旧マッケンジー住宅:駿河湾を望むスパニッシュスタイルの白亜の洋館

静岡市駿河区高松の海岸沿いに佇む旧マッケンジー住宅は、「旧マッケンジー邸」の愛称で市民に親しまれてきた白壁の美しい洋館です。1940年(昭和15年)に竣工したこの邸宅は、著名な建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計によるもので、茶貿易商のダンカン・J・マッケンジーと社会福祉家のエミリー・M・マッケンジー夫妻の住まいとして建てられました。国の登録有形文化財であり、静岡県内に現存する唯一のヴォーリズ建築として、戦前の洋風住宅の貴重な姿を今に伝えています。

マッケンジー夫妻の足跡:お茶・社会福祉・静岡への深い愛

ダンカン・J・マッケンジーとエミリー・M・マッケンジー夫妻は、1918年(大正7年)にアメリカから静岡に来訪しました。ダンカンは茶貿易商として日本茶の販路拡張に尽力し、静岡茶の海外輸出に大きく貢献しました。一方、エミリー夫人は社会福祉活動に生涯を捧げ、その献身的な活動は市民から深く敬愛されました。彼女の功績が認められ、静岡市の名誉市民第1号に選ばれたことは、その貢献の大きさを如実に物語っています。

富士山を愛した夫妻は、1940年に駿河湾越しに富士山を望める高松の海辺の地を選び、自宅を建設しました。ダンカンの没後もエミリー夫人はこの邸宅に住み続けましたが、1972年(昭和47年)に帰国。その後、敷地の半分は静岡市に寄贈され、残りの土地と建物は市が買い取り、以来、市民に広く公開されてきました。

文化財としての価値:なぜ登録有形文化財に指定されたのか

旧マッケンジー住宅は、1997年(平成9年)12月12日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その理由は複数あります。まず、この建物は静岡県内で戦前に建てられた洋風住宅の中で現存する数少ないものの一つであり、昭和初期の住宅建築を知るうえで極めて貴重な存在です。さらに、静岡県内に現存する唯一のヴォーリズ建築であることから、日本の近代建築史においても特別な意義を持っています。

また、この邸宅は日本と欧米の国際交流の歴史を物語る文化遺産でもあります。マッケンジー夫妻が静岡の茶産業と地域社会に果たした役割は、この建物の歴史と深く結びついており、建築的価値のみならず、異文化交流と相互敬愛の象徴としても高く評価されています。

建築の見どころ:ヴォーリズが手がけたスパニッシュスタイルの邸宅

旧マッケンジー住宅は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが得意としたスパニッシュコロニアル様式の優美な作品です。最も印象的なのは、赤い西洋瓦葺きの屋根とスタッコ仕上げの荒い白壁が生み出す鮮やかなコントラストで、地中海を思わせる風格漂う外観を見せています。

建物は木造地上2階・地下1階建てで、望楼(展望塔)を備えており、建築面積は283平方メートルです。スパニッシュ建築の特徴であるアーチ型の窓が随所に配され、室内には豊かな自然光が差し込みます。中央に聳える展望塔からは、かつて富士山と駿河湾の壮大な眺望を楽しむことができました。

内部には、ヴォーリズ建築ならではの居住者への細やかな配慮が光ります。1階には広々とした食堂、当時としては先進的な設備を備えた台所、暖炉やオルガン・ピアノが置かれた書斎があり、夫妻の教養豊かな暮らしぶりが偲ばれます。書斎は他の部屋とは異なり木造の壁で仕上げられ、温かみのある親密な空間となっています。使用人のための和室が設けられているのも、日本の文化に配慮したヴォーリズらしい心遣いです。

2階には客室用の寝室や浴室が配され、建物全体に当時の調度品や設備が残されており、戦前の国際色豊かな暮らしを体感することができます。

建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの軌跡

ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964年)は、アメリカ合衆国カンザス州に生まれ、日本で1,600件以上もの建築を手がけた建築家であり、キリスト教伝道者、実業家でもありました。1905年にYMCAの紹介で英語教師として来日し、滋賀県近江八幡を拠点に活動を始めました。

ヴォーリズの建築哲学は「住む人のための建築」を信条とし、採光や通風に優れた設計、システムキッチンの導入など、当時としては画期的な住宅の近代化に貢献しました。大阪の大丸心斎橋店、関西学院大学キャンパス、神戸女学院の校舎群など、数多くの名建築を全国に残しています。1941年に日本国籍を取得し「一柳米来留(ひとつやなぎ めれる)」と改名。1964年に83歳で永眠するまで、日本の建築と社会に多大な貢献を果たしました。

HOMAM旧マッケンジー邸:新たな章の幕開け

旧マッケンジー住宅は、2023年度から2024年度にかけて耐震補強を含む大規模修繕が実施されました。修繕後は、旧マッケンジー住宅の意匠に合わせて建設された結婚式場と一体的に、「HOMAM旧マッケンジー邸」として新たなスタートを切りました。2026年3月14日にグランドオープンを迎え、旧マッケンジー住宅の一般公開は3月15日から再開、レストランも4月初旬から営業を開始する予定です。

この新たな取り組みにより、歴史的・文化的価値を守りながら、地域の活性化と市民の憩いの場としての役割を担い続けていきます。歴史ある文化財と現代の施設が融合するこの姿は、まさにマッケンジー夫妻が静岡の地域社会と深く結びついた精神を受け継ぐものといえるでしょう。

アクセス・来館案内

旧マッケンジー住宅へは、JR静岡駅南口から静鉄ジャストラインバス石田街道線(下島経由東大谷行き)に乗車し、「浜敷地」バス停で下車、徒歩約5分です。バスの所要時間は約15分で、1時間に1〜2本運行しています。お車でお越しの場合は無料駐車場をご利用いただけます。なお、国道150号線からの右折進入はできませんのでご注意ください。

入館料は無料です。「HOMAM旧マッケンジー邸」として結婚式事業と一体的に運営されているため、時間帯によっては住宅の一部が結婚式の待合として使用される場合があります。結婚式場施設自体は一般公開されていませんので、あらかじめご了承ください。

周辺の見どころ

旧マッケンジー住宅の周辺には、魅力的な観光スポットが点在しています。弥生時代の集落が復元された登呂遺跡・登呂博物館は、日本の古代史を身近に感じられるスポットです。日本平は駿河湾と富士山の大パノラマが広がる景勝地で、ロープウェイで久能山東照宮を参拝することもできます。1月から5月にかけては、久能海岸沿いの石垣いちご農園でいちご狩りを楽しめます。また、駿河区内にはロダンの彫刻コレクションで知られる静岡県立美術館もあり、芸術鑑賞と歴史散策を組み合わせた充実した一日を過ごすことができます。

Q&A

Q入館料はかかりますか?
A入館料は無料です。駐車場も無料でご利用いただけます。
Q開館時間と休館日を教えてください。
AHOMAM旧マッケンジー邸として運営されており、休館日は第2・第4火曜日と毎週水曜日(祝日を除く)です。最新の開館情報については、静岡市歴史文化課文化財保護係(054-221-1066)またはHOMAM(054-291-5445)にお問い合わせください。
Q旧マッケンジー住宅を設計したのは誰ですか?
Aアメリカ出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964年)の設計です。日本全国で1,600件以上の建築を手がけたヴォーリズの作品で、静岡県内に現存する唯一のヴォーリズ建築です。
Q静岡駅からのアクセスは?
AJR静岡駅南口から静鉄ジャストラインバス石田街道線に乗車し、「浜敷地」バス停で下車、徒歩約5分です。バスの所要時間は約15分です。
Qバリアフリー対応はしていますか?
A登録有形文化財の建造物であるため、当時の意匠を尊重しており、スロープ等のバリアフリー設備はございません。ご不便をおかけしますが、事前に施設までお問い合わせください。

基本情報

名称 旧マッケンジー住宅(HOMAM旧マッケンジー邸)
所在地 〒422-8034 静岡県静岡市駿河区高松2852
設計 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ
竣工 1940年(昭和15年)
構造 木造地上2階地下1階建塔屋付、瓦葺、建築面積283㎡
文化財指定 国登録有形文化財(1997年12月12日登録)
所有 静岡市
入館料 無料
休館日 第2・第4火曜日、毎週水曜日(祝日を除く)
電話 054-221-1066(静岡市歴史文化課 文化財保護係)/ 054-291-5445(HOMAM)
アクセス JR静岡駅南口より静鉄ジャストラインバス石田街道線で約15分、「浜敷地」下車徒歩約5分

参考文献

国登録有形文化財旧マッケンジー住宅(HOMAM旧マッケンジー邸) - 静岡市
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s6725/s005263.html
旧マッケンジー住宅 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/185140
お茶のまち静岡市 | 旧マッケンジー住宅
https://www.ochanomachi-shizuokashi.jp/recommend/5013/
旧マッケンジー住宅 - ハローナビしずおか
https://hellonavi.jp/detail/page/detail/2688
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィリアム・メレル・ヴォーリズ

最終更新日: 2026.03.28