長船景光が鍛えた鎌倉の太刀

茎には「備州長船景光」の六字が切られている。備前国、すなわち現在の岡山県南部を流れる吉井川の流域、いまの瀬戸内市長船町を拠点とした刀工集団・長船派を率いた景光の銘である。景光の作刀期は鎌倉時代の最末期にあたり、嘉元四年(一三〇六)から建武元年(一三三四)までの年紀をもつ作が現存する。本作は東京国立博物館(東京都台東区上野公園)に収められ、糸巻太刀拵が附として一具で指定されている。

景光は長船派の三代目にあたる。派の祖である光忠から子の長光へ、そして景光へと鍛刀の系譜が受け継がれた。通称を左兵衛尉といい、子の兼光が次代を担った。三代にわたって長船は中世日本で最も多くの刀を世に送り出す工房となり、景光は父・長光、真長とともに「長船三作」のひとりに数えられる。

重要文化財に指定された理由

本作が重要文化財に指定されたのは、昭和二十五年(一九五〇)八月二十九日のことで、指定番号は〇一一三五である。重要文化財は国宝の一段下に位置づけられる区分だが、ここでは区別が重要になる。同じ東京国立博物館には、より高名な景光の作として国宝「小龍景光」が収蔵されているからである。両者は同じ刀工の手になる別個の作であり、しばしば混同される。本稿で扱うのは、銘を備えた太刀に糸巻太刀拵が附属する一具のほうである。

指定の価値を支えているのは、作者と保存状態の組み合わせにある。確かな銘をもつ景光の太刀は、それだけで鎌倉末期の備前刀を考えるうえでの基準作となる。そこに、儀礼や奉納の場で用いられた糸巻太刀拵が揃って残ることで、本作はいかに鍛えられたかだけでなく、どのように佩き、どのように示されたかまでを今に残す資料となっている。

見どころ

景光の手を示す特徴は大きく三つあり、いずれもガラス越しにゆっくりと眺める価値がある。第一は地鉄である。小板目肌をよく約め、その上に乱映りを立てる。映りは刃文の上にうっすらと浮かぶ霧のような景色で、この澄んだ立ち方こそ、この時期の長船の地鉄が高く評価される理由のひとつである。

第二は刃文である。景光は直刃調に小丁子を交えた焼刃を得意とし、互の目の頭が一方へ傾く「片落ち互の目」と深く結びつけて語られる。先行する一文字派の華やかな丁子乱れに比べると、その作風は抑制が利いて静かである。

第三は拵である。糸巻太刀拵は、柄の上半と鞘の鯉口寄りに組糸を巻きつける形式で、巻きは握りであると同時に装飾でもある。これは戦場よりも儀礼の場にふさわしく装われた太刀であることを示している。文化庁のデータベースには本件の刀身の寸法が掲げられていないため、その姿の寸法感は、会場の解説とともに実物に照らして確かめるのがよい。

博物館の周辺

東京国立博物館は上野公園の北端に建ち、上野駅から歩いてほど近い。日本刀は本館一階の専用室で展示され、地鉄や刃文が浮かび上がるよう照明が工夫されている。作品保護と展示替えのため陳列はおよそ数か月ごとに入れ替わり、特定の一振が常に出ているわけではない。

上野公園そのものも一日を費やすに足る。園内には複数の博物館が並び、春には多くの人を集める桜並木、蓮の広がる不忍池、寛永寺や上野東照宮といった古い建造物がある。刀を目当てに訪れるのであれば、博物館の展示予定はあらかじめ公表されているので、その日程に合わせて計画を立てたい。

Q&A

Qこの太刀はいつでも展示されていますか。
Aいいえ。東京国立博物館は刀剣を数か月ごとに展示替えするため、本作が出ているのは一定の期間に限られます。確実にご覧になりたい場合は、来館前に博物館の展示予定をご確認ください。
Qこれは有名な「小龍景光」ですか。
Aいいえ。作者は同じですが別の刀です。小龍景光は倶利伽羅竜の彫り物をもつ国宝です。本作は重要文化財で、銘のある太刀に糸巻太刀拵が附属する一具です。
Q糸巻太刀拵とは何ですか。
A柄の上半と鞘の鯉口寄りに組糸を巻きつけた太刀の拵の形式です。糸は握りと装飾を兼ね、儀礼の場に装われた太刀であることを示します。
Q景光とはどのような刀工ですか。
A備前国の長船派の刀工で、鎌倉時代の最末期に活躍しました。長光の子、兼光の父にあたり、長船派を代表する名工のひとりに数えられます。
Q写真撮影はできますか。
A撮影の可否は展示室や個々の作品によって異なります。館内ではフラッシュを使わない撮影が認められている場所も多いですが、必ず各展示ケースの掲示を確認し、係員の案内に従ってください。

基本データ

名称太刀〈銘備州長船景光/糸巻太刀拵付〉
作者長船景光(備前国)
時代鎌倉時代(一一八五〜一三三三)
員数一口
指定区分重要文化財(工芸品)
指定年月日昭和二十五年(一九五〇)八月二十九日/指定番号〇一一三五
保管施設東京国立博物館
所在地東京都台東区上野公園十三番九号
公開状況展示替えあり。常時公開ではないため、展示予定の確認を推奨

References

文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6060
東京国立博物館
https://www.tnm.jp/
刀剣ワールド 東京国立博物館 刀剣特集
https://www.touken-world.jp/museum/4511/special-contents/
名古屋刀剣ワールド 備州長船住景光
https://www.meihaku.jp/sword-basic/bishunagafuneju-kagemitsu/

最終更新日: 2026.06.14