建築と自然が調和する、時を超えた名旅館
鳥取県東伯郡三朝町、三徳川のほとりに佇む旅館大橋(りょかんおおはし)は、昭和初期の日本建築の粋を今に伝える名旅館です。昭和7年(1932年)に「日本建築として最高のものを」という一念のもと完成したこの建物は、腕利きの宮大工たちが近郊各地から集めた銘木をふんだんに用い、歳月に色褪せない格調高い木造建築として生まれました。平成9年(1997年)には本館をはじめとする5つの建造物が国の登録有形文化財に指定され、ほぼ全館が文化財という全国でも極めて稀な現役旅館として、訪れる人々を魅了し続けています。
歴史的背景
旅館大橋は、もともと倉吉にあった大橋旅館の別館として誕生しました。創建された昭和7年頃、三朝はまだ温泉街として確立しておらず、周囲の大半は農家という状況でした。しかし創業者は、最高の日本建築を実現するという強い信念のもと、現代では入手困難な各地の銘木を惜しみなく集め、宮大工に年月をかけて造り上げさせました。
戦時中、全国の旅館が集団疎開や病棟として転用される中、旅館大橋は旅館として存続しました。終戦後も三朝の温泉旅館は厳しい経営が続きましたが、昭和30年(1955年)頃からの高度経済成長期が転機となり、好景気とともに三朝は観光地として名を馳せるようになりました。こうした時代の変遷を経ながらも、旅館大橋は創建当時の姿をほぼそのまま保ち、約90年以上にわたってその美しい佇まいを守り続けています。
登録有形文化財としての価値
平成9年(1997年)9月3日、旅館大橋本館は国の登録有形文化財(建造物)に登録されました(登録番号:31-0018)。木造3階建、瓦葺、建築面積625平方メートルの本館は、昭和初期の大規模木造和風旅館として高い建築技術を示すものとして評価されています。各階に意匠を凝らした上品な客室を配し、優雅な和風の外観が三朝温泉の歴史と伝統を今に伝えている点が特に注目されています。
本館のほか、離れ、西離れ、大広間棟、太鼓橋の計5棟が同時に登録を受けました。これら5つの登録文化財を合わせると、旅館大橋のほぼ全館が文化財に該当することになり、実際に営業を続ける旅館としては全国的にも極めて貴重な存在です。部屋ごとに床の間、天井、欄間等の意匠が異なる数寄屋風の造りが、当時の建築技術の高さを如実に物語っています。
建築の見どころ
宮大工の技と遊び心
旅館大橋の建築は、神社仏閣の建築を専門とする宮大工の手によるものです。繊細な天井の意匠、精巧な欄間彫刻、洗練された床の間など、その卓越した技が館内の隅々にまで行き渡っています。特筆すべきは、ひとつとして同じ造りの部屋が存在しないこと。宮大工たちが遊び心を込めて、各部屋に異なる趣向を凝らしています。
銘木で名付けられた客室
各客室には、その部屋に使われている銘木にちなんだ名前が付けられています。「桜の間」には桜の木、「竹の間」には竹、「松の間」には松の木といったように、部屋名が示す木材が柱や調度品に用いられています。創建当時に集められたこれらの銘木は、現在では入手がほぼ不可能な貴重なものばかりです。
太鼓橋
館内でもっとも不思議な建築のひとつが、大浴場へと続く廊下の一部となっている太鼓橋です。外から眺めると美しいアーチを描いていますが、実際に橋の上を歩くと平らな床を歩いているような感覚になるという、宮大工の巧みな技術による不思議な構造です。夜にはほのかな灯りが橋を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出します。
昭和初期の波打つガラス
館内に残る多くの窓ガラスは、昭和初期に手作りされた当時のもの。独特の透明感とわずかな歪みが特徴で、現代のガラスでは再現できない風合いを持っています。割れてしまえば二度と同じものは手に入らない、かけがえのない意匠の一部です。
旅館大橋の温泉
巌窟の湯
旅館大橋を代表するお風呂が「巌窟(がんくつ)の湯」です。三徳川沿いに湧き出ていた温泉をそのまま湯船として活かした天然岩風呂で、足元から温泉が自然に噴出する「足元自噴泉」という極めて珍しい形態をとっています。湯船は3段に分かれ、下の湯と中の湯はラジウム(ラドン)泉、上の湯は三朝温泉で当館だけが有するトリウム泉です。このトリウム泉は、昭和23年(1948年)に世界最高水準の濃度と評価されたこともあります。湯船をじっと見ていると、ときおりポコポコと気泡が上がってくるのが見え、温泉が今まさに湧き出ている贅沢を実感できます。
せせらぎの湯
三徳川を眺めながら入浴できる露天風呂「せせらぎの湯」は、川のせせらぎに耳を傾けながら心身を癒せる極上の空間です。隣接するホルミシスサウナ(ミストサウナ)では、ラドンを含んだ温泉蒸気を呼吸によって体内に取り込むことができます。三朝温泉はラドン濃度が世界屈指の放射能泉として知られ、微量のラドンが細胞を活性化させ、免疫力や自然治癒力を高めるとされています。
旅館大橋は自家源泉を5カ所有し、そのうち3カ所が自噴泉。すべて源泉かけ流しで、循環を一切行わない新鮮な温泉を楽しむことができます。
お料理
料理旅館としての誇りを持つ旅館大橋では、山陰地方の四季折々の食材を活かした創作会席料理を提供しています。一品一品を出来立ての状態でお部屋にお届けし、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくという料理本来の味わいを大切にしています。日本海の新鮮な海の幸、周辺の山野の恵み、鳥取和牛、冬には名物の松葉蟹など、その季節・その瞬間にもっとも美味しいものが供されます。朝食では地元産の卵を使ったこだわりの出し巻き卵が好評です。
周辺の見どころ
旅館大橋は、三朝エリアの文化・自然スポットを訪れる拠点として最適です。車で約10分の場所にある三徳山三佛寺には、断崖絶壁に建つ国宝・投入堂(なげいれどう)があります。慶雲3年(706年)の開山とされ、「日本一危険な国宝鑑賞」とも称される修験道の山岳参拝は、鎖や木の根をつかんで岩場をよじ登る本格的な登山体験です。三徳山と三朝温泉は「六根清浄と六感治癒の地」として2015年に日本遺産第一号に認定されています。
三朝温泉街には、河原にある無料の混浴露天風呂「河原の湯」、縁結びの「かじか蛙」像がある恋谷橋、足湯スポットなどが点在し、浴衣で気軽に散策を楽しめます。車で約20分の倉吉市には、江戸・明治期の白壁土蔵群が残る重要伝統的建造物群保存地区があり、風情ある町並みを散策できます。さらに足を延ばせば、鳥取砂丘や二十世紀梨記念館「なしっこ館」なども日帰り圏内です。
Q&A
- 旅館大橋が文化財に指定されている理由は何ですか?
- 平成9年(1997年)に、本館・離れ・西離れ・大広間棟・太鼓橋の5棟が国の登録有形文化財に指定されました。昭和7年に宮大工の手で建てられた木造3階建の本館は、各部屋で床の間・天井・欄間などの意匠が異なる数寄屋風の造りが特徴で、昭和初期の高い建築技術を示す大規模木造和風旅館として高く評価されています。5棟を合わせるとほぼ全館が文化財に該当し、現役営業旅館としては全国でも極めて貴重な存在です。
- 温泉にはどのような特徴がありますか?
- 旅館大橋の「巌窟の湯」は、足元から温泉が自然に噴出する極めて珍しい足元自噴泉です。3つの湯船からそれぞれ異なる泉質の温泉が湧き出し、特に上の湯のトリウム泉は三朝温泉で当館だけが持つ貴重なものです。自家源泉5カ所のうち3カ所が自噴泉で、すべて源泉かけ流しです。また露天風呂「せせらぎの湯」では三徳川を眺めながらの入浴が楽しめます。
- アクセス方法を教えてください。
- JR山陰本線の倉吉駅から日ノ丸バス三朝温泉方面行きに乗車し、約20分で「温泉入口」下車、徒歩約5分です。お車の場合は、米子自動車道・湯原ICから約40分、または中国自動車道・院庄ICから約60分です。倉吉駅からの無料送迎バスもあり(前日までの要予約)、タクシーの場合は約3,000円です。
- 客室はどのようなお部屋ですか?
- すべての客室が三徳川を望める位置に配され、ひとつとして同じ造りのない和室です。各部屋には使用されている銘木にちなんだ名前が付けられており、桜の間には桜、竹の間には竹というように、部屋ごとに異なる木材が柱や天井に用いられています。宮大工が年月をかけて造り上げた、遊び心あふれる数寄屋風の空間をお楽しみいただけます。
- 近くにどのような観光スポットがありますか?
- 最も有名なのは車で約10分の三徳山三佛寺にある国宝・投入堂です。「日本一危険な国宝鑑賞」とも称される修験道の山岳参拝が体験できます。三朝温泉街では河原の露天風呂や恋谷橋、足湯が楽しめます。車で約20分の倉吉市には白壁土蔵群の歴史的町並みがあり、鳥取砂丘も日帰り圏内です。三徳山・三朝温泉は2015年に日本遺産第一号に認定されています。
基本情報
| 名称 | 旅館大橋本館(りょかんおおはしほんかん) |
|---|---|
| 文化財種別 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成9年(1997年)9月3日 |
| 建築年 | 昭和7年(1932年) |
| 構造 | 木造3階建、瓦葺、建築面積625㎡ |
| 所在地 | 鳥取県東伯郡三朝町三朝302 |
| アクセス | JR倉吉駅からバス約20分「温泉入口」下車徒歩5分/無料送迎あり(要予約) |
| 泉質 | ラジウム(ラドン)泉・トリウム泉/源泉かけ流し自噴泉 |
| チェックイン・チェックアウト | チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00 |
| 公式サイト | https://www.o-hashi.net/ |
参考文献
- 旅館大橋本館 – 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191309
- 旅館大橋(三朝温泉) – 日本遺産ポータルサイト
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1046/
- 三朝温泉 旅館大橋の歴史 – HISTRIP
- https://www.histrip.jp/170402tottori-misasa-6/
- 旅館大橋|公式サイト
- https://www.o-hashi.net/
- 旅館大橋 – 三朝温泉ポータルサイト
- https://misasaonsen.jp/stay/32/
最終更新日: 2026.03.29