殿(社務所)と透塀も登録され、境内の建造物3件がまとめて国の登録有形文化財となった。
外から眺める建物として
境内の参拝は自由で、拝観料はかからない。ただし建物の内部は公開されていない。泉南市は拝殿や本殿への無断の立ち入りを控えるよう案内しており、この拝殿は正面から外観を観察する建物と考えたほうがよい。実際、登録の根拠となった細部はすべて外から見える位置にある。
拝殿の正面には夫婦樟(めおとくす)が立つ。一つの根から二本の幹が伸びる連理の樟で、拝殿を正面から撮ろうとすると必ず画面に入り込む。境内の社叢は大阪みどりの百選に選ばれ、府内最大といわれるむくろじの木も残る。
男神社そのものは『延喜式』神名帳に「男神社二座」と載る式内社で、祭神は彦五瀬命と神武天皇。神武東遷の途上、矢傷を負った兄の彦五瀬命が男里川の河口近くで雄叫びをあげたという記紀の伝承から、「おたけびの宮」の別称をもつ。現在地への遷座は貞観元年(859年)と社伝に伝わる。昭和16年の拝殿は、その長い層の最も新しい一枚である。
社務所の受付はおおむね9時から17時。駐車場は20台分あるが、境内に近づくほど道が狭くなる。南海本線樽井駅から徒歩約26分、泉南市のコミュニティバス南方面回りなら「男里中」下車が近い。一の鳥居から三の鳥居まで、木立の下を長く歩く参道そのものも見どころのひとつである。
年中行事では、1月15日の御管式(おくだしき)、5月下旬のほたるまつり、6月30日と12月31日の大祓に人が集まる。御管式は竹筒で粥を焚き、作物名を書いた筒に入った粥の量でその年の作柄を占う神事。ほたるまつりでは拝殿前で神楽舞と雅楽が奉納され、暗い参道をヒメボタルが飛ぶ。撮影について特段の制限は公表されていないが、祭事の最中は社務所に一言断るのが無難だろう。
Q&A
- 男神社拝殿及び幣殿はいつ建てられ、誰が設計したのですか?
- 昭和16年(1941年)の建築で、設計は池田谷久吉(1897〜1956)です。泉佐野出身で大阪を拠点にした建築家で、寺社建築を得意としました。戦後の岸和田城天守閣、今宮戎神社の本殿・拝殿も同じ設計者の作品として知られています。
- 男神社拝殿及び幣殿は内部を拝観できますか。拝観料は必要ですか?
- 境内の参拝は自由で拝観料はかかりませんが、建物の内部は非公開です。泉南市は拝殿や本殿への無断立ち入りを控えるよう案内しています。舟肘木や豕扠首といった登録理由となった細部は外から見えますので、正面に立って軒下を見上げてください。
- 男神社拝殿及び幣殿の「登録有形文化財」は、国宝や重要文化財とどう違うのですか?
- 登録は指定より緩やかな保護制度です。国宝・重要文化財が国による「指定」であるのに対し、登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、おおむね築50年を超える建造物を対象とします。現状変更は許可制ではなく届出制のため、現役で使われ続けている建物に適した仕組みになっています。
- 男神社拝殿及び幣殿へのアクセスと駐車場を教えてください。
- 所在地は大阪府泉南市男里三丁目です。南海本線樽井駅から徒歩約26分、泉南市コミュニティバス南方面回り「男里中」下車が近道です。駐車場は約20台分ありますが、境内に至る道が狭いため大型車は注意が必要です。
- 男神社拝殿及び幣殿と一緒に見ておきたい建造物はありますか?
- 同じ境内に3件あります。本殿は17世紀中頃の五間社流造で、隣の若宮神社本殿とともに大阪府指定文化財です。本殿と拝殿を隔てる透塀、および現在社務所として使われている旧拝殿及び幣殿は、この拝殿と同じ平成29年10月27日に国の登録有形文化財となりました。
基本情報
| 名称 | 男神社拝殿及び幣殿(おのじんじゃはいでんおよびへいでん) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府泉南市男里三丁目1065 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号27-710 |
| 指定年 | 平成29年(2017年)10月27日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、銅板葺、建築面積108平方メートル。拝殿は桁行五間、梁間二間、入母屋造 |
| 所有者 | 宗教法人男神社 |
| 公開状況 | 境内の参拝は自由(拝観料なし)。建物内部は非公開。社務所受付はおおむね9時〜17時。駐車場約20台 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 男神社拝殿及び幣殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011987
- 文化遺産オンライン — 男神社拝殿及び幣殿
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/245938
- 大阪文化財ナビ — 男神社
- https://osaka-bunkazainavi.org/bunkazai/%e7%94%b7%e7%a5%9e%e7%a4%be
- 恋するせんなん(泉南市観光協会) — 男神社
- https://welcome-sennan.com/tourist-spots/onojinja
- 泉南市 — 男神社本殿と若宮神社本殿
- https://www.city.sennan.lg.jp/kanko/bunka/maizou/bunkazai/kenzoubutu/1464745112788.html
最終更新日: 2026.08.19