主屋の裏、トオリニワを抜けた先に建つ

小川酒造ビン詰場は、鳥取県倉吉市河原町にある明治期の酒造建築で、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。所在地は河原町1969番地、小川家の屋敷地の背面側にあたる。通りに面した主屋から土間の通路であるトオリニワを抜け、敷地の奥へ進んだ位置に建っている。

登録原簿の構造欄は、土蔵造2階建、瓦葺、建築面積218平方メートルと記す。同じ日に登録された小川酒造の7棟のうち、面積では最も大きい。西側の作業スペースに面して下屋が架けられており、この下屋が建物の性格を端的に示している。ビンを詰め、箱に収め、荷を出す。作業に必要だったのは正面の見栄えではなく、屋根の下の広さと手元の明るさだった。

ただし、文化庁データベースの記載には食い違いがある。構造欄が土蔵造2階建とする一方、同じ項目に付された解説文は「木造平屋の酒蔵で二重梁の和小屋の構造になる」と述べている。両者は一致しない。登録上の仕様として扱うべきは構造欄の記載であり、解説文の内容は別途の確認を要する。

小川家は江戸時代後期からこの地で中江屋(中恵屋)の屋号を用い、酒造と綿の商いで身代を築いた家である。明治に入ると製糸業に進出し、のちに醤油醸造も手掛けた。酒は「打吹正宗」の銘で売られている。218平方メートルというビン詰場の規模は、樽から瓶へと出荷の形が移り、商圏が地元を越えて広がっていった時期の事業の姿と重なる。

登録が評価したもの、県指定が加えたもの

まず区分を整理しておきたい。国宝と重要文化財は「指定」であり、現状変更に強い制限がかかる代わりに国の手厚い保護が及ぶ。これに対して登録有形文化財は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた「登録」の制度で、おおむね建設後50年を経た建物を幅広く対象とし、所有者の裁量を残したまま保護を図る。酒蔵や倉庫、店舗といった現役で使われ続ける建物に向いた仕組みである。

ビン詰場の登録番号は31-0030、第14回の登録で、告示は平成10年10月26日。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」だった。同日には主屋、槽場、道具蔵、二階蔵、三階蔵、旧仕込蔵の6棟も登録されており、屋敷全体が一括して評価を受けた形になる。

保護はその後さらに厚くなる。平成27年(2015年)4月7日、鳥取県は「小川家住宅」10点を県指定保護文化財に指定した。ビン詰場はその10点に含まれる。県の解説は、天神川の支流・小鴨川の右岸に位置するこの屋敷を、打吹山麓に東西へ広がる町の西端を占める建物群として捉え、増築された洋館や新座敷、茶室「清和軒」まで含めた一連の構えから、近代の実業家の暮らしと各時代の好みの推移が読み取れる点を評価している。

調査上の留意点を一つ。文化庁データベースは現在も1998年の登録を掲載しているが、倉吉市が公表している国登録文化財の一覧(令和3年6月24日現在)には小川酒造の各棟が載っていない。登録の現況を正確に押さえたい場合は、倉吉市文化財課に照会するのが確実である。

訪ねるなら、通りから屋根を見る

令和8年(2026年)7月17日、小川家住宅は近隣の旧髙多家住宅とともに「風の 倉吉」として開業した。まち全体を宿と見立てた分散型ホテルで、客室は2棟あわせて11室。フロントは河原町1969番地、小川家の主屋に置かれている。三階蔵の上階も客室のひとつになった。ただしビン詰場は客室にも展示施設にもなっていない。県の記録も公開状況を「非公開」としており、予約なしに訪れた場合に見られるのは外観である。

その外観に、見る値打ちがある。河原町は小鴨川の右岸沿いを走り、旧市街の西端をなす。通りに立って主屋の背後を見上げると、白い漆喰壁の上に赤い石州瓦の屋根が重なる。石州瓦は島根県石見地方を起源とする山陰の瓦で、1200度を超える高温で焼き締めるために凍害に強い。雪の降る土地で選ばれてきた理由がそこにある。公道からの撮影に問題はないが、門の内側はホテルの管理下にあるため、敷地内に入る場合はフロントに確認したい。

通りを東へ15分ほど歩けば、平成10年に選定され平成22年に区域が拡大された倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区に入る。玉川沿いに白壁の土蔵が40棟ほど連なり、一枚石の石橋が架かる一帯である。小川家の屋敷は、その散策路の静かな西の端に位置する。土蔵群が倉吉の商家の表の顔だとすれば、河原町に残るのは仕事場の側の顔だと言っていい。

交通は、JR倉吉駅から日本交通の広瀬線バスに乗り「河原町」下車、徒歩約5分。車では駅から15分ほどだが、屋敷前の道路は7時から17時まで一方通行で東から西への進入ができないため、西側の小鴨橋東交差点側から回り込む必要がある。

Q&A

Q小川酒造ビン詰場の内部を見学することはできますか。
Aできません。鳥取県の文化財記録は小川家住宅の公開状況を「非公開」としており、ビン詰場はホテル「風の 倉吉」の客室にも含まれていません。外観は河原町の公道から自由に見ることができます。
Q小川酒造ビン詰場はいつ建てられた、どのような建物ですか。
A鳥取県倉吉市河原町にある旧酒造場のビン詰め用建物で、文化庁データベースは年代を明治期(1868年から1911年)とします。土蔵造2階建、瓦葺、建築面積218平方メートル。平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財となりました。
Q小川酒造では現在も酒を造っていますか。
A醸造は行われていません。令和8年(2026年)7月17日から、小川家住宅は旧髙多家住宅とあわせて分散型ホテル「風の 倉吉」として運営されており、主屋にフロント、2棟で計11室の客室が設けられています。
Q小川酒造ビン詰場へはJR倉吉駅からどう行きますか。
AJR倉吉駅から日本交通の広瀬線バスに乗り、「河原町」で下車して徒歩約5分です。車の場合は駅から約15分ですが、屋敷前の道路が7時から17時まで一方通行(東から西へは進入不可)となるため、西側から回り込んでください。
Q小川酒造ビン詰場は倉吉の白壁土蔵群の中にありますか。
A保存地区のすぐ外側にあります。倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区は同じ通りを東へ徒歩15分ほど進んだ先です。小川家の屋敷は旧市街の西端にあたり、国の登録と県の指定という別の制度で保護されています。

基本情報

名称小川酒造ビン詰場(おがわしゅぞうびんづめば)
所在地鳥取県倉吉市河原町1969
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 31-0030。あわせて鳥取県指定保護文化財「小川家住宅」10点のうちの1棟
指定年登録 平成10年(1998年)10月9日、告示 同年10月26日/県指定 平成27年(2015年)4月7日
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積218平方メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開(内部見学不可)。外観は公道から見学可。同一敷地の主屋にホテル「風の 倉吉」のフロントが所在

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)小川酒造ビン詰場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000890
文化遺産オンライン 小川酒造ビン詰場
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/185620
とっとり文化財ナビ(鳥取県)小川家住宅
https://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/81801E062D55083349257E200010AB92
倉吉市 国登録文化財一覧
https://www.city.kurayoshi.lg.jp/4237.htm
風の 倉吉 公式サイト
https://www.kazenoheritage.jp/hotels/kurayoshi/
倉吉観光情報 白壁土蔵群・円形劇場周辺
https://www.kurayoshi-kankou.jp/kurayoshi_area/shirakabedozogun/

最終更新日: 2026.08.21