東京大学法学部3号館:本郷キャンパスに佇む内田ゴシック建築の傑作

東京大学本郷キャンパスの正門をくぐると、すぐ右手に堂々とした姿を見せるのが法学部3号館です。1927年(昭和2年)に竣工したこの鉄筋コンクリート造4階建ての校舎は、建築家・内田祥三の設計による「内田ゴシック」様式の代表的建築のひとつであり、1998年に国の登録有形文化財に登録されました。

関東大震災からの復興という歴史的使命のもとに生まれたこの建物は、西洋ゴシック・リバイバルの意匠と日本の近代建築技術を見事に融合させ、約100年の時を経た今なお、学問の府にふさわしい威厳と美しさを湛えています。

関東大震災からの復興:内田ゴシック誕生の背景

1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災は、東京大学本郷キャンパスに甚大な被害をもたらしました。明治期に建設された煉瓦造りの校舎の多くが地震と火災により倒壊・焼失し、キャンパスは壊滅的な状況に陥りました。

この復興の中心的存在となったのが、工学部建築学科教授であり大学営繕部長も兼務していた内田祥三です。内田は正門から安田講堂へと続く東西軸の銀杏並木を基軸とし、明快な軸線構成によるキャンパス計画を策定。統一されたゴシック様式の建築群を次々と設計していきました。この一連の建物群が後に「内田ゴシック」と呼ばれるようになります。

法学部3号館は、この震災復興計画に基づいて建設された初期の建物のひとつであり、復興の理念と建築的理想が凝縮された重要な作品です。

登録有形文化財としての価値

法学部3号館が登録有形文化財として評価された理由は、大きく分けて二つあります。

第一に、キャンパス全体の空間構成における重要な役割です。正門のすぐ右手に位置するこの建物は、東西軸を挟んで工学部列品館と向かい合い、キャンパスへの入口を荘厳に演出しています。正面の出入り口には列品館と同様のゴシックアーチのアーケードが設けられている一方、東面の意匠は総合図書館と工学部1号館を結ぶ南北の軸線を意識した垂直線を強調する構成となっており、二つの軸線に対する高度な空間的配慮が認められます。

第二に、内田祥三の合理主義的建築思想の具現化としての価値です。耐火性に優れた鉄筋コンクリート造を採用し、外壁には施工が容易でありながら美しい陰影を生むスクラッチタイルを張り巡らせるなど、実用性と美観を高い次元で両立させた建築手法が見て取れます。

建築の見どころ

法学部3号館の魅力は、さまざまな角度から楽しむことができます。

西側正面に設けられたゴシックアーチのアーケードは、この建物の最も印象的な意匠要素です。尖頭アーチが連なる入口は、ヨーロッパの中世教会建築を思わせる荘厳な雰囲気を醸し出しています。ポーチの屋根に施されたフィニアル(頂華)やクロケット(葉飾り)は、震災前の旧校舎に用いられていた装飾要素を継承したもので、大学の歴史的連続性を象徴しています。

東面に目を移すと、力強い垂直のピラスター(付け柱)が目に入ります。この垂直性の強調は、キャンパスの南北軸を意識した意図的なデザインであり、西側のアーケードとは対照的な表情を見せています。

外壁を覆うスクラッチタイルは、内田ゴシック建築群に共通する特徴的な素材です。表面に水平の引っ掻き模様が入ったこのタイルは、光の加減によって豊かな陰影を生み出し、時間帯や天候によって建物の表情が変化する様子を楽しむことができます。特に午後の斜光を受けた際の琥珀色に輝く外壁は、周囲の緑と美しいコントラストを成しています。

また、内田が好んで各所に配した「犬小屋」と呼ばれる急勾配のゴシック屋根を持つ小さなポーチにも注目してください。キャンパス内の複数の建物に見られるこの独特の意匠要素を探しながら散策するのも、建築ファンにとって楽しい体験となるでしょう。

設計者・内田祥三とその遺産

内田祥三(うちだ よしかず、1885年〜1972年)は、日本近代建築史における最も重要な人物のひとりです。東京・深川の米商の家に生まれ、1907年に東京帝国大学工科大学建築学科を卒業。三菱合資地所部(現・三菱地所)を経て大学院に進み、佐野利器のもとで鉄筋コンクリート構造を研究しました。

内田の建築哲学は「よい建築は必ず施工しやすい」という合理主義に貫かれていました。鉄筋コンクリート造の採用、施工精度の低さを感じさせないスクラッチタイルの選択、工事が容易な芋目地の採用など、すべてがこの合理的思想の表れです。しかしその合理性は、決して美を犠牲にするものではなく、内田の建築群はその堂々たる風格によって今も多くの人々の敬愛を集めています。

「内田ゴシック」と称されるデザインは、19世紀後半以降のアメリカやイギリスの大学建築に見られるカレッジ・ゴシック様式を基調としつつ、日本の建築技術や素材に適合させた独自の様式です。内田は東京大学キャンパス内だけで約30棟もの建物を設計し、本郷キャンパスをアジアにおける20世紀初頭の大学建築の最も優れた集合体のひとつに作り上げました。後に第14代東京帝国大学総長も務め、1972年には文化勲章を受章しています。

本郷キャンパスの散策ガイド

法学部3号館の見学は、本郷キャンパス全体の散策と組み合わせることで、より深い体験となります。キャンパスは一般に公開されており、入場無料で自由に見学することができます。

正門から安田講堂へと続く銀杏並木は、東京屈指の紅葉名所として知られています。樹齢100年を超える銀杏の大木が約200メートルにわたって並び、毎年11月下旬には黄金色のトンネルが出現します。安田講堂は1925年竣工の登録有形文化財で、内田祥三と岸田日出刀の共同設計によるものです。

夏目漱石の小説『三四郎』の舞台として知られる三四郎池(正式名称:育徳園心字池)は、加賀藩前田家の屋敷庭園に由来する趣深い日本庭園です。また、1827年に徳川将軍家の姫君の婚礼のために建てられた赤門(御守殿門)は重要文化財に指定されていますが、近年は耐震工事のため閉門中です。

学内の食事施設も訪問者に開放されています。安田講堂地下の中央食堂では名物の赤門ラーメンをはじめ手頃な学食メニューが楽しめるほか、工学部2号館内の日比谷松本楼や、伊藤国際学術研究センター内の椿山荘カメリアではより本格的な食事を堪能できます。

週末には在学生による公式キャンパスツアーも実施されており、英語・日本語の両方で事前予約制で参加できます。

周辺の見どころ

本郷キャンパスが位置する文京区は、文教の地として知られ、徒歩圏内に多くの名所があります。学問の神様・菅原道真を祀る湯島天満宮は、受験シーズンには多くの参拝者で賑わいます。旧岩崎邸庭園は明治時代の洋館と和館が調和する重要文化財で、キャンパスからほど近い場所にあります。

春のつつじで有名な根津神社、江戸時代を代表する回遊式庭園であり特別史跡・特別名勝に指定されている小石川後楽園も、ぜひ訪れたいスポットです。さらに、東京大学が運営するインターメディアテク(JPタワー内)では、学術標本や文化資料を美しく展示した博物館を無料で鑑賞することができます。

Q&A

Q法学部3号館の内部は見学できますか?
A法学部3号館は現役の大学施設であるため、内部の一般公開は行われていません。ただし、登録有形文化財の対象は外観のみであり、キャンパス内から自由に外観を鑑賞・撮影することができます。キャンパスの見学時間は7:00〜18:00です。
Q見学に最適な季節はいつですか?
A秋(11月下旬〜12月上旬)は銀杏の紅葉が美しく、内田ゴシック建築の茶褐色のタイルとの色彩の対比が見事です。春の桜の季節もおすすめです。なお、大学入試期間(1月下旬・2月下旬の試験日)はキャンパスに入構できませんのでご注意ください。
Q外国語でのキャンパスツアーはありますか?
Aはい。週末限定で在学生がガイドを務める公式キャンパスツアーが実施されており、英語と日本語の両方で参加可能です。完全予約制となっており、東京大学の公式サイトから申し込むことができます。
Q最寄り駅からのアクセスは?
A東京メトロ南北線「東大前駅」から徒歩約1分が最も便利です。そのほか、東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線「本郷三丁目駅」から徒歩約8分、東京メトロ千代田線「湯島駅」または「根津駅」から徒歩約8分でもアクセスできます。
Q本郷キャンパスにはいくつの登録有形文化財がありますか?
A本郷キャンパスには、安田講堂、正門・門衛所、法文1号館、法文2号館、法学部3号館、工学部列品館、工学部1号館など複数の登録有形文化財があります。さらに赤門(御守殿門)は重要文化財に指定されています。これらは日本における20世紀初頭の大学建築の最も優れた集合体のひとつとして高く評価されています。

基本情報

名称 東京大学法学部3号館
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 1998年(平成10年)10月9日
設計者 内田祥三(うちだ よしかず)
竣工 1927年(昭和2年)
構造 鉄筋コンクリート造4階建
建築面積 約1,727㎡
所有者 国立大学法人東京大学
所在地 東京都文京区本郷7-3-1
アクセス 東京メトロ南北線「東大前駅」徒歩約1分/東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線「本郷三丁目駅」徒歩約8分/東京メトロ千代田線「湯島駅」「根津駅」徒歩約8分
見学時間 7:00〜18:00(キャンパス構内)※入試実施日は入構不可
入場料 無料(キャンパス構内は一般公開)

参考文献

東京大学法学部3号館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191819
国の登録有形文化財 登録 | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04_b.html
東京大学の建造物 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/東京大学の建造物
本郷キャンパス建築めぐり 内田ゴシックの特徴を見る — 東大新聞オンライン
https://www.todaishimbun.org/hongo_architecture20181101/
内田祥三 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/内田祥三
本郷キャンパスの見学について | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/public02_05.html
本郷地区アクセスマップ | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/map01_02.html
国登録文化財 | 文京区
https://www.city.bunkyo.lg.jp/b047/p004380.html

最終更新日: 2026.03.07