足利の水道を動かした旧事務所
緑町配水場水道山記念館(旧事務所)は、栃木県足利市緑町1-3780にある昭和5年(1930年)竣工の木造事務所建築で、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は09-0133である。
建物が建つのは足利公園のすぐ北、市街地を見下ろす小高い丘の上。地元では水道山と呼ばれる。旧事務所は敷地の東北隅に位置し、正面を東に向ける。市の資料はこの向きを眺望への配慮と記す。実際、玄関前に立つと地面は渡良瀬川の方角へ落ちていき、給水先である足利の街並みが視野に入る。
外観は木造平屋建、切妻屋根に茶色の施釉フランス瓦を葺き、屋根面には三角形のドーマー窓が2か所つく。外壁はモルタル塗の洗出し仕上げで、腰部と上部で仕様が異なる。上部は細石、腰部は豆砂利。近づくと骨材の粒の大きさが変わる境目がはっきり見える。窓は欄間付きの木製ガラス窓、木部はペンキ仕上げとする。露出した木部と淡い壁面の対比から、ハーフティンバー風とも、昭和初期のコロニアル風とも評される。
平面は奥へまっすぐ伸びず、横へずれながら連なる。いわゆる雁行型である。玄関の右手に事務室、その背後に応接室、さらに続いて貴賓室。左手には宿直室、湯沸室、便所、浴室が並ぶ。24時間体制で人が詰めた施設の実情がそのまま間取りに出ている。
昭和9年、行幸のために増えた一室
建物北東隅の貴賓室は、昭和9年(1934年)の天皇陛下行幸に際して増築された部分である。竣工から4年後の追加で、文化庁のデータベースも年代欄に「昭和5/昭和9増築」と併記する。
仕上げの差にその性格が残る。館内は総じて床がカーペット敷き、天井は漆喰塗り、壁は漆喰塗りに腰縦板張りを併用する。ところが貴賓室だけは腰板を用いず、壁も天井も漆喰塗りで通す。装飾を足すのではなく、むしろ引いて格を示す判断だった。
登録の根拠は、登録有形文化財の三基準のうち第一、国土の歴史的景観に寄与しているものである。足利市はこの施設群を建築史上の傑作としてではなく、市民が長く見慣れてきた風景の一部として登録した。昭和60年(1985年)5月には日本水道新聞社主催の『近代水道百選』に環境・景観的施設として選定されており、評価の軸は当初から景観と親しみの側にあった。
見学の可否と、館内に残るもの
内部は通常非公開である。足利市教育委員会文化課のページはその旨を明記している。緑町配水場は現役の施設で、今福浄水場から圧送された水をここで受け、高低差による自然流下で市内へ配る運用が今も続く。ただし特別公開の機会は設けられており、開催の有無は市の文化財関連ページで告知される。問い合わせ先は足利市教育委員会事務局文化課。撮影の可否について公表された規定はないため、公開日に現地で確認するのが確実である。
館内には水道創設から第5次拡張事業に至るまでの写真が展示されている。着工当時の足利市の人口はおよそ43,000人。それに対し第1期の予定給水人口を55,000人、第2期を80,000人と設定していた。織物業で伸びる町が、どれだけ先を見て水源を確保しようとしたかが数字から読み取れる。
アクセスはJR足利駅、東武足利市駅のいずれからも徒歩30分ほど。渡良瀬川を渡って北上し、最後に丘を登る。タクシーなら10分足らずである。周辺には八雲神社や草雲美術館があり、古墳を含む足利公園が敷地の南に接する。同じ敷地内には登録有形文化財である配水池、接合井、計量室が残り、今福浄水場のポンプ室を加えた5棟が同日付で登録されている。
Q&A
- 緑町配水場水道山記念館(旧事務所)の内部は見学できますか。
- 通常は非公開です。緑町配水場が現役の水道施設であるためで、足利市もその旨を案内しています。特別公開が実施される場合があるので、訪問前に足利市教育委員会事務局文化課、または市の文化財関連ページで確認してください。
- 緑町配水場水道山記念館(旧事務所)へはどう行けばよいですか。
- 所在地は栃木県足利市緑町1-3780、足利公園の北側の丘の上です。JR足利駅・東武足利市駅のいずれからも徒歩30分ほど、タクシーなら10分足らずで着きます。最後に丘を登るため、歩く場合は靴を選んでください。
- 緑町配水場水道山記念館(旧事務所)の貴賓室はなぜ設けられたのですか。
- 昭和9年(1934年)の天皇陛下行幸に際して、建物北東隅に増築された部屋です。他の室が壁に腰縦板張りを併用するのに対し、貴賓室は壁も天井も漆喰塗りで通しており、仕上げの違いが今も残っています。
- 緑町配水場水道山記念館(旧事務所)はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 昭和5年(1930年)竣工、昭和9年(1934年)に貴賓室を増築しています。登録有形文化財としての登録年月日は平成18年(2006年)3月2日、告示は同年3月23日、登録番号は09-0133です。
- 緑町配水場水道山記念館(旧事務所)の館内には何が展示されていますか。
- 足利市水道の創設から第5次拡張事業までの写真が展示されています。昭和60年(1985年)5月には日本水道新聞社主催の『近代水道百選』にも環境・景観的施設として選ばれました。
基本データ
| 名称 | 緑町配水場水道山記念館(旧事務所) |
|---|---|
| 所在地 | 栃木県足利市緑町1-3780 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 09-0133 |
| 指定年 | 平成18年(2006年)3月2日登録、同年3月23日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積200㎡(足利市資料では199.58㎡)。昭和5年竣工、昭和9年増築 |
| 所有者 | 足利市水道事業者 |
| 公開状況 | 通常非公開(特別公開日のみ) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「緑町配水場水道山記念館(旧事務所)」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005238
- 文化遺産オンライン「緑町配水場水道山記念館(旧事務所)」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/181456
- 足利市「水道施設の国登録有形文化財について」
- https://www.city.ashikaga.tochigi.jp/urban/000070/000943/p003271.html
- 足利市「緑町配水場 水道山記念館(旧事務所)・配水池・接合井・計量室」
- https://www.city.ashikaga.tochigi.jp/education/000029/000169/000627/p000937.html
- 足利市「水道施設の概要」
- https://www.city.ashikaga.tochigi.jp/living/000021/000142/000585/p003291.html
最終更新日: 2026.08.05