はじめに
静岡県三島市の楽寿園内に佇む梅御殿(うめごてん)は、明治時代の数寄屋造り住宅建築の優美さを今に伝える貴重な建造物です。明治23年(1890年)頃、明治維新で活躍された小松宮彰仁親王の三島別邸の一部として建てられ、平成18年(2006年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その名の由来は、主座敷の床柱に太い梅の木が用いられていること。自然の素材を活かした洗練された意匠と、地形の高低差を巧みに利用した独創的な構造が、訪れる人々を魅了し続けています。
歴史的背景
梅御殿の歴史は、楽寿園の歩みと深く結びついています。この地はかつて「小浜山」と呼ばれ、愛染院(廃寺)、浅間神社、広瀬神社の社寺域でした。明治23年(1890年)、伏見宮邦家親王の第八王子として生まれ、明治維新において征討大将軍として活躍された小松宮彰仁親王が、この風光明媚な土地に別邸を造営しました。京都風の高床式数寄屋造りの楽寿館を中心に、梅御殿(梅の御殿)と桜御殿が北側に配置され、池泉回遊式庭園とともに一体的な邸宅空間が形成されました。
明治36年(1903年)の彰仁親王薨去後、明治44年(1911年)に朝鮮の李王家の別邸となり「昌徳宮」と称されました。昭和2年(1927年)には実業家の緒明圭造に売却され、さらに昭和27年(1952年)に三島市に譲渡されて市立公園「楽寿園」として一般に公開されました。130年以上の歳月を経てもなお、梅御殿はその建築当初の姿を留め、明治期の宮家住宅の佇まいを静かに伝えています。
文化財としての価値
梅御殿は、平成18年(2006年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由となった建築的特徴は多岐にわたります。
最も注目すべきは、敷地の高低差を巧みに活用した「スキップフロア」状の構造です。西方の下階に玄関を設け、東方の上階に6畳と9畳の3室を並べ、さらに東南方向に矩折れ(かねおれ)で10畳の座敷を配するという独創的な空間構成を実現しています。木造2階建て、銅板葺きで、建築面積は約150平方メートル。数寄屋意匠による宮家住宅の貴重な事例として、明治期の皇族の暮らしぶりと美意識を今に伝えています。
見どころ・魅力
梅御殿の最大の見どころは、その名の由来ともなった主座敷の床柱です。太い梅の幹がそのまま床柱として用いられており、自然の造形美を空間に取り込む数寄屋建築ならではの美意識が表現されています。梅は古来より日本文化において高潔さや忍耐の象徴とされ、その存在感ある床柱は座敷全体に格調高い雰囲気をもたらしています。
また、梅御殿にかつて設置されていた杉戸絵(装飾絵画)は、三島市の有形文化財(絵画)に指定されています。草野龍雲や湯川松堂らの手による6点10面の作品群には、「経正竹生島詣図」「足柄山(新羅三郎吹笙)図」「司馬温公図」「郭子儀図」などの歴史画や、藤図、秋草鶉図といった花鳥画が含まれ、杉板の木目の美しさを活かした巧みな彩色が施されています。
平成25年(2013年)4月からは楽寿園が管理する貸出施設として活用されており、和室6間(53畳)を備えた空間で、結婚式、茶道・着付けなどの体験教室、ワークショップ、会議、展覧会など多彩な催しが行われています。四季折々の自然を感じながら、歴史ある空間での特別なひとときを過ごすことができます。
アクセス・ご利用案内
梅御殿は楽寿園内にあり、JR東海道本線・東海道新幹線の三島駅南口から徒歩約1分と大変便利な立地です。東京駅からは東海道新幹線で約50分、名古屋駅からは約1時間20分で到着します。また、伊豆箱根鉄道駿豆線も三島駅から発着しており、修善寺方面への観光と組み合わせることもできます。
楽寿園の開園時間は、4月〜10月が9:00〜17:00、11月〜3月が9:00〜16:30で、入園は閉園の30分前までとなっています。入園料は大人300円(30名以上の団体は270円)。15歳未満の方、学生証を提示された学生の方、三島市内在住の70歳以上の方、障がい者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料です。
周辺情報
梅御殿がある楽寿園とその周辺には、徒歩で巡ることのできる魅力的なスポットが数多くあります。楽寿園内の楽寿館は、帝室技芸員(現在の人間国宝にあたる)をはじめとする明治期の日本画家たちによる210面もの襖絵・杉板戸絵・天井画が施された壮麗な建物で、1日6回のガイド付き見学が可能です。園内の小浜池は富士山の伏流水が湧き出る池で、水位が季節によって大きく変化する珍しい現象が見られます。
楽寿園の南側を流れる源兵衛川は、「水の都・三島」を象徴する清流です。富士山の湧水が源流となるこの川には飛び石や木道が整備され、川の中を歩く「せせらぎ散歩」が楽しめます。初夏にはホタルが舞い、平成の名水百選にも選ばれた美しい水辺環境が広がっています。
楽寿園から徒歩約10分の三嶋大社は、伊豆国の一宮として古くから崇敬を集める名社です。源頼朝が挙兵に際して祈願を寄せたことでも知られ、春のしだれ桜や、樹齢1,200年ともいわれる金木犀の芳香も見どころです。ほかにも白滝公園、佐野美術館、三嶋暦師の館など、三島の歴史と文化を深く味わえるスポットが点在しています。
Q&A
- なぜ「梅御殿」という名前なのですか?
- 主座敷の床柱に太い梅の木が使われていることに由来します。この梅の床柱は建物の象徴的な存在であり、自然素材を活かす数寄屋建築の美意識を体現しています。
- 梅御殿の内部は見学できますか?
- 梅御殿は楽寿園の貸出施設として運営されており、結婚式や茶道教室、展覧会などに利用されています。イベントが開催されていない時は外観の見学が可能です。利用状況の詳細は楽寿園(TEL: 055-975-2570)にお問い合わせください。
- 梅御殿と楽寿館の違いは何ですか?
- いずれも明治23年頃に小松宮彰仁親王の別邸として建てられたものです。楽寿館は三島市指定の有形文化財で、帝室技芸員による210面の装飾絵画で知られる主棟です。梅御殿は楽寿館の北側に位置する別棟で、国の登録有形文化財に登録されており、スキップフロア構造と梅の床柱が特徴です。
- 東京からのアクセス方法を教えてください。
- 東京駅から東海道新幹線で三島駅まで約50分です。三島駅南口を出てすぐ目の前に楽寿園の入口があり、梅御殿は園内に所在しています。駅からのアクセスが非常に便利です。
- 小松宮彰仁親王とはどのような人物ですか?
- 小松宮彰仁親王(1846年〜1903年)は、伏見宮邦家親王の第八王子として生まれた皇族です。幕末に仁和寺の門跡(住職)でしたが、王政復古に際して還俗し、征討大将軍として鳥羽伏見の戦いで官軍を率いました。のちに日本赤十字社の前身である博愛社の初代総長・総裁を務め、明治日本の陸軍の要職を歴任した人物です。
基本情報
| 名称 | 梅御殿(うめごてん) |
|---|---|
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成18年(2006年)10月18日 |
| 建築年代 | 明治時代(1890年頃) |
| 構造 | 木造2階建、銅板葺、建築面積約150㎡ |
| 建築様式 | 京風数寄屋造り |
| 所有者 | 三島市 |
| 所在地 | 〒411-0036 静岡県三島市一番町15-6(楽寿園内) |
| アクセス | JR三島駅南口より徒歩約1分(楽寿園入口);東京駅から東海道新幹線で約50分 |
| 開園時間 | 4月〜10月:9:00〜17:00 / 11月〜3月:9:00〜16:30(入園は閉園30分前まで) |
| 入園料 | 大人300円(団体270円);15歳未満・学生・三島市内在住70歳以上・障がい者手帳所持者とその付添者1名は無料 |
| お問い合わせ | 楽寿園 TEL: 055-975-2570 / FAX: 055-975-8555 |
参考文献
- 梅御殿 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/152445
- 梅御殿のご利用について - 三島市
- https://www.city.mishima.shizuoka.jp/rakujyu/shousai013294.html
- 梅御殿 - 三島市立公園 楽寿園
- https://www.city.mishima.shizuoka.jp/rakujyu/shousai018729.html
- 三島市 指定等文化財を紹介します(市指定 その1) - 三島市
- https://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn059445.html
- 三島市 指定等文化財を紹介します(市指定 その2) - 三島市
- https://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn059447.html
- 楽寿園 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%BD%E5%AF%BF%E5%9C%92
- 三島市立公園楽寿園(国指定文化財「天然記念物・名勝」) - 三島市
- https://www.city.mishima.shizuoka.jp/ipn033079.html
- 楽寿園 - 三島市観光Web
- https://www.mishima-kankou.com/spot/294/
最終更新日: 2026.03.28