開かなかった博物館の名前 ― 東京大学工学部列品館

東京大学工学部列品館は、東京都文京区本郷のキャンパス内に建つ鉄筋コンクリート造3階建の建物で、大正14年(1925年)に竣工し、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財となった。

この名称は、実現しなかった構想の化石である。列品とは品物を並べて陳列することを指し、建物は工学部の学術標本を展示する博物館となる予定だった。その役割を担うことはなかった。現在は工学部の本部が置かれ、内部は事務室である。計画は消え、名前だけが残った。

もっとも、構想が部分的に果たされた時期はある。伊東忠太や関野貞らが中国や朝鮮で収集した調査資料が、かつてここに陳列されていた。東アジア建築史という分野を成立させた踏査の成果である。伊東はこの13年前に大学の正門を設計しており、関野の朝鮮建築調査は今も基礎資料として参照される。館名が今なお一定の説得力を保っているのは、この経緯による。

建設費の出どころは、もう少し散文的で、少し愛嬌がある。大学自身の解説によれば、この建物は工学部2号館の建設で余った工費を用いて建てられたという。

内田ゴシックの出発点

本郷キャンパスに残る戦前の校舎は、そのほとんどが「ウチダゴシック」と通称される様式に属する。建築学科教授で営繕課長を務めた内田祥三が、大正12年(1923年)の関東大震災を受けて震災復興の様式として案出したものである。大正14年竣工の列品館は、その系列の最初の建物にあたる。このキャンパスで内田ゴシックらしく見えるものは、すべてここから派生している。

建設そのものが震災に巻き込まれてもいる。着工後に震災が起こり、内田がその後まとめた復興計画に符合する形で完成した。計画を体現した最初の建物として知られるのは、そのためである。

要素は最初から出そろっている。平面はロの字型に中庭を囲む。入口側には連続アーチのポーチが走る。柱型の先端には装飾が付く。窓は縦長。後続の建物と決定的に違うのは隅の処理で、四隅がいずれも単純な直角ではなく入隅として切り込まれている。壁面が複数の面に分節され、光の当たり方が面ごとに変わる。立体感に富むと評されるのはこの点で、規模の大きくなった後年の建物はこの手を使っていない。

登録上の構造は鉄筋コンクリート造3階建、建築面積766平方メートル。近くの工学部1号館の3263平方メートルと比べれば、ずいぶん小ぶりである。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」だった。

ここで登録と指定の違いに触れておきたい。指定制度は国宝・重要文化財を生み、現状変更を厳しく管理する。対する登録制度は平成8年(1996年)に築およそ50年以上の建造物を対象として発足したもので、大きな改変の際の届け出を求めるにとどまり、建物が使われ続けることを前提に組み立てられている。大学の学部本部として日々稼働している建物には、この前提がそのまま当てはまる。

どう探すか

列品館は正門の左手奥に建つ。銀杏並木を安田講堂に向かって歩く人は、気づかないまま30メートルほどの距離をすれ違っていることになる。門を入ってすぐ左へ折れれば、ほどなく姿を現す。

可能なら中庭側から近づいてほしい。連続アーチのポーチは正面から一望するより、歩きながら見るほうが効く。視点が動くにつれ、手前のアーチが次のアーチを縁取っていく。それから数歩下がって、隅を視野に入れる。入隅の処理は多くの人が見落とす細部であり、この建物をその後の内田作品から分ける一点でもある。

各学部の建物内は原則として立ち入り禁止で、事務棟であるこの建物には公開されている部屋もない。見学は外観に限られる。入構自体は無料で、おおむね15名未満なら手続きは不要。15名以上の団体はウェブフォームから7日前までに登録する。見学時間は7時から18時まで。1月中旬の大学入学共通テストと2月下旬の第2次学力試験の実施日は入構できない。

屋外の撮影は個人利用の範囲で可能だが、刊行物やSNSへの掲載は大学が断っている。最寄りは地下鉄丸ノ内線・大江戸線の本郷三丁目駅から正門まで徒歩約8分、南北線東大前駅から北側の門まで約5分。

この建物が内田の語彙の出発点である以上、ここを先に見て、他をあとに回すと順序が読める。工学部1号館は北へ数分、法文1号館と2号館は正門から東へ延びる軸線を挟んで向かい合い、その軸の突き当たりに安田講堂が座る。いずれも徒歩15分圏内である。

Q&A

Q東京大学工学部列品館の「列品」とはどういう意味ですか。博物館だったのですか。
A列品とは品物を並べて陳列することを指します。工学部の学術標本を展示する博物館となる予定でしたが、常設の博物館にはなりませんでした。かつて伊東忠太や関野貞らが中国・朝鮮で収集した調査資料が陳列されていた時期があります。現在は工学部本部の事務棟です。
Q東京大学工学部列品館は、なぜ重要な建物とされるのですか。
A大正14年(1925年)竣工で、内田祥三が震災復興の様式として案出した「ウチダゴシック」の最初の建物にあたるためです。着工後に関東大震災を受け、内田の震災復興計画に符合する形で完成した最初の建物としても知られています。
Q東京大学工学部列品館の内部に入ることはできますか。
A入れません。各学部の建物内は原則立ち入り禁止で、列品館は事務棟のため公開されている部屋もありません。外観は構内から7時~18時の間、無料で自由にご覧いただけます。
Q東京大学工学部列品館で注目すべき意匠はどこですか。
A入口側の連続アーチのポーチ、先端に装飾の付いた柱型、縦長の窓、そして何より四隅です。単純な直角ではなく入隅として切り込まれており、この処理が壁面に立体感を与えています。内田の後年の校舎には見られない特徴です。
Q東京大学工学部列品館は本郷キャンパスのどこにありますか。
A正門の左手奥に建っています。銀杏並木を安田講堂へ向かう道からすぐ近くで、門を入って左へ折れれば1分ほどで見えてきます。

基本データ

名称東京大学工学部列品館
所在地東京都文京区本郷7-3-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0041/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成10年(1998年)10月9日登録、同年10月26日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造3階建、建築面積766平方メートル
所有者国立大学法人東京大学
公開状況外観は7時~18時に自由見学可(入構無料)。事務棟のため内部非公開。試験実施日は入構不可。撮影は個人利用に限る

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/東京大学工学部列品館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000820
東京大学/国の登録有形文化財 登録
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04_b.html
東京大学/歴史的建造物の紹介
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/b07_04.html
東京大学/本郷キャンパスの見学について
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/public02_05.html
東京大学/本郷地区キャンパスマップ
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/map01_01.html

最終更新日: 2026.07.29