星神島オオミズナギドリ繁殖地:日本海に浮かぶ無人島と海鳥たちの繁殖の島

島根県隠岐諸島・西ノ島の西瀬崎から北へ約1.2キロメートル、周囲わずか0.7キロ、標高74メートルの小さな無人島がある。星神島と書いて「ほしのかみじま」と読む。国の文化財登録上の正式な仮名は「ほしのかんじま」だが、地元では「かみじま」の読みが通る。岸壁は険しく桟橋もなく、定期航路は存在しない。しかしこの小さな島には、毎年三月になると数万羽のオオミズナギドリが渡来し、土の斜面に横穴を掘って巣をつくり、一羽の雛を育てて去っていく。昭和13年(1938年)5月30日、国はこの島全体を天然記念物に指定した。

大山隠岐国立公園に含まれ、2012年に登録された隠岐ユネスコ世界ジオパークの構成要素でもある。西ノ島の高台や国賀海岸めぐりの観光船から島影は望めるが、上陸はもとより想定されていない。星神島の価値は、訪れる場所としてではなく、繁殖期の海鳥を支え続けてきた土地そのものにある。

海上の小さな信仰の島

星神島は行政上、島根県隠岐郡西ノ島町大字宇賀に属する。面積は約0.03平方キロメートル、周囲約0.7キロ。緯度経度はおよそ北緯36度09分、東経133度04分。島の側面は切り立った崖が大半を占め、頂部には土壌層と低い植生が広がる。オオミズナギドリが穴を掘って営巣できる地質条件を備えている。

江戸後期から明治期にかけて、日本海では北前船が大坂と北海道のあいだを往復していた。隠岐は風待ち港・物資補給地として年に4,500隻もの船が立ち寄った時代もあったとされる。星神島はその航路上にあり、船乗りたちが航海の安全を願って祈った島だと伝わる。地元の口承では、雨乞いの神としても信仰された。星神という名が信仰に由来するのか、それとも先にあった名前に信仰が結びついたのかは定かでない。

近代の天然記念物制度はこうした宗教的な意味づけを引き継ぐものではない。それでも昭和13年に星神島が国の天然記念物に指定されたとき、保護の対象になったのはこの島で千年単位の時間をかけて成立した生態系であり、結果としてかつての信仰の対象もそのまま守られることになった。

オオミズナギドリという海鳥

オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)は、日本産ミズナギドリ科のなかでもっとも大型の種である。全長約49センチ、翼を広げると約120センチに達する。体や翼の上面は灰色を帯びた褐色で、頭部から後頭にかけてはごま塩状の模様が広がり、翼下面は白い。和名「水薙鳥(みずなぎどり)」は、海面すれすれを翼を伸ばしたまま滑空する姿が、薙刀で水を切るさまに似ることに由来する。

海上では、風と気流を巧みに利用してほとんど羽ばたかずに長距離を飛ぶ。岩手県の繁殖地で行われた追跡調査では、雛への給餌期に親鳥が日帰りから最大2週間にわたる採餌旅行をおこない、北は釧路沖まで到達する例が確認されている。秋の渡りの際には、1日で約1,000キロメートル、5日間で約3,500キロメートルを移動した記録もある。

一方、陸上での動きは鈍い。足が体の後方についていて泳ぎに特化しているため、地上では歩くことが苦手で、調査時には素手で捕獲できることさえある。捕食者の入れない無人島が、この鳥の繁殖にとって不可欠である理由がここにある。

島の一年——繁殖期のサイクル

星神島のオオミズナギドリは三月、オーストラリア北部やパプアニューギニア、フィリピン近海といった越冬海域から戻ってくる。約3か月にわたる産卵前期間には、ペアの再会、旧巣穴の修復や新しい穴の掘削、海上での採餌が並行して進む。巣穴は入口の直径15〜20センチほど、奥行きは1メートル余りに及ぶ横穴で、最奥には葉や小枝が敷かれる。6月下旬、雌は白い卵を1個だけ産む。

抱卵は雌雄が交代でおこない、休みの個体は沖へ出て採餌する。孵化後、雛は日中ひとりで巣穴に残り、両親は遠距離を飛んで魚を持ち帰り、日没後に巣で吐き戻して与える。10月になると、雛の体重は親鳥の約1.5倍に達する。これは巣立ち後の数週間を生き延びるための脂肪である。やがて親鳥のほうが先に島を離れる。残された雛は約3週間、蓄えた脂肪で成長を続け、11月下旬から12月上旬にかけて海へ飛び立つ。

冬になると島は静まり返る。土の中の巣穴は草に覆われたまま、翌春に持ち主が戻ってくるのを待つ。

なぜ天然記念物に——昭和13年指定の背景

日本の天然記念物制度は、大正8年(1919年)の「史蹟名勝天然紀念物保存法」によって始まった。オオミズナギドリの繁殖地はその初期から指定の対象となり、最初は大正13年(1924年)の京都府舞鶴市・冠島である。続いて昭和3年(1928年)に北海道松前町の渡島大島、昭和10年(1935年)に岩手県釜石市の三貫島、そして昭和13年(1938年)5月30日に星神島が4番目の指定地となった。

指定基準は「(二)特有の産ではないが、日本著名の動物としてその保存を必要とするもの及びその棲息地」である。2年後の昭和15年には島後の沖ノ島が同じ目的で指定され、その後、新潟県粟島が昭和47年(1972年)に加わって、現在国の天然記念物に指定されたオオミズナギドリ繁殖地は全国で6か所となっている。そのうち2か所が隠岐諸島にあるという事実は、この群島が日本海の海鳥繁殖地として持つ重要性を示している。

指定に伴って管理団体は西ノ島町に定められ、同年7月13日付で告示された。指定は柵を設けたり一般の入場を物理的に制限したりするものではないが、無許可の改変や繁殖個体群への加害行為を禁じる効力を持つ。

隠岐の海鳥群島

星神島は、隠岐諸島で繁殖が確認されている海鳥の島々のひとつにすぎない。同じく国指定天然記念物の沖ノ島(昭和15年指定、隠岐の島町)に加え、知夫村の大波加島は島根県指定の天然記念物となっている。さらに白島、松島、二股島、大森島でもオオミズナギドリの繁殖が確認されている。星神島では、オオミズナギドリ以外にもウミネコ、絶滅危惧種のカンムリウミスズメ、ヒメクロウミツバメの繁殖が記録されている。

隠岐諸島の周辺海域は、南からの対馬暖流と北方系のリマン寒流が交差する好漁場である。マイワシ・マアジ・サバ類などの回遊魚が豊富で、これらを餌資源とすることでオオミズナギドリの大規模な繁殖が支えられている。隠岐の人々が古くから営んできた漁業と、星神島の海鳥たちとは、同じ海洋の生産性に依存して並び立ってきたといえる。

近年は新しい課題もある。隠岐の繁殖地のなかには、繁殖期の磯釣り客の増加によって個体数が減少しつつある場所がある。また、人為的に持ち込まれたネズミ類が、他の島の繁殖地で雛を捕食する深刻な被害を出している例も知られている。星神島の天然記念物指定は、こうした圧力に対する保護の枠組みの一部として機能している。

西ノ島から星神島の海鳥を知る

星神島そのものへの上陸は想定されておらず、定期航路も存在しない。この天然記念物を体感する方法は、西ノ島本島側の自然と、繁殖期に近海を飛ぶ海鳥そのものを通じて間接的に味わうことになる。

もっとも手軽なのは、別府港などを発着する「国賀めぐり定期観光船」に乗ることだろう。船は高さ257メートルの摩天崖、自然のアーチである通天橋、長さ約250メートルの天然洞窟「明暗の岩屋」など、西ノ島北西部の海岸線をめぐる。繁殖期にはこの沿岸一帯でオオミズナギドリやウミネコが頻繁に観察され、彼らが採餌する海を船上から見渡すことができる。摩天崖頂部の遊歩道からも、晴れた日には沖合を飛ぶ海鳥の群れを目で追える。

隠岐ユネスコ世界ジオパークの拠点施設では、地質と生態系の関係や、海鳥繁殖地の現状について解説が用意されている。海鳥が隠岐海域にいる時期は概ね3月から12月上旬、観察に適した時期は5月から9月にかけてである。

Q&A

Q星神島に上陸することはできますか?
A定期航路はなく、天然記念物としての保護の観点からも一般の上陸は想定されていません。研究目的での立ち入りには所定の手続きが必要です。観光で訪れる場合は、西ノ島側の高台や国賀海岸の観光船から島影を眺める形になります。
Q隠岐海域でオオミズナギドリを観察するのに適した時期はいつですか?
A3月から12月上旬まで滞在しますが、観察に適した時期は5月から9月です。日中は海上を群れで飛んで魚を追い、夜間に巣に戻るため、声は夜に聞こえることが多くなります。
Q星神島はなぜ昭和13年に指定されたのですか?
A江戸期以来、オオミズナギドリの集団繁殖地として古くから知られていました。昭和初期に日本各地の海鳥繁殖地を調査した結果、日本海側で特に重要な繁殖地のひとつと評価され、本種について4番目の国指定地として登録されました。
Qオオミズナギドリは毎年同じ巣穴に戻ってくるのですか?
A同じ巣穴に同じパートナーと戻ってくるケースが多いと報告されています。数千キロを越える渡りののち位置を特定する能力は、天体・嗅覚・地形記憶を組み合わせた航法によると考えられています。
Q国内の他のオオミズナギドリ繁殖地はどこですか?
A国の天然記念物指定地は6か所あります。京都府舞鶴市の冠島、北海道松前町の渡島大島、岩手県釜石市の三貫島、島根県の星神島と沖ノ島、新潟県の粟島です。指定外では伊豆諸島の御蔵島が世界最大規模の繁殖地として知られています。

基本情報

名称星神島オオミズナギドリ繁殖地
ふりがな(指定文書)ほしのかんじまおおみずなぎどりはんしょくち
種別天然記念物
指定年月日昭和13年(1938年)5月30日
指定基準(二)特有の産ではないが、日本著名の動物としてその保存を必要とするもの及びその棲息地
所在地島根県隠岐郡西ノ島町大字宇賀
位置北緯約36度09分、東経約133度04分(西ノ島・西瀬崎の北約1.2km)
面積約0.03平方キロメートル(約3ヘクタール)
周囲約0.7km
標高74m
管理団体西ノ島町(昭和13年7月13日告示)
公園・自然保護大山隠岐国立公園内、隠岐ユネスコ世界ジオパーク構成要素
アクセス一般の上陸は不可。西ノ島・別府港発着の国賀海岸観光船から島影を望むことが可能。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 星神島オオミズナギドリ繁殖地
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/2201
文化遺産オンライン — 星神島オオミズナギドリ繁殖地
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/202496
隠岐ユネスコ世界ジオパーク — オオミズナギドリ
https://www.oki-geopark.jp/geopark-sites-features-list/1155/
日本野鳥の会 — 隠岐諸島 重要野鳥生息地
https://mobile.wbsj.org/activity/conservation/habitat-conservation/miba/miba-16_okishoto/
西ノ島町観光協会 — アクセス・島内移動
https://nkk-oki.com/japan/access/
東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター — オオミズナギドリ
https://www.icrc.aori.u-tokyo.ac.jp/archipelago_Ohmizunagidori.html

最終更新日: 2026.05.27