藍商屋敷から移された二一畳

旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)辰巳座敷は、徳島県徳島市川内町宮島本浦にある江戸時代末期の座敷建築で、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

文化庁の登録原簿は、この座敷の建造年代を1830年から1868年の間、すなわち天保から慶応にかけての時期に置く。もとは藍商の屋敷にあった座敷で、昭和29年(1954年)に現在地へ移築された。移築元の屋号や所在は原簿に記載がなく、「元藍商屋敷」とのみ記される。

建物は木造平屋建、桟瓦葺。東面を寄棟造、西面を入母屋造とし、三方に庇を回す。建築面積は106平方メートル。左右で屋根形式を変える構えは、移築の際に生じた納まりの結果とも、当初からの意匠とも読めるが、原簿はいずれとも断じていない。

平面は東西で性格を違える。東は土間、西は二一畳の座敷。北面に床と棚を構え、東面は襖絵で飾る。二一畳という規模は、住宅の座敷として例外的に大きい。

登録基準(2)が指したもの

登録有形文化財は、届出制を基本とする緩やかな保護制度である。登録基準は三項からなり、辰巳座敷は第二の「造形の規範となっているもの」で登録された。登録番号は36-0226、第106回登録、文部科学省告示第27号による。同日、同じ敷地の長屋門、および小松島市の立江寺多宝塔も登録されている。

評価の核は床廻りにある。床と棚の周囲に用いられた材は銘木で、木理や杢を見せることを目的に選ばれている。棚板の端に付く筆返しには彫物が施される。筆返しは本来、筆が転がり落ちるのを防ぐ実用の突起にすぎない。そこに彫刻を加える判断は、施主の資力と、座敷を人に見せる意識の双方を前提とする。

東面の襖絵も同じ文脈に置かれる。座敷は客を迎える装置であり、床構えと襖絵はその装置の顔にあたる。阿波の藍商がこの水準の座敷を営み得た背景には、吉野川流域の経済がある。氾濫のたびに四国山地の土を運んだ吉野川は、藍作に適した土壌を流域に堆積させた。阿波藍は全国市場を掌握し、明治23年(1890年)の徳島市は人口およそ6万人、全国11位の都市規模に達している。

藍の富は座敷普請だけに向かったのではない。吉野川流域では藩主や藍商の後ろ盾のもと、淡路の人形座が掛小屋興行を繰り返した。阿波人形浄瑠璃が県内に根を張った経緯と、この座敷の材や彫物とは、同じ経済に発している。移築先が人形浄瑠璃の拠点であったことは、結果としてその関係を一つの敷地に収める形になった。

見どころと拝観の実際

辰巳座敷は単体の記念物として公開されているわけではない。徳島県立阿波十郎兵衛屋敷の敷地内にあり、入館すれば敷地全体を巡ることになる。この地は、元禄11年(1698年)に罪状を公にされないまま徳島藩に処刑された庄屋、板東十郎兵衛の屋敷跡と伝わり、近松半二の人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」の主人公の名を冠する施設が置かれている。

床廻りを見るなら、銘木の選び方と筆返しの彫りを順に追うのがよい。柱や框の木理は正面からより、斜めから光を当てたときに現れる。棚の端に目を落とせば、量産の座敷では省かれる細部に手が入っていることがわかる。土間と二一畳の座敷が同一棟に同居する構成も、藍商屋敷の使われ方を考える手がかりになる。

開館時間は9時30分から17時(7月1日から8月31日は18時まで)。最終入館は閉館の30分前。休館日は12月31日から1月3日のみ。入場料は一般410円、高・大学生310円、小・中学生200円で、20名以上は団体料金が適用され、障害者手帳の提示により本人は半額となる。

定期公演は「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」、上演時間およそ35分。多くの期間は11時と14時の2回で、平日は人形座のみがCD音源で遣い、土日祝は太夫と三味線が加わる。座席は120席、全席自由。上演中の撮影はシャッター音とフラッシュを控えることが条件となっている。所要時間は公演鑑賞を含めて60分から80分が目安。

交通はJR徳島駅から車で約15分、徳島自動車道徳島インターから5分、神戸淡路鳴門自動車道鳴門インターから20分。公共交通ではJR徳島駅前バスターミナル7番のりばの川内循環バスに乗り、「十郎兵衛屋敷」下車すぐ。

なお公式サイトは、施設改修工事に伴う長期休館を2026年10月27日から2027年4月上旬までと告知している。訪問前の確認が要る。敷地内には元禄年間の作と伝わる鶴亀の庭があり、東辺には同日登録の長屋門が開く。近隣には板東十郎兵衛の墓所である宝生寺、阿波木偶人形会館がある。

Q&A

Q旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)辰巳座敷は見学できますか。入場料と開館時間は。
A徳島県立阿波十郎兵衛屋敷の敷地内にあり、入館すれば見学できます。開館時間は9時30分から17時(7月1日から8月31日は18時まで)、最終入館は閉館30分前、休館日は12月31日から1月3日。入場料は一般410円、高・大学生310円、小・中学生200円です。2026年10月27日から2027年4月上旬までは改修工事のため長期休館の予定です。
Q辰巳座敷はいつ、どの区分の文化財に登録されましたか。
A令和6年(2024年)3月6日、文部科学省告示第27号により国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は36-0226、登録基準は(2)造形の規範となっているものです。同じ敷地の長屋門も同日に登録されています。
Q辰巳座敷はもとからこの場所にあった建物ですか。
Aいいえ。文化庁の記録では江戸時代末期(1830年から1868年)に藍商の屋敷の座敷として建てられ、昭和29年(1954年)に現在地へ移築されました。移築元の屋敷を特定する記載は原簿にありません。
Q辰巳座敷の「辰巳」とは何を意味しますか。
A辰巳は十二支による方位表記で南東を指します。主屋から見た位置に由来する呼称と解されますが、命名の経緯を示す一次資料は確認できていません。
Q辰巳座敷のある阿波十郎兵衛屋敷では何が上演されていますか。撮影はできますか。
A国指定重要無形民俗文化財の阿波人形浄瑠璃を毎日上演しており、演目は「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」、上演時間は約35分です。上演中の撮影はシャッター音とフラッシュを控えることを条件に認められています。

基本情報

名称旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)辰巳座敷
所在地徳島県徳島市川内町宮島本浦184
指定区分国登録有形文化財(建造物) 登録番号36-0226
指定年令和6年(2024年)3月6日登録
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積106平方メートル
所有者徳島県
公開状況徳島県立阿波十郎兵衛屋敷の敷地内で公開。9時30分から17時(7月1日から8月31日は18時まで)、12月31日から1月3日休館。2026年10月27日から2027年4月上旬まで改修休館予定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)辰巳座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014958
文化遺産オンライン 旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)辰巳座敷
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/553998
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 公式サイト
https://joruri.info/jurobe/
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 利用案内
https://joruri.info/jurobe/guide.html
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 定期公演
https://joruri.info/jurobe/program.html
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 阿波十郎兵衛屋敷について
https://joruri.info/jurobe/about.html
徳島県 徳島県の文化財
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kyoiku/bunka/7240152/
鳴門市 国指定重要無形民俗文化財 阿波人形浄瑠璃
https://www.city.naruto.tokushima.jp/promotion/bunkazai/awa_ningyojoruri.html

最終更新日: 2026.08.23