はじめに
四国八十八ヶ所霊場第十九番札所・立江寺の境内南方に佇む多宝塔は、大正12年(1923年)に完成した木造の二重塔です。伝統的な建築技法に大正時代ならではの繊細な装飾性を融合させた美しい仏塔であり、令和6年(2024年)3月には国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。立江寺は「四国の総関所」として知られ、邪心を抱く者は先に進めないという言い伝えが残る霊験あらたかな名刹です。その境内に百年以上の歳月を超えて建ち続ける多宝塔は、近代の仏教建築の粋を今に伝える貴重な存在です。
歴史的背景
立江寺は、天平19年(747年)に聖武天皇の勅願により、行基菩薩が光明皇后のご安産を祈願して開創したと伝えられています。行基は一寸八分(約5.5cm)の金の延命地蔵菩薩像を刻み、本尊として安置しました。弘仁6年(815年)に弘法大師(空海)が巡錫された際、小さな本尊の紛失を心配し、一刀三礼して六尺(約1.8m)の地蔵菩薩を刻み、元の小像を胎内に納めました。このとき寺号が「立江寺」と定められたと伝えられています。
天正年間(1573年〜1593年)に長宗我部元親の兵火により全焼しましたが、本尊は難を逃れ、徳島藩藩祖・蜂須賀家政によって現在の地に再興されました。昭和49年(1974年)にも火災が発生し本堂を焼失しましたが、本尊は再び無事であり、昭和52年(1977年)に本堂が再建されました。
多宝塔は、立江寺の先住で高野山の管長も務められた庄野琳真師の発願によって建立され、大正12年(1923年)に完成しました。以来一世紀にわたり、境内の荘厳な風景の一翼を担い続けています。
文化財としての価値
立江寺多宝塔は、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました(登録番号:第36-0228号)。この多宝塔は、伝統的な多宝塔の建築形式を忠実に踏襲しながらも、板支輪や腰組蟇股に施された精緻な彫刻装飾など、大正時代の装飾的感覚を取り入れた近代の多宝塔として高く評価されています。四国地方における近代寺院建築の歴史を物語る貴重な文化遺産であり、伝統技法の継承と時代の美意識の融合を示す建造物です。
建築の見どころ
多宝塔は木造二重塔で、建築面積は31平方メートルです。日本独自の多宝塔形式に基づき、方形の下層と円形の上層からなる優美な姿を見せています。
下層
下層は方三間の平面で、周囲に擬宝珠高欄を付した縁を廻らしています。屋根は本瓦葺で、組物は出組、軒は二軒繁垂木です。中央間には桟唐戸を設け、脇間には連子窓を配しています。中備えや支輪の位置には彫刻が飾られ、装飾性豊かな外観を呈しています。
上層
上層は円形平面で、屋根は本瓦型の銅板葺です。組物は四手先と精緻を極め、軒には二軒扇垂木が用いられています。円形平面から放射状に広がる扇垂木は、高い技術力を示す見どころの一つです。
内部
塔の内部には四天柱が立ち、その内側には折上格天井が設けられています。須弥壇の上に小さな多宝塔が置かれ、その中に五智如来が安置されています。厳かな空間が信仰の場にふさわしい雰囲気を生み出しています。
立江寺境内の見どころ
多宝塔の他にも、立江寺には多くの見どころがあります。
- 本堂:昭和52年(1977年)に再建された本堂は、東京藝術大学教授・西村公朝氏の指導のもとに描かれた花鳥の絵天井で知られ、その豪華絢爛さは比類ないものとして有名です。
- 黒髪堂:不義を犯したお京という女性が参詣した際、髪が逆立ち鐘の緒に巻き付いたという伝説に因むお堂です。「肉付鐘の緒」と呼ばれる寺宝が祀られており、「阿波の関所」としての立江寺の霊験を象徴する場所です。
- 白鷺橋:立江川にかかる橋で、この橋を白鷺の姿を見ることなく渡れた者は善人であるとされています。
- 白杉大明神:弘法大師が唐に渡った際の守護神とされる明神を祀る境内社です。
拝観情報
立江寺は徳島県小松島市立江町に位置し、JR牟岐線・立江駅から徒歩約5分と交通至便です。車の場合は徳島県道28号線の白鷺橋から約300メートルの位置にあり、境内に駐車場が完備されています。境内の拝観は自由で、お遍路さんはもちろん、一般の観光客も多宝塔をはじめとする境内の建造物を自由に見学できます。
周辺情報
小松島市とその周辺には、多彩な観光スポットがあります。
- 恩山寺(第十八番札所):立江寺から北西約4キロメートルに位置する四国霊場の前番札所。ビランジュの古木や弘法大師の母にまつわる伝説で知られています。
- 小松島ステーションパーク:旧国鉄小松島港線の跡地に整備された公園。復元された駅舎や本物の蒸気機関車の展示、広大な芝生広場が人気です。
- 源義経騎馬像:旗山の山頂に建つ高さ6.7メートルの銅像。源平合戦で小松島に上陸した義経を記念し、日本一の高さを誇る騎馬像として知られています。
- 日峰山:標高約192メートルの阿波三峰の一つ。山頂からは紀伊水道、鳴門、淡路島、さらに天気が良ければ和歌山方面まで一望できます。桜の名所としても親しまれています。
- 金長神社:民話「阿波狸合戦」に登場する金長たぬきを祀る神社。商売繁盛の神として信仰を集めています。
Q&A
- 立江寺多宝塔はどのような文化財指定を受けていますか?
- 立江寺多宝塔は、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は第36-0228号です。
- 多宝塔はいつ建てられましたか?
- 大正12年(1923年)に完成しました。立江寺の先住で高野山の管長も務めた庄野琳真師の発願によって建立されたものです。
- 立江寺は四国遍路においてどのような役割がありますか?
- 立江寺は四国八十八ヶ所霊場の第十九番札所であり、「四国の総関所」「阿波の関所」として知られています。邪心を持つ者はここで弘法大師からお咎めを受け、先に進めないとされる霊験あらたかな札所です。
- 立江寺へのアクセス方法を教えてください。
- JR牟岐線・立江駅から徒歩約5分です。車の場合は徳島県道28号線の白鷺橋から約300メートルで、境内に無料駐車場があります。
- 多宝塔の建築的な特徴は何ですか?
- 板支輪や腰組蟇股に施された精緻な彫刻装飾、四天柱内の折上格天井、上層の扇垂木などが見どころです。伝統的な多宝塔の技法を忠実に踏襲しながら、大正時代の装飾的感覚を取り入れた近代の名塔として評価されています。
基本情報
| 名称 | 立江寺多宝塔(たつえじたほうとう) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物) 登録番号:第36-0228号 |
| 登録年月日 | 令和6年(2024年)3月6日 |
| 建立年 | 大正12年(1923年) |
| 構造 | 木造多宝塔、銅板葺及び瓦葺、建築面積31㎡ |
| 所在地 | 徳島県小松島市立江町字若松13 |
| 所有者 | 宗教法人立江寺 |
| 宗派・札所 | 高野山真言宗 四国八十八ヶ所霊場第十九番札所 |
| アクセス | JR牟岐線・立江駅より徒歩約5分 |
参考文献
- 文化遺産オンライン — 立江寺多宝塔
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/602960
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014960
- 立江寺公式ウェブサイト
- https://www.tatsueji.com
- Wikipedia — 立江寺 (小松島市)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/立江寺_(小松島市)
- 徳島県の塔 — 立江寺多宝塔
- http://kawai25.sakura.ne.jp/tokusima-tatueji.htm
最終更新日: 2026.03.29