三つの前庭を画する26メートル
藤田家住宅塀は、島根県江津市江津町にある江戸末期の塀で、平成21年(2009年)1月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。総延長26メートル、木造・瓦葺、片引戸を伴う。種別は「その他工作物」であり、建築物ではなく門・塀・橋などを扱う区分に属する。
この塀の役割は、区切ることにある。主屋前面の三つの前庭、すなわち座敷前庭、カンジョウバ前庭、ドマ前庭を画する。座敷は客を迎える正式な室、カンジョウバは帳場にあたる室、ドマは土間まわりの作業空間で、それぞれ性格が異なる。敷地内を仕切る区間には潜りが設けられる。
つまり藤田家の前庭は一続きの空き地ではない。三つの庭が並び、それぞれ背後の室と結びついている。塀は、その区分を外側から読み取れる形にしている。勘定に来た者、座敷に通される客、荷を運び入れる者。誰がどこに立つかが、建物に入る前の段階で決まっていた。
そろえない、という選択
構造は簡明である。土台上に方柱を建て、腕木を出して軒桁を支え、屋根には石州赤瓦を葺く。石州瓦は1200度以上の高温で焼成され、吸水しにくく凍害に強い。江津はその産地の中心にあたり、塀の屋根にまで同じ瓦が用いられている点に地域性がよく出ている。
注目すべきは、揃えなかった部分である。文化庁の記載によれば、軒の出、棟高、壁の仕様が場所によって異なる。26メートルという長さであれば、一つの断面を反復して仕上げるほうがはるかに容易だったはずだが、そうはしていない。
違いは背後の序列に従っている。座敷前と土間前とでは求められる格式が異なり、塀の仕様もそれに応じて変えられた。結果として、通りを歩きながら塀に沿って進むと、軒線と壁面がいくたびか調子を変える。登録解説が「変化に富む屋敷景観を構成する」と評価するのは、この点である。
藤田家住宅は8棟が一括登録されており、登録番号は32-0086から32-0093まで連続する。うち江戸期にさかのぼるのは、この塀(32-0093)と表門(32-0092)の二件で、嘉永6年(1853年)の主屋よりさらに古い。表門は一間棟門、二軒繁垂木で、雲肘木風の女梁や絵様を彫った男梁、雲文様の鰭や降懸魚など細部に装飾を施す。門と塀は本町通りに面して一体の構えをなし、門が出入りの点を、塀が背後を編成する面を担う。
天領本町のなかで見る
江津本町は江の川河口から約2キロの位置にある。江戸時代には幕府直轄地として大森代官所領に組み込まれ、17世紀後半に上方航路が開かれると北前船の寄港地、天領米の積出港として賑わった。川岸から旧山陰道へ向けて商家の屋敷が連なり、平成15年(2003年)には夢街道ルネサンス推進会議によりモデル地区に認定されている。「天領江津本町甍街道」という呼称はこれに由来する。
藤田家住宅は個人の住宅で、内部は公開されていない。拝観料も拝観時間も設定はない。ただし塀は、屋敷構えのなかで外から見られることを前提に造られた唯一の要素であり、この条件下では最も見応えのある対象になる。通りから全長をたどり、軒の高さの変化を目で追い、片引戸と潜りの位置を確かめたい。道路上からの撮影は自由。敷地内への立ち入りは控えること。
アクセスはJR山陰本線江津駅から南へ約1.5キロ、徒歩20分ほど。路線バスの江津本町バス停も利用できる。本町通りを挟んだ向かい、江津町154の敷地には同家の東蔵・北蔵・南蔵が残る。地区内には大正15年(1926年)の旧江津町役場(現・甍街道交流館)、明治前期の擬洋風建築である旧江津郵便局、旧山陰道の石畳が残る土床坂、本町川沿いの鼻ぐり石などがあり、あわせて一時間ほどの町歩きになる。
Q&A
- 藤田家住宅塀とはどのような文化財ですか。
- 総延長26メートルの木造・瓦葺の塀で、種別は「その他工作物」です。主屋前面の座敷前庭・カンジョウバ前庭・ドマ前庭という三つの前庭を画し、敷地内を仕切る区間には潜りが設けられています。
- 藤田家住宅塀は見学できますか。
- 通りから全長を見ることができ、道路上からの撮影も自由です。屋敷そのものは個人の住宅で内部は非公開、拝観時間や拝観料の設定はありません。
- 藤田家住宅塀はいつ頃のものですか。
- 文化庁データベースは江戸末期(1830年から1867年の範囲)とします。8棟のうち江戸期にさかのぼるのは、この塀と表門の二件で、嘉永6年(1853年)の主屋より古いことになります。
- 藤田家住宅塀の軒の高さや壁が場所ごとに違うのはなぜですか。
- 軒の出、棟高、壁の仕様を区間ごとに変えているためです。背後にある室の格式の違いに対応した設えで、登録解説はこの変化を屋敷景観上の価値として挙げています。
- 藤田家住宅塀へのアクセスを教えてください。
- 所在地は島根県江津市江津町328、江津本町地区です。JR江津駅から南へ約1.5キロ、徒歩20分ほど。路線バスの江津本町バス停も近くにあります。
基本情報
| 名称 | 藤田家住宅塀(ふじたけじゅうたくへい) |
|---|---|
| 所在地 | 島根県江津市江津町328 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 32-0093/種別:住宅・その他工作物 |
| 指定年 | 登録年月日 平成21年(2009年)1月8日/登録告示 同年1月22日(第62回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 総延長26m/木造、瓦葺、片引戸付 |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 屋敷内部は非公開。塀は道路上から全長を見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)藤田家住宅塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007543
- 国指定文化財等データベース(文化庁)藤田家住宅表門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007542
- 江津市「天領江津本町甍街道」
- https://www.city.gotsu.lg.jp/soshiki/4/4657.html
- しまね観光ナビ(島根県公式観光情報サイト)「江津本町甍街道」
- https://www.kankou-shimane.com/destination/47054
- 江津市観光協会「江津本町 甍街道」
- https://gotsu-kanko.jp/kankou/rekishi/irakakaido
最終更新日: 2026.08.05