敷地南端に曳家された土蔵
旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵は、埼玉県所沢市三ケ島にある明治20年(1887年)頃の土蔵造二階建で、平成25年(2013年)6月21日に国の登録有形文化財に登録された。
敷地内の登録三棟のうち最も古く、一度場所を変えている。明治10年代末から20年代初頭の築と推定され、当初は現在の茶工場のあたりに建っていた。明治35年(1902年)頃、解体を伴わずに建物を移動させる曳家によって現在地へ移され、以後は敷地南端で南側道路に長辺を向けている。
登録上の建築面積は50平方メートル、切妻造桟瓦葺の二階建。街路から見て特徴となるのは外壁の仕上げである。腰を洗出しとして骨材を露出させ、その上部を漆喰塗とし、境に水切を廻らす。北面には上下階それぞれ二箇所ずつ窓と戸口を設ける。
ノキバという半戸外の作業場
軒の出は一間ほどある。雨仕舞いのためだけならこれほどは要らない。北西面には、平側から妻側にかけてL字型に鉄板葺の下屋が廻る。その下の空間を、この地域では「ノキバ」と呼ぶ。
作業場である。摘み取った生茶葉を広げて乾かす場所であり、雨天時には軽微な農作業がここへ移された。屋根はあるが側面は開いている。屋内でも屋外でもないこの中間性が、茶農家にとっては要点だった。文化庁の解説もノキバを特徴として挙げており、所有者である財団は、周辺農家の土蔵と比べて蔵そのものの規模が大きく、ノキバもかなり広い点を、地域の中でも際立つ特徴として説明している。
屋根はもう一つ別の理由で注目に値する。置屋根形式、つまり蔵本体の上に独立した小屋組を載せる構法である。土蔵の防火性と内部の温湿度の安定は厚い土壁が担っており、屋根を分離しておけば壁が呼吸でき、壁体に手を触れずに瓦の葺き替えができる。土蔵には広く用いられた方式だが、指摘されるまで気づきにくい。
収蔵だけが用途だったわけでもない。茶の最盛期には、働きに来る人々の宿泊所としても使われた。年に数週間、この建物は倉庫というより飯場に近い役割を負っていたことになる。
竹釘と棕櫚縄による伝統工法の補修
2000年代半ばの土蔵は良好な状態ではなかった。外壁は崩れて背後の竹小舞が見えるほどの隙間ができ、下屋の傷みも激しかった。補修は平成20年(2008年)12月に始まり、平成21年(2009年)3月に竣工している。
ここでは工法の選択が結果と同じだけの意味を持つ。近代的な代替工法ではなく、竹釘、棕櫚縄、壁土という土壁本来の材料が用いられ、仕上げは白漆喰とされた。土壁は割竹の小舞、荒壁、中塗、上塗と層を重ねる構成で、各層が下地に食い付き、乾燥を待って次へ進む。正しく直すには時間がかかる。そして、直す仕事がある場所にしか残らない技術でもある。
この補修の際、外壁の東側と西側に家紋を主題とした鏝絵が施された。当地の通称の由来となった映画作品の監督が寄せたイラストをもとに、左官職人が鏝で塗り上げたものである。鏝絵は江戸から明治にかけて商家の土蔵などを飾った左官技術であり、図柄はともかく技法そのものには長い系譜がある。
内部は現在、狭山丘陵をテーマとした展示室として使われている。常設展示のほか企画展も行われ、西側の壁一面には引き出しが設けられている。中には保全のために取得された森のジオラマと、マテバシイのどんぐりやマツボックリなど森の落とし物が納められている。取得地はそれぞれ立地も植生も異なり、引き出しは見比べられるように構成されている。
見学は完全予約制。開館は火曜・水曜・土曜、午前の部10時から12時、午後の部13時から15時で、最終受付は午前11時30分、午後14時30分。入場料は小学生以上500円(現金のみ)、各回先着40名。障害者手帳を提示すれば入場料は無料となる。月1回程度、ガイド付きの特別開館(所要約1時間30分、1000円、先着15名)も行われる。10名以上の団体は1週間前までに申込が必要。撮影は個人利用に限り可能で、商用利用や観光ツアー、有料個人ガイドの受け入れは行っていない。祝日・お盆・年末年始は休館、臨時休館もある。
西武池袋線小手指駅から「早稲田大学」行きまたは「宮寺西」行きバスで大日堂下車、徒歩約5分。駐車場はなく、近隣のコインパーキングは土曜に早く埋まる。ペットは補助犬を除き屋外のみ、敷地内に冷暖房設備はない。
Q&A
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵は見学できますか。内部には何がありますか。
- 火曜・水曜・土曜の午前10時から12時、午後13時から15時に完全予約制で見学できます。入場料は小学生以上500円(現金のみ)。内部は狭山丘陵をテーマとした展示室で、西側の壁一面の引き出しに森のジオラマや森で見つかる落とし物が収められています。
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵の「ノキバ」とは何ですか。
- 北西面の深い軒とL字型の下屋の下にある半戸外の作業空間です。生茶葉を広げて乾かす場所であり、雨天時の軽微な農作業もここで行われました。軒の出は一間ほどあり、周辺農家の土蔵と比べても広いことが特徴とされています。
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵はいつの建築で、最初からこの場所にあったのですか。
- 明治20年(1887年)頃の建築と推定され、敷地内の登録三棟では最も古い建物です。当初は現在の茶工場のあたりに建っており、明治35年(1902年)頃に曳家によって敷地南端の現在地へ移されました。
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵はどのように補修されたのですか。
- 伝統工法によります。平成20年(2008年)12月から平成21年(2009年)3月にかけて、竹釘・棕櫚縄・壁土を用いた補修が行われ、白漆喰仕上げとされました。補修前は外壁が崩れて竹小舞が見えるほどの隙間ができ、下屋の傷みも進んでいました。
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵の屋根が壁と分かれているのはなぜですか。
- 置屋根形式のためです。蔵本体の上に独立した小屋組を載せる構法で、土蔵の防火性と内部環境の安定を担う厚い土壁を傷めることなく、壁体を乾燥させ、瓦の葺き替えを行うことができます。
- 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵は収蔵以外の用途にも使われていましたか。
- はい。収蔵に加えて製茶の作業場として使われ、茶の最盛期には働きに来る人々の宿泊所としても活用されました。
基本情報
| 名称 | 旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県所沢市三ケ島3-1169-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 11-0129/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成25年(2013年)6月21日登録(第75回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺、建築面積50平方メートル。明治20年(1887年)頃建築、明治35年(1902年)頃移築、平成20年(2008年)改修 |
| 所有者 | 公益財団法人トトロのふるさと基金 |
| 公開状況 | 完全予約制で公開。火曜・水曜・土曜の10時から12時、13時から15時。入場料500円(現金のみ、障害者手帳提示で無料)。祝日・お盆・年末年始休館。駐車場なし |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース/旧和田家住宅(クロスケの家)土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009583
- 公益財団法人トトロのふるさと基金/施設の紹介・蔵
- https://www.totoro.or.jp/kurosuke/facilities/kura/index.html
- 公益財団法人トトロのふるさと基金/クロスケの家
- https://www.totoro.or.jp/kurosuke/
- 所沢市/旧和田家住宅(クロスケの家)主屋・製茶工場・土蔵
- https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/iitokoro/enjoy/bunkakyoyo/bunkazai/kunitourokubunkazai/kurosukenoie.html
- 公益財団法人トトロのふるさと基金/アクセス
- https://www.totoro.or.jp/kurosuke/access.html
最終更新日: 2026.08.10