本町通りに妻を向ける
藤田家住宅東蔵は、島根県江津市江津町にある明治前期の土蔵で、平成21年(2009年)1月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。主屋とは本町通りを挟んだ西側の敷地に建ち、この敷地に残る三棟の土蔵のうち、通りに最も近い東北隅を占める。
規模は桁行6.2メートル、梁間5.0メートル、建築面積43平方メートル。切妻造の妻入とし、東面する妻壁が本町通りに正対する。長手を通りに見せる平入ではなく、あえて三角の妻を街路に向けた構えである。荷の出し入れという実用に即した向きでもあり、同時に、通りから見たときの輪郭を明快にする効果を生んでいる。
南面には下屋が付くが、これは後補と記録されている。当初形式の箱形の輪郭がここで途切れており、その途切れ方自体が、この蔵が使われ続けてきた痕跡になっている。
登録の基準と、天領江津本町という文脈
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。三つある登録基準の第一号にあたる。単体の建築としての完成度ではなく、町並みへの寄与を評価する基準であり、この蔵の価値の所在をよく言い当てている。
江津本町は江の川河口から約2キロの位置にあり、江戸時代には幕府直轄地である大森代官所領に組み込まれた。17世紀後半に上方航路が開かれると、北前船の寄港地、天領米の積出港として賑わい、川岸から町中に向けて商家の蔵屋敷が軒を連ねたと伝わる。町の中心を旧山陰道が貫き、東は大森銀山、西は浜田へと通じていた。蔵は、そうした港町の経済を支える装置であると同時に、街路景観を構成する主要な要素でもあった。
藤田家住宅は、主屋(嘉永6年・1853年)、内蔵、新蔵及び料理場、東蔵、北蔵、南蔵、表門、塀の8棟が同日に一括登録されている。登録番号は32-0086から32-0093まで連続する。江戸末期から明治前期にかけて段階的に整えられた屋敷構えが、主屋・付属屋・工作物までほぼ揃った状態で残る例は、石見地方でも多くない。東蔵はその一角を担う。
石州赤瓦と白漆喰、そして見学の作法
屋根は石州赤瓦で葺く。石州瓦は三州瓦・淡路瓦と並ぶ日本三大瓦の一つで、江津市都野津町を模式地とする都野津層の粘土を素地とし、出雲地方産の来待石から得た釉薬を掛けて1200度以上で焼成する。高温焼成によって気孔が減るため吸水しにくく、凍害に強い。日本海側の町並みが赤い屋根を連ねるのは、この耐凍害性によるところが大きい。江津はその産地の中心にあたる。
外壁は白漆喰仕上げ。赤瓦、白漆喰、黒板塀という三色の対比が本町の町並みの基調をなしており、東蔵はその対比を通りの角で最も端的に示す位置に立つ。
藤田家住宅は個人の住宅であり、内部は公開されていない。拝観時間も拝観料も設定がなく、見学は本町通りからの外観に限られる。道路上からの撮影は自由だが、敷地内に立ち入ることや扉に近づくことは避けたい。
アクセスはJR山陰本線江津駅から南へ約1.5キロ、徒歩20分ほど。路線バスで江津本町のバス停まで行く方法もある。周辺には大正15年(1926年)建築の旧江津町役場(現・甍街道交流館)や明治前期の擬洋風建築である旧江津郵便局が同じく登録有形文化財として残り、本町川沿いには牛馬をつないだ鼻ぐり石、旧山陰道の石畳の土床坂と「従是西濱田領」の境界石柱も見られる。一時間ほど歩けば町の骨格がつかめる。
Q&A
- 藤田家住宅東蔵は見学できますか。内部は公開されていますか。
- 個人の住宅のため内部は非公開で、拝観時間・拝観料の設定もありません。本町通りからの外観見学のみとなります。
- 藤田家住宅東蔵はどこにあり、どう行けばよいですか。
- 島根県江津市江津町154、江の川河口近くの江津本町地区にあります。JR江津駅から南へ約1.5キロ、徒歩20分ほど。路線バスの江津本町バス停からも近い距離です。
- 藤田家住宅東蔵は他の藤田家の建物とどう違いますか。
- 平成21年に8棟が一括登録されたうち、東蔵は主屋と通りを隔てた西側敷地に建つ三棟の土蔵の一つです。三棟のなかで最も小さい建築面積43平方メートルの平屋建で、通りの角に接して建つ点が他と異なります。
- 藤田家住宅東蔵の屋根が赤いのはなぜですか。
- 石州赤瓦を葺いているためです。出雲産の来待石を釉薬に用い、1200度以上の高温で焼成することで赤褐色に発色し、あわせて凍害への強さを得ています。
- 藤田家住宅東蔵は重要文化財や国宝ですか。
- 登録有形文化財(建造物)です。重要文化財や国宝の「指定」より緩やかな保護制度で、所有者が住み続け、活用しながら守っていくことを前提としています。
基本情報
| 名称 | 藤田家住宅東蔵(ふじたけじゅうたくひがしぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 島根県江津市江津町154 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 32-0089 |
| 指定年 | 登録年月日 平成21年(2009年)1月8日/登録告示 同年1月22日(第62回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行6.2m、梁間5.0m、建築面積43平方メートル/土蔵造平屋建、瓦葺 |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 内部非公開。外観のみ道路上から見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)藤田家住宅東蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007539
- 国指定文化財等データベース(文化庁)藤田家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007536
- 江津市「天領江津本町甍街道」
- https://www.city.gotsu.lg.jp/soshiki/4/4657.html
- しまね観光ナビ(島根県公式観光情報サイト)「江津本町甍街道」
- https://www.kankou-shimane.com/destination/47054
- 石州瓦工業組合
- https://sekisyu-kawara.jp/
最終更新日: 2026.08.05