赤人寺七重塔:万葉歌人・山部赤人ゆかりの鎌倉時代の石塔を訪ねて

滋賀県東近江市の静かな田園集落・下麻生町に佇む赤人寺(しゃくにんじ)。その境内にひっそりと立つ七重石塔は、文保2年(1318年)に建立された鎌倉時代末期の貴重な石造美術であり、国指定重要文化財に選ばれています。万葉集を代表する歌人・山部赤人の終焉の地と伝えられるこの古刹は、日本の詩歌文化と中世仏教美術が交差する、知る人ぞ知る文化遺産スポットです。観光客で混み合う有名寺院とは一線を画す、静寂に包まれた本物の歴史体験がここにあります。

赤人寺七重塔とは

赤人寺七重塔は、石造七重塔(せきぞうしちじゅうのとう)と呼ばれる石造の層塔です。下から基礎、塔身、七個の笠石で構成されており、全体の高さは約2.1メートルです。もともと塔頂部にあった相輪(そうりん)は失われており、現在は後世に補われた別のものが載せられています。

塔身には「文保弐年戊午歳九月日」の刻銘があり、これにより鎌倉時代末期の文保2年(1318年)9月に建立されたことが明確にわかります。在銘の七重石塔は全国的に見ても数が限られており、各部が良く揃った完成度の高い作例として、石造美術研究において重要な位置を占めています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

赤人寺七重塔は、昭和35年(1960年)2月9日に国の重要文化財(建造物)に指定されました。その指定理由には、複数の重要な要素があります。

第一に、鎌倉時代後期の石造七重塔として、基礎から笠石に至るまで各部がよく揃い、均整のとれた美しいプロポーションを保っている点が高く評価されています。第二に、明確な紀年銘(文保2年)を持つことから、鎌倉時代の石造技術や様式の編年研究において、基準となる貴重な作例です。第三に、東近江市の蒲生地区は中世石造物の宝庫として知られており、この七重塔はその地域文化を代表する遺産の一つとして、歴史的・学術的に大きな価値を持っています。

山部赤人と赤人寺の伝説

赤人寺は、奈良時代の万葉歌人・山部赤人(やまべのあかひと)が開創したと伝えられています。赤人は、柿本人麻呂と並んで「歌聖」と称される日本文学史上屈指の歌人であり、三十六歌仙の一人にも数えられています。万葉集には長歌13首・短歌37首の計50首が収められ、百人一首にも選ばれた「田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りける」の歌はあまりにも有名です。

寺伝によれば、赤人は田子浦より夢のお告げに導かれ、如意輪観音の小像を念持仏として携えてこの地を訪れました。蒲生野を遊歴した際、桜の木に冠をかけたところ外れなくなり、再び夢告を受けて「この地こそ仏法興隆の勝地なり」と悟り、寺を創建したとされます。元正天皇より「養老山」の勅額を賜り、赤人はこの地で観世音を護持しながら生涯を閉じたと伝えられています。

なお、近代の研究によれば、実際には中世の寄進状に「あかう寺」と記された観音信仰の村堂が原型で、江戸時代後期にかけて山部赤人との結びつきが定着したとされています。しかし、その伝説が生み出した独特の文化的景観は、この地の大きな魅力となっています。

見どころ・魅力

赤人寺を訪れた際にぜひ注目していただきたいポイントをご紹介します。

最大の見どころである七重石塔は、境内で間近に観賞することができます。七段の笠石が下から上へと少しずつ小さくなる端正な姿は、700年以上の風雪を経てなお美しく、鎌倉時代の石造技術の精緻さを今に伝えています。苔むした石の表面は、時の流れを静かに物語ります。

境内には「赤人桜」(別名「冠かけの桜」)があります。赤人が冠をかけたという伝説にまつわるこの桜は、春には美しい花を咲かせ、万葉の歌人にまつわるロマンを一層引き立てます。

隣接する山部神社には、赤人の代表的な和歌を刻んだ歌碑が建てられています。赤人を祭神とする神社と寺が並んで建つ光景は、神仏習合の名残を感じさせる趣深い風景です。また、山部神社文書63点(市指定文化財)や室町時代の掛仏など、歴史的に貴重な遺品も伝わっています。

下麻生の集落は、12世紀頃に花山院家領の麻生荘として開かれた土地であり、周辺には中世の石造物が数多く残されています。田園風景の中に荘園時代の歴史が息づく、静かで奥深いエリアです。

周辺情報・近隣の観光スポット

東近江市および滋賀県東部エリアには、赤人寺とあわせて訪れたい文化財・観光スポットが豊富にあります。

  • 石塔寺(いしどうじ):東近江市蒲生地区にある石造物の宝庫。平安時代の阿育王塔(三重石塔)をはじめ、各時代の石造物が無数に並ぶ圧巻の光景は、石造美術ファン必見です。
  • 五個荘近江商人屋敷:近江商人の旧宅を公開した博物館群。藤井彦四郎邸・外村繁邸などで、日本の商人文化の真髄に触れることができます。
  • 永源寺:臨済宗の名刹で、紅葉の名所として名高い渓谷の禅寺。秋の紅葉シーズンは格別の美しさです。
  • 琵琶湖:日本最大の淡水湖。湖畔サイクリングやクルーズ、近江牛グルメなど多彩な楽しみ方があります。

アクセス・交通情報

赤人寺は東近江市の農村部に位置しています。公共交通機関の場合、近江鉄道八日市駅から近江バスに乗車し、麻生口(あそうぐち)バス停で下車、そこから西へ徒歩約500メートルで到着します。ただし、バスの運行本数が限られているため、事前に時刻表を確認されることをおすすめします。

車でのアクセスの場合、名神高速道路八日市インターチェンジから南へ約15分です。境内入口に普通車約10台分の駐車スペースがあります。

拝観料は無料で、境内は常時自由に見学できると思われますが、小規模な地域の寺院のため、売店やトイレなどの観光施設は整っていません。食事は八日市駅周辺や近江八幡方面で済ませてから訪問されると安心です。

Q&A

Q赤人寺七重塔とはどのようなものですか?
A文保2年(1318年)に建立された、高さ約2.1メートルの石造七重塔です。鎌倉時代末期の貴重な石造美術として国の重要文化財に指定されています。基礎・塔身・七段の笠石からなり、万葉歌人・山部赤人の供養塔とも伝えられています。
Q拝観料はかかりますか?
A拝観料は不要です。赤人寺は小規模な地域の寺院で、七重石塔は境内で自由に見学できると思われます。ただし、堂内の拝観については公開状況が不明なため、現地でご確認ください。
Q山部赤人とはどのような人物ですか?
A奈良時代(8世紀前半)に活躍した万葉歌人で、柿本人麻呂と並び「歌聖」と称されました。三十六歌仙の一人であり、万葉集に50首の歌が収められています。百人一首の「田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りける」は特に有名です。
Q公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
A近江鉄道八日市駅から近江バスに乗り、麻生口(あそうぐち)バス停で下車、徒歩約500メートルです。バスの本数が少ないため、事前に時刻表を確認してください。車でのアクセスが最も便利で、名神高速八日市ICから約15分です。駐車場は約10台分あります。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A一年を通じて訪問可能です。特に春は境内の「赤人桜」が咲き、万葉の雰囲気を一層楽しめます。秋の紅葉シーズンも周辺の景色が美しく、近隣の永源寺の紅葉と組み合わせた日帰り旅がおすすめです。

基本情報

名称 赤人寺七重塔(しゃくにんじ しちじゅうのとう)
文化財指定 国指定重要文化財(建造物)/昭和35年(1960年)2月9日指定
時代 鎌倉時代後期/文保2年(1318年)
構造・形式 石造七重塔
高さ 約2.1メートル(基礎から第七笠石まで)
寺院名 赤人寺(しゃくにんじ/あかひとでら)
山号 養老山(ようろうざん)
宗派 天台宗
本尊 如意輪観音
所在地 滋賀県東近江市下麻生町212
所有者 赤人寺
拝観料 無料
駐車場 あり(普通車約10台)
アクセス 近江バス「麻生口」バス停より徒歩約500m/名神高速道路八日市ICから車で約15分
問い合わせ 東近江市観光協会 TEL: 0748-29-3920

参考文献

国指定文化財等データベース — 赤人寺七重塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1728
山部神社・赤人寺(しゃくにんじ) — 東近江市観光サイト
https://www.higashiomi.net/media/miru/yamabeshakuninji
滋賀県東近江市 山部神社,赤人寺 — japan-geographic.tv
https://japan-geographic.tv/shiga/higashiomi-yamabejinja.html
山部赤人 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E9%83%A8%E8%B5%A4%E4%BA%BA
山部神社 滋賀県東近江市下麻生町 — 神社と古事記
https://www.buccyake-kojiki.com/archives/1043751735.html
赤人寺 — いこーよ
https://iko-yo.net/facilities/34471
滋賀県 国宝・国指定重要文化財(建造物) — 文化遺産見学案内所
https://bunkaisan.exblog.jp/29629269/
赤人寺(滋賀県東近江市)万葉歌人山部赤人ゆかりの寺 — お寺の風景と陶芸
https://tempsera.at.webry.info/200903/article_14.html
山部神社・赤人寺 — 滋賀県観光情報公式サイト
https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1676/

最終更新日: 2026.03.25