敷地の奥に置かれた座敷

鎌田家住宅離れは、東京都世田谷区梅丘1-1473-5にある昭和7年(1932年)建築の木造平屋建の奥座敷で、平成21年(2009年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

建つのは敷地の西奥、通りから最も遠い位置。建築面積は50平方メートル。棟は南北に走り、東西棟の主屋と軸を交差させる。屋根は入母屋造の桟瓦葺で、軒下には銅板葺の庇が付く。

離れという語は用途を曖昧にしがちだが、この建物の場合は明快である。日常の動線から外し、客を通すための最も格の高い部屋を置いた棟にあたる。

トコ、棚、付書院

内部は十畳の座敷と六畳の次の間で構成される。座敷には座敷飾りの三点が揃う。

トコ、すなわち床の間は掛軸と花を据える一段高い空間で、室内の視覚的な中心であると同時に席次を決める装置でもある。客は床を背にして座る。

その脇に構えられるのが棚。壁面に組み込まれた違い棚で、香合や文具、その日の客のために取り出す小道具を置いた。

三つめが付書院である。庭側に浅く張り出し、低い地板の上に明障子を立てる。元は中世の禅僧の居室にあった読み書きのための出文机に由来する。二十世紀に入ればそこで筆を執る者はいない。それでも残ったのは、これを欠いた部屋が正式な座敷と見なされなかったからである。

床・棚・付書院という組み合わせは、この家が建つ四百年ほど前に書院造のなかで型として定まったものだ。昭和7年の郊外住宅の離れにその一式が揃っていることは、当時の東京の家庭が客間に何を求めていたかを示している。

雁行という配置

離れは主屋の真後ろにはない。横にずらして接続する、いわゆる雁行の配置をとる。雁の群れが斜めに列をなして飛ぶ姿にちなむ呼び方である。

目的は採光と眺望にある。建物を一直線に並べれば、後ろの棟は光も庭も得られない。横へ振れば双方が庭に面し、互いの角越しに視線が抜ける。文化庁の解説は、外から見たとき二棟が連続しつつ変化のある外観をつくると記す。雁行配置の利点はこの二重性にある。

両棟をつなぐのが槫縁である。主屋から始まり、離れの庭側をまわる縁側で、縁板を建物の長手方向と平行に張る形式をとる。板の目地が進行方向に沿って伸びるため、歩く動きに視線が引かれていく。この縁を伝えば、中廊下と洋間を備えた昭和初期の住宅から、室町以来の作法で組まれた座敷へ、屋外に出ることなく移動できる。

登録の理由

平成8年(1996年)に始まった登録有形文化財の制度は、おおむね建設後50年を経た建造物を対象とし、現状変更には許可ではなく届出を求める。日常的に使われ続ける建物のための、緩やかな枠組みである。

離れの登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は13-0250、第65回登録で、告示は平成21年11月19日付。

評価は同時に登録された二件と切り離せない。ひとつの敷地で、昭和7年に家を建てた一家は、表側に洋間と中廊下を採り、奥に書院造の座敷を構えた。どちらか一方を選んだのではない。戦前の郊外住宅は輸入された形式と受け継がれた形式の折衷としてしばしば語られるが、この住宅ではその折衷が平面図の上で読み取れる。

訪ねる際に

離れは非公開であり、公道から見ることもできない。私有地の奥にあり、主屋と植栽に遮られている。拝観日程も見学の受付も設定されていない。

街路から把握できるのは敷地の表側、鉄筋コンクリート造の門と塀、そして奥に見える屋根までである。撮影は公道からに限り、敷地内には立ち入らないこと。

最寄りは小田急小田原線の梅ヶ丘駅、徒歩5分ほどで、新宿から直通する。羽根木公園は同じ散策の範囲に収まる距離にあり、斜面に約650本の梅が植えられている。2月には「せたがや梅まつり」が開かれ、木々の葉が落ちたこの時期は屋根の稜線も比較的見通しやすい。

Q&A

Q鎌田家住宅離れは見学できますか。
Aできません。鎌田家住宅離れは居住中の私有地の奥に建ち、公開されていないうえ、主屋と植栽に遮られて公道からも視認できません。登録有形文化財に公開の義務はありません。
Q鎌田家住宅離れの内部はどのような構成ですか。
A文化庁の記録によれば、トコ・棚・付書院を構える十畳の座敷と、六畳の次の間からなります。庭側には主屋から続く槫縁がまわっています。
Q鎌田家住宅離れの規模と建築年を教えてください。
A木造平屋建、瓦葺で建築面積は50平方メートル。昭和7年(1932年)の建築で、主屋および門及び塀と同時期にあたります。
Q鎌田家住宅離れの所在地と最寄り駅はどこですか。
A東京都世田谷区梅丘1-1473-5です。最寄り駅は小田急小田原線の梅ヶ丘駅で、徒歩5分ほどの距離にあります。
Q鎌田家住宅離れの解説にある「雁行」とは何ですか。
A建物を一直線に並べず、横にずらして斜めに連ねる配置をいいます。雁の群れの飛ぶ列に由来する語で、各棟が庭に面し、外観に段差のある輪郭が生まれます。

基本データ

名称鎌田家住宅離れ(かまたけじゅうたくはなれ)
所在地東京都世田谷区梅丘1-1473-5
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0250
指定年平成21年(2009年)11月2日登録、同年11月19日告示
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積50平方メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。公道からの視認も不可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 鎌田家住宅離れ
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007879
文化遺産オンライン 鎌田家住宅離れ
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/198869
文化庁 登録有形文化財(建造物)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
世田谷区 区内にある文化財の紹介
https://www.city.setagaya.lg.jp/02059/3397.html

最終更新日: 2026.07.27