舟のために築かれた石垣
旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣は、兵庫県美方郡新温泉町浜坂字本町1208にある石造の工作物で、江戸中期以降に段階的に築かれ大正元年(1912年)に増築された部分を含み、平成20年(2008年)7月8日に国の登録有形文化財に登録された(告示は同年7月23日)。
敷地の北辺から東辺にかけて、高さ2メートル前後の石垣が折れ曲がりながら続く。折曲り延長で164メートル。直線距離ではなく、屈折をたどった長さである。
見どころは規模ではない。この石垣が一度も装飾のために積まれたことがない、という点にある。商家の地面を、かつて舟が上ってきた川から守るための構造物だった。
積み方を読む
西から東へ歩くと、目の前で技法が入れ替わる。
北辺の西寄りと中央部は野面積である。自然石を採れたままの形で組み、面を加工していない。文化庁の記録は、中央部が西寄り部分よりもやや新しく、隅角部の算木積が整っていることを指摘する。算木積は長辺と短辺を交互に噛ませて角を固める積み方で、これがきちんと通っているかどうかは、慣れた石工の仕事か急ごしらえかを分ける目印になる。
北辺の東寄りと東辺は別物だ。大正元年の築造で、面を規則正しく整えた楔形の石を密に並べる間知石積となる。この新しい石積のなかに、舟着場と水際へ降りる石段が組み込まれている。
なぜここに舟着場があるのか
敷地の脇を味原川が流れる。今の水量は往時に及ばない。かつて川が深かった頃には高瀬舟が遡上し、川沿いの屋敷へ直接荷を揚げていた。川端の屋敷は、その往来を前提に石垣を築いたのである。下流の舟だまりには、江戸時代に北前船が寄港した。浜坂は漁業と海運、そしてそこから育った酒造や縫い針の生産で立っていた町だった。
森家は庄屋を務めるとともに酒造業を営み、屋号を七釜屋といった。この石垣は、家と水とが接していた場所そのものである。大正元年の舟着場は、すでに衰えつつあった川の経済に対する、最後の設備投資だったことになる。
石垣の内側にあるもの
平成20年の登録では、同じ敷地の5件がまとめて対象となった。主屋、乾蔵、北ノ蔵、酒蔵、そして石垣である。主屋は明治21年(1888年)の建築で明治40年(1907年)に増築された木造2階建、切妻造の桟瓦葺で、正面は上下階とも格子を立てる。
この屋敷は平成4年(1992年)から浜坂先人記念館として公開されている。「以命亭」の名は、森家2代目当主・森輿右衛門が建てた隠居所に由来し、『礼記』の一節から採られたと伝わる。建物は平成17年度(2005年度)に兵庫県の景観形成重要建造物の第1次指定を受けている。
館内では、吹き抜けの酒蔵が展示ホールとして使われ、企画展が入れ替わる。浜坂ゆかりの人物として、登山家の加藤文太郎、歌人の前田純孝らが紹介される。主屋と酒蔵にはコミュニティテラスが併設されている。庭に目をやると梅の木があり、俳人・森藍尾の句碑が立つ。
訪ねるときに ― 塀の外と内で見え方が変わる
石垣は道路と川沿いの遊歩道に面した屋外の構造物なので、時間を問わず無料で外側から眺められる。歩いて見ることをすすめたい。味原川の下流に沿う約500メートルの遊歩道「あじわら小径」には、旧家や寺院のほか、井戸洗い場跡、揚げ橋、水神様が点々と残る。左岸の石積はおおむね下流から上流に向かって年代が新しくなるといわれ、歩くこと自体が石による年表をたどる作業になる。
記念館の見学時間は別に定められている。午前9時から午後5時まで、入館は午後4時30分まで。休館は毎週木曜日で、祝祭日にあたる場合はその翌日。12月29日から1月3日も休館する。入館料は大人200円、小人100円、10名以上は団体料金がある。年間券は大人500円、小人300円。入館すれば主屋、酒蔵ホール、庭を見学でき、石垣を内側から見られるのもこの経路だけである。
道路からの石垣の撮影に制限はない。館内の撮影については受付で確認してほしい。
アクセス
JR山陰本線の浜坂駅から徒歩約10分。駅と記念館のあいだに加藤文太郎記念図書館、西光寺、あじわら小径が並ぶので、ホームから歩き出すと1時間はすぐに過ぎる。浜坂は浜坂温泉郷の拠点でもあり、この温泉郷は環境省の国民保養温泉地として兵庫県で唯一指定されている。
Q&A
- 旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣は無料で見られますか。
- 外側からであれば無料で、時間の制約もありません。石垣は道路と川沿いの遊歩道に面しています。庭側から見る場合は、開館時間内に浜坂先人記念館「以命亭」へ入館する必要があります。
- 旧森家住宅を活用した浜坂先人記念館「以命亭」の開館時間と入館料は。
- 午前9時から午後5時まで、入館は午後4時30分までです。休館日は毎週木曜日(祝祭日の場合は翌日)と12月29日〜1月3日。入館料は大人200円、小人100円で、10名以上の団体料金と年間券もあります。
- 浜坂駅から旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣まではどう行きますか。
- JR山陰本線の浜坂駅から徒歩約10分です。途中に加藤文太郎記念図書館やあじわら小径があるので、散策の時間を織り込んで計画すると無理がありません。
- 旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣に舟着場があるのはなぜですか。
- 脇を流れる味原川はかつて水深が深く、高瀬舟が遡って川沿いの屋敷へ荷を運んでいたためです。舟着場と石段は、北辺東寄りから東辺にかけての大正元年築造の部分に組み込まれています。
- 旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣の築造時期はどう見分けますか。
- 積み方が手がかりになります。北辺の西寄りと中央部は自然石をそのまま組む野面積で、中央部は隅角部の算木積が整っています。北辺東寄りと東辺は大正元年の間知石積で、面を整えた楔形の石が密に並びます。
基本データ
| 名称 | 旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県美方郡新温泉町浜坂字本町1208 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成20年(2008年)7月8日登録(告示同年7月23日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 石造、折曲り延長164メートル、高さ2メートル前後 |
| 所有者 | 文化庁データベースに記載なし(記念館は新温泉町立) |
| 公開状況 | 外側は常時見学可。記念館は9時〜17時(入館16時30分まで)、木曜休館、12月29日〜1月3日休館 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007283
- 文化遺産オンライン 旧森家住宅(浜坂先人記念館以命亭)石垣
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/153885
- 新温泉町 浜坂先人記念館「以命亭」
- https://www.town.shinonsen.hyogo.jp/page/d3aee2a331855b8dbcedeaab423e22f5.html
- 但馬情報特急 歴史を伝える「あじわら小径」と温泉郷のまち・浜坂を歩く
- https://www.tajima.or.jp/furusato/157015/
- ザ・たじま 新温泉町浜坂味原川周辺地区
- https://the-tajima.com/spot/389/
最終更新日: 2026.08.27