太刀 銘長光(名物遠江長光)安土城から持ち出された信長の愛刀

天正10年(1582年)6月、本能寺の変の直後、明智光秀は安土城に入り、織田信長が蓄えた財宝を接収した。そのなかに一振の太刀があった。鎌倉時代の備前国長船で鍛えられ、茎に「長光」の二字銘を刻むこの刀を、光秀は家老の津田遠江守重久に与えた。名物「遠江長光」の号は、この武将の受領名に由来する。

本太刀は昭和28年(1953年)11月14日に重要文化財、翌昭和29年(1954年)3月20日に国宝の指定を受けた(指定番号00147)。所有者は公益財団法人徳川黎明会で、現在は名古屋市東区の徳川美術館に収蔵されている。同館では「太刀 銘 長光 名物 津田遠江長光」の名称で紹介されることが多い。

長船派二代・長光という刀工

長光は、備前長船派の祖として知られる光忠の子である。13世紀後半、吉井川流域の長船の地で父の鍛冶場を継ぎ、二代目として一門を率いた。その技量は父に迫るといわれ、現存作の多くが国宝や重要文化財に指定されている。

作風は時期によって変化する。初期には光忠譲りの華やかな丁子乱れを焼き、晩年には穏やかな直刃調へと移行した。本太刀はその初期作の典型とされ、同じく初期の代表作である国宝・大般若長光(東京国立博物館蔵)と双璧をなす存在として知られる。

文化庁の指定解説は両者を直接比較し、華やかさにおいて本太刀は大般若長光に並び、健全さにおいてはこれに勝ると評している。地刃ともに製作当初の状態をよく保つことが、国宝指定の大きな根拠となった。

刀身の見どころ

身長72.1センチ、反り2.3センチ。鎬造、庵棟で、後世に磨り上げられているにもかかわらず、腰反りと元の踏張りをよく残す。鋒は中鎌倉期に特徴的な猪首鋒である。

地鉄は小板目肌がよく約み、乱映りが立つ。刃文は丁子を主体に蛙子丁子が交じる。蛙子とは、細い足の上に丸い頭が乗る形をおたまじゃくしに見立てた呼称で、長光初期作の華やかさを象徴する刃文である。匂口は冴えて締まり、足や葉が盛んに入る。帽子は乱れ込み、表は尖り、裏は掃きかけ心に尖る。

茎は磨り上げで先は栗尻、鑢目は筋違、目釘孔は三つ。孔の数は、所有者が変わるたびに拵を改めた歴史の痕跡でもある。磨り上げ後も二字銘が残されている点は、この銘の重みを歴代の所持者が認識していたことをうかがわせる。

信長から尾張徳川家へ。数奇な伝来

本太刀は江戸幕府が編纂した『享保名物帳』に「遠江長光」として記載される。号の由来となった津田遠江守重久(1549年から1634年)は、山崎の戦いで光秀が滅んだ後しばらく浪々の身となり、やがて加賀前田家に仕えた。

前田家中での経路については資料間に相違がある。徳川美術館の解説では、重久が三代利常に献じたとされ(二代利長とする解説もある)、文化庁データベースの伝来欄には五代綱紀の名が記される。いずれにせよ前田家から五代将軍徳川綱吉に献上され、宝永6年(1709年)、六代将軍家宣から尾張徳川家四代吉通が拝領した。以後、本太刀は尾張家を離れることなく今日に至る。

信長、光秀、前田家、将軍家、尾張家。戦国から泰平へと移る時代の節目ごとに持ち主を変えたこの一振は、刀剣そのものの出来栄えに加え、伝来の確かさという点でも第一級の歴史資料といえる。

鑑賞のために。徳川美術館と周辺情報

徳川美術館の刀剣展示は入れ替え制で、本太刀が常時展示されているわけではない。鑑賞を目的に訪れる場合は、公式サイトの展覧会情報や作品検索で展示予定を確認しておきたい。展示時は照明を当てた状態で刀身が示され、乱映りや丁子の重なりを肉眼で追うことができる。

同館は昭和10年(1935年)開館。尾張徳川家伝来の大名道具1万件余りを収蔵し、国宝「源氏物語絵巻」をはじめ国宝9件、重要文化財50件以上を有する。刀剣コレクションの規模は国内有数で、本太刀以外にも名刀の展示替えが続く。

開館時間は10時から17時(入館は16時30分まで)。休館日は月曜(祝日・振替休日の場合は直後の平日)と年末年始。入館料は展覧会により異なり、2026年4月に改定されているため、最新の料金は公式サイトで確認したい。隣接して池泉回遊式の日本庭園・徳川園と、尾張家の蔵書を収める名古屋市蓬左文庫があり、あわせて半日の行程となる。アクセスは名古屋駅から市バス基幹2系統またはなごや観光ルートバス「メーグル」で「徳川園新出来」下車徒歩約3分、JR中央線大曽根駅からは徒歩約15分。

Q&A

Q遠江長光はいつでも見られますか。
A常設展示ではありません。刀剣は保存のため展示替えが行われるので、徳川美術館公式サイトの展覧会情報や作品検索で展示予定を確認のうえ来館することをおすすめします。
Q「遠江長光」と「津田遠江長光」はどちらが正しい呼び名ですか。
A国の指定名称は「太刀〈銘長光(名物遠江長光)〉」ですが、徳川美術館では号の由来となった津田遠江守重久の姓を冠して「津田遠江長光」と呼んでいます。どちらも同じ太刀を指します。
Q大般若長光との違いは何ですか。
Aいずれも長光初期の華やかな作風を示す国宝です。文化庁の指定解説は、華やかさでは両者が並び、保存状態の健全さでは遠江長光が勝るとしています。大般若長光は東京国立博物館の所蔵です。
Q館内で写真撮影はできますか。
A展示室内の撮影は原則として制限されています。撮影可能な場所が限定的に設けられる場合もあるため、館内の表示や係員の案内に従ってください。

基本情報

名称太刀〈銘長光(名物遠江長光)〉(津田遠江長光)
指定区分国宝(昭和29年3月20日指定、指定番号00147)。重要文化財指定は昭和28年11月14日
種別工芸品(刀剣)
員数1口
時代鎌倉時代(13世紀)
作者長光(備前長船派二代)
寸法身長72.1cm、反り2.3cm、元幅3.0cm、先幅2.2cm、鋒長3.3cm、茎長17.5cm
「長光」二字銘(磨り上げ茎)
所有者公益財団法人徳川黎明会
所在地徳川美術館(愛知県名古屋市東区徳川町1017)
公開状況展示替え制。開館10時から17時(入館16時30分まで)、月曜休館(祝日の場合は直後の平日)、年末年始休館
アクセス名古屋駅から市バス基幹2系統・メーグルで「徳川園新出来」下車徒歩約3分、JR大曽根駅から徒歩約15分

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)太刀〈銘長光(名物遠江長光)〉
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/441
文化遺産オンライン 太刀〈銘長光(名物遠江長光)〉
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/188976
徳川美術館 おもな収蔵品「太刀 銘 長光 名物 津田遠江長光」
https://www.tokugawa-art-museum.jp/about/treasures/06/
徳川美術館 来館のご案内
https://www.tokugawa-art-museum.jp/visitor-information/

最終更新日: 2026.06.11