赤門ではないほうの門 ― 東京大学本郷正門及び門衛所
東京大学本郷正門及び門衛所は、東京都文京区本郷の本郷通りに面する花崗岩貼りの正門と左右一対の門衛所で、明治45年(1912年)に竣工し、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財となった。
観光で本郷を訪れる人の多くは、この門の前を素通りする。写真に収めようとしているのは数百メートル南の赤門のほうで、あちらは文政10年(1827年)に加賀藩前田家が建てた御守殿門である。知名度では赤門が勝る。ただし大学が正門として日常的に使い、この登録の対象となっているのは、こちらの門である。
建設の背景には具体的な事情があった。明治17年から18年にかけて法・文学部と理学部が神田一ツ橋から本郷へ移り、キャンパスは公道に面した正面を必要とするようになる。第8代総長・濱尾新の考案のもと、建築学科教授の伊東忠太が基本設計を担い、営繕課長の山口孝吉が施工管理にあたったと東京大学新聞は伝えている。
大学の門の設計者として、伊東忠太という名は少し意外に映るかもしれない。法隆寺の胴張りの柱をギリシア建築のエンタシスに結びつける説を唱え、中国から中央アジアまで踏査を重ね、築地本願寺を手がけた人物である。日本建築は模倣ではなく進化すべきだと主張し続けた。この門は、その主張を小さな面積に凝縮して見せている。
冠木門という形式に、鉄骨と花崗岩を通す
門の形式は冠木門である。屋根を持たず、二本の親柱を冠木と呼ぶ横材が貫いて支える。日本の在来建築に古くからある形式で、出自に西洋の要素はない。
伊東はこの形式の中身を入れ替えた。親柱は鉄骨を芯とし、その表面に厚く切り出した花崗岩を張り上げている。石材は現在の茨城県産の稲田石。扉には性質の異なる鉄材が組み合わされた。大学の解説はこれを「和の趣味、洋の技術を折衷する和魂洋才のデザイン」と表現している。時代の標語をこれほど素直に立体化した例は多くない。
装飾は立ち止まって見る価値がある。冠木の最上部には、吉兆を表す瑞雲の間から昇る旭日が描かれる。扉には波立つ海を象った青海波が、縦格子や唐草模様と組み合わされている。いずれも金属で打ち出されたものだが、意匠の出どころは建築ではなく、染織や漆工である。明治45年の日本人が一目で読み取れる図像だった。
ただし現在そこにある部材は、創建時のものではない。昭和63年(1988年)に大扉と冠木がアルミ合金製のレプリカに交換され、オリジナルは駒場で保管されていると大学は説明している。金具を間近で観察する際は、1912年の意匠を忠実に写した複製を見ていることになる。
門衛所は左右対称に建つ平屋で、妻面にむくり屋根を見せる。寺院建築に多い反りとは逆に、棟に向かって緩やかに凸に湾曲する屋根形である。文化庁データベースの構造記載は「鉄筋コンクリート造平屋建、銅板葺、建築面積46㎡」。一方、東京大学新聞など一部の資料は門衛所を煉瓦壁と白丁場石によるものと記しており、記述に開きがある。仕上げ材と構造体を指し分けている可能性が高いが、根拠としては文化庁の記載を優先すべきだろう。
文化庁の解説は、花崗岩製の正門が冠木門を基調にデザインされたといわれる点に触れ、むくり屋根の妻を見せる門衛所とともに、伝統的な様式形態を保ちながら新たな時代性を追求していると評価する。登録基準は「造形の規範となっているもの」、種別は建築物ではなく「その他工作物」である。
どこから見るか
構内から出てくるのではなく、本郷通りを歩いて正面から近づいてほしい。この門は街路から読まれることを前提に構成されている。歩道に立つと、門・煉瓦塀・左右の門衛所が一続きの正面として像を結ぶ。
そのまま南へ歩けば、赤門の近くまで長い煉瓦塀が続く。正門南側から赤門までの区間は明治30年代、北側は明治43年頃の竣工とされ、二つの時期で積み方と色調がわずかに異なる。
門は銀杏並木と、その約300メートル先の安田講堂を額縁のように切り取る。11月後半にこの場所へ人が集まるのは、この構図のためである。門そのものは、花崗岩に光が当たる午前中が撮りやすい。
入構は無料で、おおむね15名未満なら手続きは不要。15名以上の団体は大学のウェブフォームから7日前までに登録する。見学時間は7時から18時。正門は平日この時間帯に開き、土日祝日は大扉が閉鎖され、脇の小扉が長時間利用できる。1月中旬の大学入学共通テストと2月下旬の第2次学力試験の実施日は入構できない。
屋外撮影は個人利用に限られ、刊行物やSNSへの掲載は大学が断っている。見学者用の駐車場はなく、周辺道路、とりわけ正門付近での路上駐車は固く止められている。最寄りは地下鉄丸ノ内線・大江戸線の本郷三丁目駅から徒歩約8分、南北線東大前駅から約5分。
出発前に確認しておきたい点が一つ。赤門は令和7年(2025年)から耐震改修工事に入っており、完了は令和9年(2027年)9月頃の予定とされている。二つの門を並べて撮ることは当面できない。
Q&A
- 東京大学本郷正門と赤門は同じものですか。
- 別の建造物です。本郷通り沿いに数百メートル離れて建っています。赤門は文政10年(1827年)の御守殿門で、大学がこの地に置かれる前からありました。本郷正門は明治45年(1912年)に伊東忠太の基本設計で建てられた花崗岩の門で、この登録有形文化財の対象はこちらです。
- 東京大学本郷正門は自由に通れますか。開門時間を教えてください。
- 通行できます。入構は無料で、小人数であれば手続きも不要です。15名以上の団体は7日前までにウェブ登録が必要です。見学時間は7時から18時。土日祝日は大扉が閉鎖されますが、脇の小扉は長時間利用できます。1月と2月の入試実施日は入構できません。
- 東京大学本郷正門及び門衛所の設計者と竣工年は。
- 第8代総長・濱尾新の考案のもと、東京帝国大学建築学科教授の伊東忠太が基本設計を行いました。施工管理は営繕課長の山口孝吉が担ったと伝えられます。竣工は明治45年(1912年)、明治最後の年にあたります。
- 東京大学本郷正門の鉄扉は創建時のものですか。
- 大扉と冠木は昭和63年(1988年)にアルミ合金製のレプリカへ交換されており、オリジナルは駒場で保管されていると大学は説明しています。親柱の花崗岩張りと全体の構成は創建時のままです。
- 東京大学本郷正門及び門衛所で、特に注目すべき意匠は何ですか。
- 三点を挙げます。冠木の上部に表された瑞雲と旭日、扉に打ち出された青海波、そして左右の門衛所の妻面に見えるむくり屋根です。いずれも日本の伝統的な図像や形式を、鉄骨・鉄材・花崗岩という当時の新しい材料で実現しています。
基本データ
| 名称 | 東京大学本郷正門及び門衛所 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都文京区本郷7-3-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(その他工作物)/登録番号 13-0036/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)10月9日登録、同年10月26日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造平屋建、銅板葺、建築面積46平方メートル |
| 所有者 | 国立大学法人東京大学 |
| 公開状況 | 路上から常時見学可。入構は無料、7時~18時。試験実施日は入構不可。撮影は個人利用に限る |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/東京大学本郷正門及び門衛所
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000815
- 文化遺産オンライン/東京大学本郷正門及び門衛所
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/147425
- 東京大学/国の登録有形文化財 登録
- https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04_b.html
- 東京大学/本郷キャンパスの見学について
- https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/public02_05.html
- 東京大学/歴史的建造物の紹介
- https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04.html
- 東大新聞オンライン/本郷キャンパス建築めぐり 明治期煩悶時代の正門
- https://www.todaishimbun.org/hongo_architecture20190115/
最終更新日: 2026.07.29