久能山東照宮:徳川家康公が眠る最初の霊廟

静岡市駿河区、駿河湾を見下ろす久能山の山上に鎮座する久能山東照宮は、江戸幕府の創始者・徳川家康公が元和2年(1616年)に薨去された後、その遺命により最初に埋葬された神聖な場所です。日光東照宮の知名度が全国的に高い中、久能山東照宮は家康公の物語が始まる「原点」として、江戸初期の建築美をそのまま今に伝える貴重な存在です。

境内には、国宝に指定された本殿・石の間・拝殿に加え、楼門、神厩、鼓楼、神庫、神楽殿、神饌所、唐門、東門、渡廊、玉垣、廟門、末社日枝神社本殿(旧本地堂)、廟所宝塔の13棟が国の重要文化財に指定されています。本記事では、これらの重要文化財建造物群の魅力と歴史をご紹介いたします。

歴史的背景

久能山は古くから霊地とされ、推古天皇の時代に久能忠仁が補陀落山久能寺を開創したと伝えられています。戦国時代になると、武田信玄がこの山の要害としての価値を見出し、久能寺を北矢部(現在の清水区)に移転させて久能城を築きました。

武田氏滅亡後、駿河は徳川の支配下に入り、久能城も徳川氏のものとなりました。大御所として駿府に在城していた家康公は「久能城は駿府城の本丸と思う」とこの地の重要性を説いたと伝えられています。元和2年(1616年)4月17日に駿府城にて薨去された家康公の遺骸は、遺命に従いその日のうちに久能山に移されました。

二代将軍徳川秀忠は直ちに社殿の造営を命じ、棟梁・中井大和守正清の指揮のもと、わずか1年7ヶ月という驚異的な速さで元和3年(1617年)12月に社殿が完成しました。三代将軍徳川家光は、さらに楼門、神楽殿、鐘楼(現・鼓楼)、薬師堂(現・日枝神社)などを増築し、寛永17年(1640年)には木造だった廟所宝塔を現在の石造に建て替えました。正保2年(1645年)に宮号の宣下を受け、以降「東照宮」と称されるようになりました。

重要文化財に指定された理由

久能山東照宮の建造物群は、明治41年(1908年)および明治45年(1912年)に古社寺保存法に基づく特別保護建造物に指定され、文化財保護法のもとで重要文化財として引き継がれています。その文化財としての価値は多岐にわたります。

第一に、江戸初期の神社建築がほぼ完全な形で残されている点です。火災や戦禍で建造物を失った神社が多い中、久能山東照宮は17世紀初頭の境内構成をほぼそのまま保持しており、極めて稀有な事例です。

第二に、桃山時代の華やかな装飾様式と江戸時代の格式ある建築様式の橋渡しとなる作品群である点です。極彩色の漆塗り、金箔、精緻な彫刻は、時代の過渡期における芸術的感性を雄弁に物語っています。

第三に、全国に500社以上建立された東照宮の「原型」としての意義です。久能山の建造物群は、その後の東照宮建築がどのように発展していったかを理解するうえで欠かせない基準点となっています。

重要文化財建造物の見どころ

楼門(ろうもん)

石段を登って最初に出迎えてくれる壮麗な二階建ての門です。元和3年(1617年)の建造で、鮮やかな朱漆塗りが目を引きます。正面に掲げられた青い額は後水尾天皇の御宸筆による「東照大権現」の文字で、このため勅額御門とも称されます。中央の蟇股には平和の象徴である獏の極彩色の彫刻が施され、裏側には金色に輝く獅子と狛犬が鎮座しています。

神厩(しんきゅう)

楼門をくぐった先にある、神に仕える馬を飼育する建物です。家康公の愛馬がこの場所で主君の本殿を守り、生涯を終えたと伝えられています。現在は名匠・左甚五郎の作と伝わる白い木造の神馬像が安置されています。愛馬は死後、廟所の石垣の隅に埋葬されたと伝わり、武将と馬との深い絆を偲ばせます。

鼓楼(ころう)

創建当時は「鐘つき堂(鐘楼)」でしたが、明治時代の神仏分離に際して鐘を太鼓に替え、名称も鼓楼と改めました。このような改変がなされたことで、廃仏毀釈の波を乗り越えて現存することができた建造物です。

唐門(からもん)

拝殿正面に位置する四脚の門で、銅瓦本葺・黒漆塗の四方唐破風造りです。羽目板には唐獅子牡丹、黒松に鳥の透かし彫りが施され、繁栄と長寿を象徴する意匠が凝らされています。現在は通り抜けはできませんが、その精緻な装飾は間近で鑑賞することができます。

廟所宝塔(びょうしょほうとう)

境内で最も神聖な場所に立つこの宝塔は、徳川家康公の御遺骸が実際に埋葬された地点を示しています。廟門から約40段の石段を登った先にあり、参道の両側には家康公に仕えた武将たちが奉納した石灯籠が厳かに並びます。高さ5.5メートル、外廻り約8メートルの石造の塔で、前面に唐戸、軒の四隅に唐銅の風鐸が掛かっています。元和2年(1616年)の創建当初は木造桧皮葺でしたが、寛永17年(1640年)に三代将軍家光により現在の石造に建て替えられました。家康公の遺命により西向きに建てられており、その先には家康公の両親が子授け祈願をした鳳来寺、誕生の地・岡崎城、松平家の菩提寺・大樹寺、そして京の都へと一直線に続いています。

末社日枝神社本殿(旧本地堂)

もともとは薬師堂として建立された仏教建築で、神仏習合の時代には薬師如来が祀られていました。明治政府の神仏分離令により仏像が取り除かれ、日枝神社として再び神道の社に改められましたが、建築そのものは当時のまま保存されています。

その他の建造物

神庫(じんこ)は博物館が建設されるまで宝物を納めていた蔵です。神楽殿(かぐらでん)では神前の舞楽が奉納されます。神饌所(しんせんじょ)は神への供物を調製する建物です。東門(ひがしもん)、渡廊(わたりろう)、玉垣(たまがき)、廟門(びょうもん)は一体となって参拝者を段階的に聖域の奥へと導く空間構成を形づくっており、奥に進むにつれて増していく荘厳さが、建築的に巧みに演出されています。

参拝のご案内

久能山東照宮は年中無休で、参拝時間は午前9時から午後5時まで(最終受付午後4時)です。社殿拝観料は大人(高校生以上)700円、小人(小・中学生)200円です。博物館の入館には別途料金がかかります。

参拝には二つのルートがあります。一つは日本平ロープウェイを利用する方法で、日本平山頂から約5分の空中散歩で久能山へ渡ることができ、晴れた日には駿河湾や富士山の絶景を楽しめます。もう一つは、山下から1,159段の石段を登る表参道ルートです。昔の人々は「いちいちごくろうさん(1-1-5-9)」と洒落を言いながら登ったそうです。

JR静岡駅からは、しずてつジャストライン日本平線バス(約50分)で終点「日本平」下車後、ロープウェイに乗り換えます。お車の場合は、東名高速道路静岡ICまたは清水ICから日本平山頂まで約40分で、無料駐車場(約200台)が利用できます。

周辺の見どころ

日本平夢テラスは、建築家・隈研吾氏が設計した展望施設で、360度のパノラマビューから富士山や駿河湾を一望できます。久能山東照宮博物館には、家康公ゆかりの品々が収蔵されており、特にスペインの時計師ハンス・デ・エバロが1581年に製作した日本最古のゼンマイ式時計や、日本最古の鉛筆など貴重な品々を間近に見ることができます。

清水エリアには、世界遺産・富士山の構成資産である三保松原があり、天女の羽衣伝説で知られる美しい松林と富士山の眺望を楽しめます。静岡市中心部の駿府城公園は、家康公が晩年を過ごした城跡として知られ、復元された櫓や美しい庭園が整備されています。また、久能山の麓一帯は石垣いちごの名産地としても有名で、冬から春にかけていちご狩りを楽しむことができます。

Q&A

Q久能山東照宮と日光東照宮の違いは何ですか?
A久能山東照宮は元和2年(1616年)に家康公が最初に埋葬された場所に建てられた「最初の東照宮」です。日光東照宮はほぼ同時期に造営が始まりましたが、現在の社殿は三代将軍家光の「寛永の大造替」(1636年)によるものです。久能山の社殿は1617年の創建当時のものがそのまま残されており、国宝に指定されています。日光に比べて参拝者が少なく、落ち着いた雰囲気の中で参拝できるのも魅力です。
Q重要文化財に指定されている建造物はいくつありますか?
A楼門、神厩、鼓楼、神庫、神楽殿、神饌所、唐門、東門、渡廊、玉垣、廟門、末社日枝神社本殿(旧本地堂)、廟所宝塔の計13棟が重要文化財に指定されています。さらに本殿・石の間・拝殿が国宝に指定されており、境内全域は国の史跡「久能山」として保護されています。
Qロープウェイと石段、どちらがおすすめですか?
Aどちらにもそれぞれの魅力があります。日本平ロープウェイは約5分の空中散歩で駿河湾の絶景を楽しめます。1,159段の石段は20〜30分ほどかかりますが、歴史ある参道を体感できる貴重な体験です。片道ずつ異なるルートを利用するのもおすすめです。なお、石段は段差が大きい箇所もありますので、歩きやすい靴でお越しください。
Q廟所宝塔はなぜ西を向いているのですか?
A家康公の遺命によるものです。西の方角には、御両親が子授け祈願をされた鳳来寺、家康公誕生の地・岡崎城、松平家の菩提寺・大樹寺があり、さらにその先は京の都へと続いています。また、久能山東照宮と日光東照宮を直線で結ぶと、その中心に富士山が位置するとも言われています。
Q特別なイベントやライトアップはありますか?
Aはい、季節に応じて夜間特別拝観(ライトアップイベント)が開催されます。夜間拝観は日本平ロープウェイからのみ入場可能で、事前のチケット購入が必要です。また、毎年4月17日は家康公の命日にあたる例祭が執り行われます。早春には家康公お手植えの「実割梅」をはじめ、寒桜、河津桜、枝垂桜など多くの花が境内を彩ります。

基本情報

名称 久能山東照宮(くのうざんとうしょうぐう)
文化財指定 重要文化財13棟(楼門、神厩、鼓楼、神庫、神楽殿、神饌所、唐門、東門、渡廊、玉垣、廟門、末社日枝神社本殿、廟所宝塔)/国宝(本殿・石の間・拝殿、2010年指定)
創建 元和3年(1617年)竣工
棟梁 中井大和守正清
御祭神 徳川家康公(東照大権現)/相殿:豊臣秀吉公、織田信長公
所在地 〒422-8011 静岡県静岡市駿河区根古屋390
参拝時間 午前9時〜午後5時(年中無休・最終受付午後4時)
拝観料 大人700円/小人(小・中学生)200円
アクセス 日本平ロープウェイ(5分)または久能山下より石段1,159段(徒歩約20〜30分)。自動車の直接乗り入れは不可。
電話番号 054-237-2438
公式サイト https://www.toshogu.or.jp/

参考文献

久能山東照宮 公式サイト — 境内のご案内
https://www.toshogu.or.jp/worship/precincts.php
久能山東照宮 公式サイト — 拝観料のご案内
https://www.toshogu.or.jp/worship/fees.php
久能山東照宮 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/久能山東照宮
文化遺産データベース — 久能山東照宮 唐門
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/174352
久能山東照宮 | JAPAN WEB MAGAZINE
https://japan-web-magazine.com/japanese/shizuoka/kunozan-tosyogu/index.html

最終更新日: 2026.04.11

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  1. 久能山東照宮 唐門 0.01 km
  2. 久能山東照宮 渡廊 0.01 km
  3. 久能山東照宮 東門 0.01 km
  4. 久能山東照宮 廟門 0.02 km
  5. 久能山東照宮 玉垣 0.02 km
  6. 久能山東照宮 末社日枝神社本殿(旧本地堂) 0.02 km
  7. 久能山東照宮 神饌所 0.03 km
  8. 久能山東照宮 神楽殿 0.03 km
  9. 久能山東照宮 神庫 0.04 km
  10. 久能山東照宮 鼓楼 0.04 km
  11. 久能山東照宮 神厩 0.06 km
  12. 久能山東照宮 廟所宝塔 0.07 km
  13. 久能山東照宮 楼門 0.08 km