最後に通される座敷

双葉館魚寅楼奥座敷(ふたばかんうおとらろうおくざしき)は、滋賀県草津市草津二丁目にある木造2階建の座敷棟で、昭和初期の建築とされ、平成20年(2008年)4月18日に国の登録有形文化財(建造物)となった。本館の東側に接続し、庭園に面して建つ。

建築面積は114平方メートル。本館の半分に満たない。この比率にこそ意味がある。この時期の料亭建築は座敷を格と親密さの度合いで序列づけており、「奥座敷」という語はその序列を名前のなかに含んでいる。表の間を通り抜けた先、建物の奥にある部屋のことである。

屋根は入母屋造と切妻造を組み合わせ、瓦を葺く。ひとつの棟に2つの屋根形式が混在するのは、一度に設計されたのではなく段階を踏んで整えられた建物であることを示唆する。

良材と、手のかかった仕上げ

文化庁の登録解説は、たいていの建物についてごく短い。この棟についてはめずらしく踏み込んだ書き方をしている。全体に良材を用い、丁寧に仕上げている、と。

その根拠は1階大広間の天井にある。折上格天井である。格縁を組んだ格天井が壁際で平らに接するのではなく、周囲を湾曲した支輪で持ち上げる。天井が室内に浮いているように見える。寺院や御殿の内部で最も格の高い空間に用いられてきた技法で、施工には精度が要る。格間の目地が通っていなければ目立つし、支輪は一定の曲率を全長にわたって保たなければならない。

この天井の下で顔を上げると、幾何がはたらく。周囲が持ち上がっているために視線は内側と上方へ導かれ、実際の天井高より部屋が高く感じられる。戦前の料亭がここに費用を割いたのは理由のあることだった。客は畳に座ると、献立より先に天井を読む。

1階も2階も、庭園側には縁と庇が巡る。下の縁は大広間と植栽をつなぎ、上の庇は2階に陰をつくって建具を雨から守る。装飾ではない。木と紙でできた開口部を持つ建物が、湖国の冬を越しながら庭に向かって開き続けるための構えである。

登録が守っているもの

登録有形文化財は、日本の建造物保護の2つの制度のうち軽いほうにあたる。平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた。重要文化財の指定が現状変更に許可を要するのに対し、登録は届出で足りる。所有者は使い続け、国は記録を持ち、必要に応じて助言する。

奥座敷の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は25-0256、第59回登録で、官報告示は同年5月7日。本館(25-0255)と塀(25-0257)も同日付で登録されている。

台帳には一点、注意しておきたい記載がある。時代は「昭和前」、年代は「昭和初期」だが、西暦欄は1926-1988と幅で記される。62年間の幅であって、建築年ではない。本館の台帳が「1936頃/1988改修」となっていることから、この幅は昭和初期の建設と後年の改修工事を両端に取ったものと考えられる。確定した建築年を国のデータベースから読み取ることはできない。

3件で1つの料亭

奥座敷を単体で読むと、この建物は小さく見える。登録の対象は1軒の料亭を構成する3つの要素、すなわち角地の本館、その背後のこの座敷棟、そして道路沿いに延びる11メートルの塀である。3件を合わせると、閉じた街道側の顔、大人数を受ける表の大広間、庭に面した奥の座敷という、戦前の料亭の平面がひととおり揃う。

草津にこの種の店が成り立った背景はある。東海道五十三次の52番目の宿場であり、中山道が合流する地点であった。近隣には国史跡の草津宿本陣が現存し、その規模は現存例のなかでも最大級とされる。魚寅楼を営む店は本陣料理の系譜を継ぐ老舗を称し、創業から170年ほどと説明する。いずれも文化庁の台帳には見えない情報で、店側の由緒として扱うのが妥当である。

奥座敷を訪ねる

奥座敷は本館の背後にあり、道路から姿は見えない。赤い内法壁の本館北面や登録された塀は歩道から目に入るが、この棟は通行人の視界に入らない。

立ち入るには、敷地で営業する料亭「双葉 魚寅楼」を利用することになる。つまり予約が前提である。個室は2名から40名程度まで対応するとされ、夜の会席は8,800円程度から(サービス料別)と紹介されているが、予約時の確認が確実だ。奥座敷の部屋を、あるいは折上格天井の下を希望する場合は、当日の割り振りに任せず予約の段階で伝えたほうがよい。座敷の配分は人数とその日の予約状況で決まる。

料理は琵琶湖に寄っている。ニゴロブナを半年以上漬け込む鮒ずし、本モロコ。屋内での撮影は店に確認したい。定休日は不定、敷地内駐車場は台数が限られ、資料によって4台とも10台とも記される。JR草津駅東口から徒歩約11分。草津宿本陣と草津宿街道交流館は歩いて回れる距離にあり、半日で宿場町をまとめて見ることができる。

Q&A

Q双葉館魚寅楼奥座敷を外から見ることはできますか。
Aできません。奥座敷は本館の背後にあり庭園に面しているため、公道から姿は見えません。外から見学できるのは本館の街道側の外観と登録有形文化財の塀です。
Q双葉館魚寅楼奥座敷の折上格天井とはどのようなものですか。
A格天井の周囲を湾曲した支輪で持ち上げ、天井が浮いて見えるようにした形式です。寺院や御殿で最も格の高い部屋に用いられてきた技法で、奥座敷では1階の大広間に設けられています。
Q双葉館魚寅楼奥座敷はいつ建てられたのですか。
A文化庁のデータベースでは時代が昭和前、年代が昭和初期とされ、西暦欄は1926-1988と幅で記録されています。建築年そのものは国のデータベースからは特定できません。
Q双葉館魚寅楼奥座敷の規模はどれくらいですか。
A木造2階建、瓦葺で建築面積114平方メートル、屋根は入母屋造と切妻造を組み合わせます。接続する本館は243平方メートルです。
Q双葉館魚寅楼奥座敷は重要文化財ですか。
A重要文化財ではなく、登録有形文化財(建造物)です。登録番号25-0256、平成20年(2008年)4月18日登録。届出制のため、料亭として使い続けながら保存できる仕組みになっています。

基本情報

名称双葉館魚寅楼奥座敷(ふたばかんうおとらろうおくざしき)
所在地滋賀県草津市草津二丁目字下御田伝532他(住居表示は草津2丁目12-3)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの/登録番号 25-0256
指定年平成20年(2008年)4月18日登録、同年5月7日告示(第59回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積114平方メートル(入母屋造及び切妻造)
所有者文化庁データベースに記載なし
公開状況公道から見えない位置。内部は料亭「双葉 魚寅楼」の予約利用者に限る。不定休。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)双葉館魚寅楼奥座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007056
文化遺産オンライン 双葉館魚寅楼奥座敷
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/142818
国指定文化財等データベース(文化庁)双葉館魚寅楼本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007055
草津市観光物産協会 双葉館 魚寅楼本館・奥座敷・塀【登録有形文化財】
https://kanko-kusatsu.com/spot/futabakan
双葉魚寅楼・カフェトラ 公式サイト
https://kcmt101.gorp.jp/

最終更新日: 2026.07.30