旧江津郵便局:明治の洋風建築が彩る島根の港町
島根県江津市の歴史的な町並み「天領江津本町甍街道」に佇む旧江津郵便局は、明治20年(1887年)頃に建てられた日本最古級の郵便局舎の一つです。地元の材木商が神戸の洋館を手本に建築したこの木造2階建ての建物は、白漆喰の壁や青く塗られた柱・窓枠が特徴的で、伝統的な赤瓦の家並みに華やかな彩りを添えています。2009年(平成21年)に国の登録有形文化財に登録され、江の川河口の港町として栄えた江津の歴史を今に伝える貴重な建築遺産です。
歴史的背景
江津郵便局の歴史は、明治5年(1872年)7月1日に設置された「郷田郵便取扱所」にまで遡ります。日本の近代郵便制度の黎明期に誕生したこの取扱所は、等級の変更を経ながら、明治23年(1890年)4月1日に「江津郵便局」と改称されました。
現存する局舎は明治20年頃、当時の郵便局長が地元の材木商・豊田藤太郎に依頼して建築したものです。豊田は神戸まで出向き、貿易館や教会などの洋風建築を視察。その意匠を島根の地に再現しました。完成時は「郷田郵便局」の名称で営業しており、地元では「旧郷田郵便取扱所」の名で親しまれることもあります。局所原簿によると、昭和2年(1927年)9月末まで郵便局として使用されました。
建物が立地する江津本町は、中国地方最大の河川・江の川の河口に位置する港町です。江戸時代には幕府直轄地(天領)として大森代官所の管轄下に置かれ、寛文年間に上方航路が開かれると、北前船の寄港地や天領米の積出港として大いに賑わいました。川岸には40~50隻の帆船が林立し、多くの廻船問屋の蔵屋敷が軒を並べていたと伝えられています。
文化財指定の理由
旧江津郵便局は、2009年(平成21年)1月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その登録にあたっては、いくつかの重要な価値が認められています。明治20年代の郵便局舎がこれほど良好な状態で現存すること自体が非常に稀であり、日本最古のレトロ郵便局舎の一つとして貴重な存在です。また、地方における明治期の西洋建築受容の過程を示す建築史上の資料としての価値も高く評価されています。さらに、川港町として栄えた江津本町の伝統的な家並みに独特の彩りを添える景観的価値も認められています。
建築の見どころ
建築面積わずか38平方メートルながら、旧江津郵便局には洋風建築の意匠が凝縮されています。木造2階建ての建物は寄棟造妻入の桟瓦葺で、1階正面にはポーチ、2階にはバルコニーが設けられており、神戸の洋館から着想を得た西洋的な意匠が随所に見られます。
外壁は白漆喰仕上げで、建物の隅には鼠漆喰(ねずみしっくい)を用いて西洋建築のコーナーストーンを模した装飾が施されています。日本の左官技術と西洋のデザインを融合させたこの手法は、当時の職人の工夫と創造性を物語っています。柱や窓枠は鮮やかな青色に塗装されており、周囲の赤瓦の家並みとの対比が美しく、甍街道の中でひときわ目を引く存在となっています。
建物の前には「鼻ぐり石」と呼ばれる穴の開いた石が残されています。かつて荷物を運んできた牛馬を繋いでおくために使われたもので、港町としての賑わいを偲ばせる貴重な遺物です。
修復と保存の取り組み
長い年月を経て老朽化が進んでいた旧江津郵便局舎は、2007年~2008年(平成19年~20年)頃に改修工事が行われ、歴史的な外観を保ちながら構造の補強が施されました。この修復は、江津本町地区全体の歴史的建造物を活かしたまちづくりの一環として実施されたものです。2003年(平成15年)には、夢街道ルネサンス推進会議によってこの地区が「モデル地区」に認定されており、「天領江津本町甍街道」として地域住民を中心とした保存・活用の取り組みが続けられています。
訪問情報
旧江津郵便局は天領江津本町甍街道沿いに位置しており、赤瓦の家並みが続く美しい歴史的町並みの散策とあわせて楽しむことができます。建物は主に外観を鑑賞する形となります。甍街道沿いには、旧江津町役場本庁舎(大正15年築・国登録有形文化財)をはじめ、商家や土蔵、数多くの神社仏閣が点在しており、見応えのある町歩きコースとなっています。
毎年春には町歩きイベント「ふらり」が開催され、スタンプラリーや地元の出店が並び、普段は静かな甍街道が一日賑わいを見せます。ガイドツアーも利用可能で、町並みの歴史を詳しく知ることができます。
周辺の観光スポット
江津市とその周辺には、山陰地方ならではの魅力的なスポットが数多くあります。
- 江の川:中国地方最大の河川で、河口付近からの景観は江津の港町としての歴史を感じさせます。
- 有福温泉:江津市中心部から車で約20分。1,350年以上の歴史を持つ名湯で、美肌の湯として知られています。山あいの静かな温泉街でゆったりとした時間を過ごせます。
- しまね海洋館アクアス:浜田市と江津市にまたがる中四国地方最大級の水族館。シロイルカのバブルリングが人気です。
- 石州瓦:江津市は日本三大瓦の一つ「石州瓦」の主要産地。鮮やかな赤色と優れた耐久性で知られ、甍街道の赤瓦の景観もこの瓦によるものです。
- 石見神楽:石見地方に伝わる勇壮華麗な伝統芸能。地元の神社や会場で年間を通じて公演が行われています。
Q&A
- 旧江津郵便局はいつ建てられましたか?
- 明治20年(1887年)頃に建築されたとされています。日本最古級の郵便局舎の一つと考えられており、2007年~2008年頃に改修工事が行われ、歴史的な外観が復元されました。
- 旧江津郵便局の内部を見学できますか?
- 基本的には外観の見学が中心となります。天領江津本町甍街道の散策とあわせてお楽しみください。最新の見学情報については、江津市観光協会(TEL: 0855-52-0534)にお問い合わせください。
- 旧江津郵便局へのアクセス方法は?
- JR山陰本線「江津駅」から徒歩約17分、タクシーで約5分です。お車の場合は、山陰自動車道「江津IC」から約5~10分でアクセスできます。
- 天領江津本町甍街道とはどんな場所ですか?
- 江津本町にある歴史的な町並みで、江戸時代から昭和初期にかけての建造物が数多く残されています。「甍(いらか)」とは瓦葺きの屋根のことで、石州瓦の赤い屋根が特徴的な景観が広がっています。2003年に夢街道ルネサンス推進会議の「モデル地区」に認定されました。
- 旧江津郵便局の建築的な特徴は何ですか?
- 地元の材木商が神戸の洋館を参考に建てた擬洋風建築です。白漆喰の外壁、鼠漆喰によるコーナーストーン風の装飾、青く塗装された柱と窓枠、1階のポーチ、2階のバルコニーなど、和洋折衷の意匠が凝縮されています。建築面積は38平方メートルとコンパクトながら、見応えのある建物です。
基本情報
| 名称 | 旧江津郵便局(きゅうごうつゆうびんきょく) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2009年(平成21年)1月8日 |
| 建築年代 | 明治20年(1887年)頃 / 2008年改修 |
| 構造 | 木造2階建、寄棟造妻入桟瓦葺、建築面積38㎡ |
| 所在地 | 〒695-0011 島根県江津市江津町337 |
| 所有者 | 江津市 |
| アクセス | JR山陰本線「江津駅」から徒歩約17分(タクシー約5分)/山陰自動車道「江津IC」から車で約5~10分 |
| お問い合わせ | 江津市観光協会 TEL: 0855-52-0534 |
参考文献
- 旧江津郵便局 – 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/120607
- 日本最古の現存レトロ郵便局舎の1つ|旧江津郵便局 – レトロ郵便局
- https://retropost.net/goutsu/
- 天領江津本町甍街道 – 江津市ホームページ
- https://www.city.gotsu.lg.jp/soshiki/4/4657.html
- 江津本町 甍街道 – 江津市観光協会
- https://gotsu-kanko.jp/kankou/rekishi/irakakaido
- 江津本町甍街道 – しまね観光ナビ(島根県公式観光情報サイト)
- https://www.kankou-shimane.com/destination/47054
最終更新日: 2026.04.01