安政2年の表構え

旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)長屋門は、徳島県徳島市川内町宮島本浦にある安政2年(1855年)建造の長屋門で、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

長屋門は、平屋の長屋の中央を割って門口を通す形式をとる。近世の武家屋敷において、両脇の棟に家臣や中間の居室、納屋、厩を収めたことに始まり、のちに在郷の有力者層へ広がった。屋敷の外側に向く唯一の構築物であるから、門の格はそのまま家の格の表示として機能する。

本件は木造平屋建、建築面積66平方メートル。敷地東辺に開き、両開板戸の中央門口を挟んで北に2室、南に1室を配す。北と南で室数が揃わない構成は、武家由来の形式を居住の都合に合わせて調整した結果として理解される。

文化庁の記録は建造を安政2年、現在地への移築を昭和29年(1954年)とする。同日登録の辰巳座敷と同じく、移築元は「元藍商屋敷」とのみ記され、屋号の特定には至っていない。

建造年についてひとこと付け加えておく。前年の嘉永7年11月(1854年12月)、安政南海地震とそれに伴う津波が阿波の沿岸を襲っている。原簿は両者を関係づけておらず、因果を読み込むべきではないが、この門の仕口を刻んだ職人たちは、被害の記憶が生々しい国で仕事をしていたことになる。

景観に寄与する、という評価

長屋門の登録基準は(1)国土の歴史的景観に寄与しているものである。登録番号36-0227、第106回登録、文部科学省告示第27号。同日、辰巳座敷および小松島市の立江寺多宝塔が併せて登録された。第一基準は内部意匠の精緻さより外観の力を評価する枠組みであり、文化庁の評価文も扉板などに良材を用いた格式ある表構えという点を挙げる。

屋根が議論の中心にある。入母屋造、本瓦葺。本瓦葺は平瓦と丸瓦を交互に葺き重ねる二部材の技法で、17世紀後半以降に普及した桟瓦葺に比べて重く、材も手間もかかる。同じ敷地に建つ辰巳座敷は桟瓦葺である。外に向く門に本瓦、居住部に桟瓦という配分は、費用を可視領域へ寄せる選択として読める。

壁面は目の高さで見るのがよい。腰は簓子下見板張。下見板を横に重ね、その段差に合わせて内側を刻んだ竪桟で押さえる工法で、雨仕舞に優れると同時に、影の線が一定の間隔で走ることによって外壁に律動を与える。北寄りには出格子が壁面から突き出し、その上に瓦葺の小庇が独立して掛かる。門という機能から言えば過剰な細部である。

この水準の普請を可能にしたのは藍の富である。吉野川は氾濫のたびに四国山地の土壌を下流域へ運び、その堆積が藍作を支えた。阿波藍は江戸期から明治前期にかけて全国の染料市場を掌握し、藍商は地方の商家という語感を超える規模で建築を営んだ。門の格式はその経済の直接の表現である。

門をくぐった先

長屋門は敷地の東辺に開き、来館の動線も同じ東側にあるため、間近で見上げることができる。門の内側は徳島県立阿波十郎兵衛屋敷。元禄11年(1698年)に罪状を公にされないまま徳島藩に処刑された庄屋、板東十郎兵衛(1646年から1698年)の屋敷跡と伝わる地であり、近松半二の人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」の主人公は彼の名を借りている。

観察の順序としては、まず正面から屋根の稜線と本瓦の列を追い、次に腰の簓子下見板へ視線を落とし、最後に出格子と小庇の納まりを見る。門口の板戸は良材が用いられており、板目の通り方に注意を向けたい。

開館時間は9時30分から17時、7月1日から8月31日は18時まで。最終入館は閉館の30分前。休館日は12月31日から1月3日。入場料は一般410円、高・大学生310円、小・中学生200円。20名以上は団体料金、障害者手帳の提示で本人は半額となる。

敷地内では国指定重要無形民俗文化財の阿波人形浄瑠璃を毎日上演する。演目は「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」、上演時間およそ35分、通常は11時と14時の2回。平日は人形座のみがCD音源で遣い、土日祝は太夫と三味線が加わる。座席120席、全席自由。上演中の撮影はシャッター音とフラッシュを控えることが条件。所要時間は公演を含めて60分から80分。

交通はJR徳島駅から車で約15分、徳島自動車道徳島インターから5分、神戸淡路鳴門自動車道鳴門インターから20分。JR徳島駅前バスターミナル7番のりばの川内循環バスで「十郎兵衛屋敷」下車すぐ。

ただし公式サイトは、施設改修工事による長期休館を2026年10月27日から2027年4月上旬までと告知している。訪問前に確認されたい。近隣には板東十郎兵衛の墓所である宝生寺、木偶や舞台道具を扱う阿波木偶人形会館がある。

Q&A

Q旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)長屋門は見学できますか。入場料と開館時間は。
A徳島県立阿波十郎兵衛屋敷の敷地東辺に開く門で、入館して見学できます。開館時間は9時30分から17時(7月1日から8月31日は18時まで)、最終入館は閉館30分前、休館日は12月31日から1月3日。入場料は一般410円、高・大学生310円、小・中学生200円です。2026年10月27日から2027年4月上旬までは改修工事のため長期休館の予定です。
Q長屋門はいつ建てられ、いつ文化財に登録されましたか。
A文化庁の記録では安政2年(1855年)の建造、昭和29年(1954年)に現在地へ移築されています。令和6年(2024年)3月6日、文部科学省告示第27号により国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は36-0227、登録基準は(1)国土の歴史的景観に寄与しているものです。
Q長屋門とはどのような建築形式で、この門はどのような構成ですか。
A平屋の長屋の中央に門口を開く形式で、武家屋敷において両脇の棟に家臣の居室や納屋を収めたことに始まります。この門は両開板戸の中央門口を挟んで北に2室、南に1室を配し、建築面積は66平方メートルです。
Q長屋門の屋根や外壁にはどのような技法が使われていますか。
A屋根は入母屋造の本瓦葺で、平瓦と丸瓦を交互に葺く格式の高い技法です。外壁は腰を簓子下見板張とし、北寄りに出格子を設けて瓦葺の小庇を付けています。同じ敷地の辰巳座敷が桟瓦葺であるのに対し、外に向く門にはより重く高価な本瓦葺が用いられています。
Q長屋門のある阿波十郎兵衛屋敷へはJR徳島駅からどう行きますか。
AJR徳島駅前バスターミナル7番のりばから川内循環バスに乗り、「十郎兵衛屋敷」で下車すればすぐです。車ではJR徳島駅から約15分、徳島自動車道徳島インターから5分です。

基本情報

名称旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)長屋門
所在地徳島県徳島市川内町宮島本浦184
指定区分国登録有形文化財(建造物) 登録番号36-0227
指定年令和6年(2024年)3月6日登録(建造は安政2年・1855年)
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積66平方メートル
所有者徳島県
公開状況徳島県立阿波十郎兵衛屋敷の敷地内で公開。9時30分から17時(7月1日から8月31日は18時まで)、12月31日から1月3日休館。2026年10月27日から2027年4月上旬まで改修休館予定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)長屋門
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014959
文化遺産オンライン 旧西野家住宅(徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)長屋門
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/609229
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 公式サイト
https://joruri.info/jurobe/
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 利用案内
https://joruri.info/jurobe/guide.html
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 定期公演
https://joruri.info/jurobe/program.html
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷 アクセス
https://joruri.info/jurobe/access.html
徳島県 徳島県の文化財
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kyoiku/bunka/7240152/
鳴門市 国指定重要無形民俗文化財 阿波人形浄瑠璃
https://www.city.naruto.tokushima.jp/promotion/bunkazai/awa_ningyojoruri.html

最終更新日: 2026.08.23