天文十年の社殿と、その来歴
多治速比売神社本殿は、大阪府堺市南区宮山台にある室町時代後期の神社建築で、天文10年(1541年)の造営、昭和24年(1949年)2月18日に国の重要文化財に指定された。
造営年代の根拠は二つある。天井裏に残された墨書と、棟札の記載である。この棟札一枚は、昭和40年(1965年)2月5日に附として指定に加えられた。建築年代が推定でなく文字資料で裏づけられている点は、この社殿を語るうえで軽くない。
神社そのものは社殿よりはるかに古い。延喜式神名帳に載る和泉国大鳥郡の式内社で、創建は6世紀頃と伝わる。祭神は多治速比売命、素盞嗚尊、菅原道真の三柱。荒山宮(こうぜんのみや)の別称でも呼ばれる。明治初年までは総福寺と並存する神宮寺の形をとっていたが、神仏分離を経て神社のみとなった。
現在の周辺環境は昭和後期に生まれたものである。昭和38年(1963年)、泉北ニュータウンの造成にともなって社有地の大部分が売却された。かつての社叢は堺市の荒山公園となり、約1,400本の梅が植えられている。参道は二つあり、表参道は長い石段が続く。梅林側の公園から入る脇参道のほうが起伏は少ない。
重要文化財としての評価
国指定文化財等データベースは、構造及び形式を桁行三間、梁間一間、一重、入母屋造、正面千鳥破風付、向拝三間、軒唐破風付、檜皮葺と記載する。
三間社の本殿は流造とするのが通例で、入母屋造を採る例は限られる。屋根の正面に千鳥破風を据え、三間の向拝の軒にさらに唐破風を重ねる。輪郭が段階的に立ち上がり、正面から見たときの奥行きが増す構成になっている。
指定の理由として重く扱われているのは、むしろ細部の彫刻のほうだ。蟇股や手挟に動植物を密に彫り込む手法が本格化するのは桃山期で、天文10年はそれより数十年早い。堺市はこの本殿を、彫刻技術が飛躍的に発展する安土桃山時代の様式を先取りした建物のひとつと評価している。
昭和31年(1956年)には大阪府教育委員会による修理報告書がまとめられており、調査の蓄積という点でも恵まれた建物である。
蟇股と手挟をどう見るか
神社が公表している彫刻の配置を、あらかじめ頭に入れて見上げたい。
向拝柱上部中央の蟇股には龍・雲・浪。左右の蟇股は表面に牡丹と唐獅子、裏面に雲と宝珠。内法長押の正面中央の蟇股には桐、右には鯱、左には山茶花・松・幣。北と南の側面の蟇股には鯉・松・滝・雲が置かれる。
目を凝らしたいのは向拝の手挟である。透彫で左右に二個。向かって右のものは右面に芭蕉と蟷螂、左面に水と蓮。向かって左は右面に海藻と貝類、左面に水と花菖蒲。芭蕉に蟷螂という取り合わせは全国でもここ以外に例を見ないと神社は伝えている。木鼻は獣頭のような形をとり、これも一般的な意匠からは外れる。
境内は自由に参拝できるが、本殿の見学には事前の予約が必要である。御祈祷の受付は午前9時から正午まで、午後1時から4時までで、こちらは予約を要しない。指定建造物の撮影の可否については、現地の案内に従っていただきたい。
アクセスは、南海泉北線の泉ヶ丘駅で下車し、北バスターミナルから南海バスで「宮山台2丁」下車すぐ。JR阪和線の津久野駅からも同じ停留所に至る便がある。梅の時期は駐車場が荒山公園の来園者と共通の扱いになり、料金が必要になる場合がある。10月の秋の例大祭ではだんじりが周辺を曳き回される。
Q&A
- 多治速比売神社本殿はいつ建てられましたか。年代はどう分かったのですか。
- 天文10年(1541年)の造営です。天井裏に残る墨書と棟札の記載から判明しました。その棟札は昭和40年2月5日に附として指定に加えられています。
- 多治速比売神社本殿は拝観できますか。予約は必要ですか。
- 境内は自由に参拝できますが、重要文化財である本殿の見学には事前の予約が必要です。御祈祷は午前9時から正午、午後1時から4時に受け付けており、こちらは予約不要です。
- 多治速比売神社本殿の見どころはどこですか。
- 蟇股と手挟の彫刻です。向拝の手挟は透彫で、芭蕉に蟷螂、水に蓮、海藻と貝類、水に花菖蒲が彫られています。芭蕉に蟷螂の意匠は他に例がないと神社は伝えています。
- 多治速比売神社本殿へのアクセスを教えてください。
- 南海泉北線の泉ヶ丘駅北バスターミナルから南海バスに乗り、「宮山台2丁」下車すぐです。JR阪和線の津久野駅からも同じ停留所に至る便があります。
- 多治速比売神社本殿は流造ではないのですか。
- 流造ではありません。桁行三間、梁間一間の入母屋造で、正面に千鳥破風、三間の向拝の軒に唐破風が付きます。同規模の本殿は流造とすることが多く、入母屋造の例は限られます。
基本情報
| 名称 | 多治速比売神社本殿(たじはやひめじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府堺市南区宮山台2丁3-1 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 附・棟札1枚 |
| 指定年 | 昭和24年(1949年)2月18日(棟札は昭和40年2月5日追加) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行三間、梁間一間、一重、檜皮葺 |
| 所有者 | 多治速比売神社 |
| 公開状況 | 境内は自由参拝。本殿の見学は事前予約制 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 多治速比売神社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2132
- 文化遺産オンライン — 多治速比売神社本殿
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/194790
- 堺市 — 多治速比売神社本殿
- https://www.city.sakai.lg.jp/kanko/rekishi/bunkazai/bunkazai/shokai/bunya/kenzobutu/tajihayahime.html
- 多治速比売神社 公式サイト — 本殿
- https://tajihayahime.com/guide.html
- OSAKA-INFO(公益財団法人大阪観光局)— 多治速比売神社
- https://osaka-info.jp/spot/tajihayahimejinja/
最終更新日: 2026.08.19