法泉寺十三重塔

京都府京田辺市草内、田畑と住宅地のあいだに立つ真言宗の寺・法泉寺の境内に、花崗岩を積み上げた十三重の石塔がある。その基礎には建立の日付が刻まれている。弘安元年(1278年)十一月二十六日。中世の石塔でこれほど明確に年代の分かるものは多くない。さらにこの塔には、造立に関わった石工の名までが残されている。

法泉寺そのものの創建年は分かっていない。本尊の十一面観音が草むらのなかから現れたという言い伝えがあり、このあたりの地名「草内」もそこに由来するという。寺号についても別の話が残る。天長年間(824〜834年)の干ばつのとき、この観音に祈ると清らかな泉が湧き出したため、法泉寺と名づけられたとされる。観音は農耕の守り仏、雨乞いの仏として、地元で長く信仰されてきた。

重要文化財としての価値

この石塔が国の保護を受けたのは早い。大正5年(1916年)5月24日、建造物の指定がまだ整理されつつあった時期に、重要文化財に指定された。国の文化財データベースは、近世以前の石造物・鎌倉後期のものとして、員数を一基と記録している。

塔の価値を高めているのは、基礎に刻まれた銘である。そこには「大工」の語に続いて、伊末行(いのすえゆき)と読める名が彫られている。前の世紀に宋から渡来した石工・伊行末(いのゆきすえ)の系統に連なる工人だった。伊行末の一門は大陸の石彫の技を山城・大和の地にもたらし、その後の数代にわたって、この地域の石塔の姿を方向づけた。年代が確かで、しかも作者の署名のある作品は、年代の分からない石塔を位置づけるための基準点になる。

彫りそのものにも鎌倉時代の石工の自負がうかがえる。十三段の笠石はそれぞれ一石から削り出され、初重の塔身の上に積み重ねられている。軒は厚く、力強い反りをもち、後世の薄く平たい笠とは趣が異なる。

見どころ

まず足もとから見たい。初重の塔身には、四つの面のそれぞれに坐像の仏が半肉彫で刻まれている。東西南北の四方を守る四方仏である。浅い彫りは、朝夕の斜めの光を受けると陰影を増し、像の輪郭が浮かび上がる。

少し離れて全体を眺めると、均整がよく分かる。高さはおよそ六メートル。上にいくほど細くなり、十三の段が一本の線となって空へ伸びていく。花崗岩はゆっくりと風化する石で、七百年あまりを屋外で過ごした表面は、地衣類の斑(まだら)が散る灰色になっている。

境内には石塔のほかにも見るものがある。室町時代の様式で復元された枯山水の庭、三宝荒神玉石塔と呼ばれる石塔。一方、本堂は数奇な歴史をたどった。永禄2年(1559年)の戦火で焼け、元禄12年(1699年)に再建され、昭和34年(1959年)にもう一度建て直された。今見る本堂は新しく、その傍らに立つ石塔だけが中世のままである。

アクセスと周辺

法泉寺は木津川の東側、静かな集落のなかにある。最寄りはJR三山木駅と、隣り合う近鉄三山木駅で、駅から寺までは歩くか、短い距離をタクシーで向かうことになる。列車はおおむね一時間に二本程度なので、出かける前に時刻を確かめておくとよい。ここは観光のために整備された施設ではなく、日々の勤めが営まれる寺である。境内では静かに過ごし、法要のさまたげにならないよう心がけたい。

京田辺の周辺には足をのばす価値のある場所が多い。近くの観音寺には、国宝の十一面観音立像がまつられている。北のほうには、晩年をこの地で過ごした禅僧・一休にちなんで一休寺の名で親しまれる酬恩庵がある。さらに古い時代に関心があれば、国の史跡に指定された綴喜古墳群が、仏教が伝わる前のこの地の歴史をとどめている。

Q&A

Q法泉寺は自由に拝観できますか。
A法泉寺は拝観料をとる観光寺院ではなく、現役の真言宗寺院です。石塔は屋外の境内に立っているため、境内から見ることができます。ただし決まった拝観時間の掲示はないので、日中に訪れ、法要などがある場合は配慮してください。詳しくは京田辺市観光協会へ問い合わせるのが確実です。
Q塔の年代はどこまで分かっていますか。
Aかなり正確に分かります。基礎の銘に弘安元年(1278年)十一月二十六日とあり、年代の確かな中世石塔の一つに数えられます。
Q銘に残る石工はどんな人物ですか。
A「大工」として伊末行の名が刻まれています。宋から渡来した石工・伊行末の一門に属する工人で、署名のある作品はめずらしく、塔の史料としての価値を高めています。
Q最初に見るべきところはどこですか。
A初重の塔身です。四つの面に坐像の仏が半肉彫で刻まれています。次に少し離れて、高さおよそ六メートルの十三重の姿を全体として眺めてみてください。
Qどうやって行きますか。
A最寄りはJR三山木駅と近鉄三山木駅です。駅から徒歩か、短い距離をタクシーで向かいます。列車は一時間に二本程度なので、時刻を確認してから出かけてください。

基本情報

名称法泉寺十三重塔(ほうせんじじゅうさんじゅうのとう)
所在地京都府京田辺市草内
寺院法泉寺(真言宗智山派、山号 中島山)
指定区分重要文化財(大正5年〔1916年〕5月24日指定)
年代弘安元年(1278年)/鎌倉後期
構造・形式石造十三重塔(花崗岩)
高さ約6メートル
員数1基
所有者法泉寺
アクセスJR三山木駅・近鉄三山木駅から
備考現役の寺院。決まった拝観時間はなし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/2014
法泉寺|ひとやすみできるまち京田辺(京田辺市観光協会)
https://kankou-kyotanabe.jp/tourism/housen_temple/
伊派(伊行末系)石大工の作品
https://kawai24.sakura.ne.jp/index-iha-sakuhin.htm
京田辺市内の指定文化財(京田辺市)
https://www.city.kyotanabe.lg.jp/0000015433.html

最終更新日: 2026.06.03