廊下の連なりに一箇所だけ設けられた防火区画

近江神宮参集所登廊は、滋賀県大津市神宮町の近江神宮境内にある昭和19年(1944年)建築の登廊で、平成10年(1998年)に国の登録有形文化財に登録された。

境内の北半分は山の斜面を昇っていく地形で、建物どうしは切り離されずに廊下でつながれている。神饌所と神楽殿から北へ、参集所、社務所を経て、いちばん奥の斎館まで、登廊や渡り廊下が一本の鎖のように続く。参集所登廊はそのほぼ中間にあたる。

建築面積は12平方メートル。小さいが、この鎖のなかで一箇所だけ担っている役目がある。

防火扉と卯建状の防火壁

階段の中途、踊場にあたる位置に防火扉を設け、そこから防火壁を屋根の上へ立ち上げている。町家の卯建のように棟をつき抜けて伸びる壁で、その上面だけは瓦葺とする。ほかの部分がすべて銅板葺であるなかで、ここだけ瓦なのは理屈にかなっている。銅板は熱で溶けるが、瓦は溶けない。

廊下の連なり全体を見渡しても、こうした遮断が用意されたのはここだけである。下方の建物群で火が出た場合、延焼を食い止める線としてこの位置が選ばれた。しかも設計者は、その仕掛けを構造の内側に隠さず、銅板の屋根を断ち切る瓦の一筋として外から見える形で処理した。仕事の姿勢がうかがえる。

登録は平成10年10月9日付、登録番号25-0081、登録基準は「造形の規範となっているもの」である。第二期工事にあたる昭和19年の建築で、近江神宮そのものは天智天皇を祀って昭和15年(1940年)に創建された。社殿群の計画は内務省神社局によるもので、設計は角南隆と谷重雄が担った。

見どころ

下の参道から屋根の線を追うと、変化はすぐに見つかる。銅板が続き、短い区間だけ瓦がわずかに高く立ち上がり、また銅板に戻る。装飾のアクセントだと思って通り過ぎる人が多い。実際には防火のための工作である。

登廊は神職の動線に組み込まれた施設で、内部の見学はできない。屋根と立ち上がった防火壁は境内北側の参道から見当をつけられるし、外からの撮影に制限はない。境内の参拝時間は6時から18時、参拝は無料である。

斜面をどう処理したかに関心があるなら、北側の区域はゆっくり歩く価値がある。この一帯には性格の異なる登廊・廊下が登録文化財として複数残っており、一棟ずつ見るよりも並べて読んだほうが設計の意図が浮かび上がる。

アクセスは京阪石山坂本線の近江神宮前駅から徒歩約9分。駐車場は200台分あり、正月期間を除いて無料である。

よくある質問

Q近江神宮参集所登廊は、ほかの登廊と何が違うのですか。
A防火区画が設けられている唯一の登廊です。階段中途の踊場に防火扉を置き、防火壁を屋根の上まで卯建のように立ち上げて、上面だけ瓦を葺いています。神饌所から斎館まで続く廊下の連なりのなかで、こうした遮断はここにしかありません。
Q近江神宮参集所登廊の内部を通ることはできますか。
Aできません。神職が使う建物どうしを結ぶ施設のため、一般の通行や見学は受け付けていません。屋根と立ち上がった防火壁は境内北側の参道から見ることができ、外観の撮影に制限はありません。境内の参拝時間は6時から18時、無料です。
Q近江神宮参集所登廊はいつ建てられたのですか。
A昭和19年(1944年)、第二期工事によるものです。近江神宮は天智天皇6年(667年)に飛鳥から大津へ遷都した天智天皇を祀って昭和15年(1940年)に創建され、本殿をはじめとする主要社殿は第一期にあたります。
Q近江神宮参集所登廊はなぜ「登録」で「指定」ではないのですか。
A登録有形文化財は平成8年(1996年)に設けられた制度で、築おおむね50年以上の建物を、指定より軽い枠組みで保護します。改変には許可ではなく届出で足ります。参集所登廊の登録は平成10年10月9日、登録番号25-0081です。
Q近江神宮参集所登廊へはどう行けばよいですか。
A京阪石山坂本線の近江神宮前駅から徒歩約9分、うち半分ほどは境内の中です。外拝殿を過ぎて北側の区域へ進んでください。京都方面からはJR湖西線で大津京駅まで約11分、京阪大津京駅までは約150メートルの徒歩連絡になります。

基本データ

名称近江神宮参集所登廊(おうみじんぐうさんしゅうじょのぼりろう)
所在地滋賀県大津市神宮町1-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 25-0081
指定年平成10年(1998年)10月9日登録、同月26日告示
員数1棟
寸法建築面積12平方メートル、木造平屋建、銅板葺一部瓦葺
所有者近江神宮
公開状況内部非公開、参道から外観を望見可。境内参拝時間は6時から18時、無料

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000859
近江神宮公式サイト「境内図と境内各所のご案内」
https://oumijingu.org/pages/96/
近江神宮公式サイト「交通アクセス」
https://oumijingu.org/pages/85/
文化遺産オンライン「近江神宮本殿」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/166142

最終更新日: 2026.07.23