木屋旅館 — 明治元年創業、三朝温泉の登録有形文化財の湯宿

鳥取県中部、三徳川のほとりに広がる三朝温泉。その中心部に佇む木屋旅館は、全館が国の登録有形文化財に認定された木造の老舗旅館です。創業は明治元年(1868年)。館内の廊下や階段、客室の意匠に至るまで、明治・大正・昭和と続く温泉旅館建築の歴史を、今も現役の宿として伝えています。世界屈指のラドン含有量を誇る三朝の湯に、浴室の足元からこんこんと湧き出る自家源泉で浸かれる宿としても、古くから湯治客に親しまれてきました。

庄屋から湯宿へ — 木屋の歩み

木屋旅館の歴史は、江戸時代の庄屋にさかのぼります。当時、鳥取藩から木材をはじめとする山の産物の取り扱いを任されていた家の屋号が「木屋」でした。明治元年に庄屋業を閉じ、屋号はそのままに旅館専業へと転じたのが、現在の木屋旅館のはじまりです。木を扱っていた家ならではの木へのこだわりは、今も館内の廊下や階段、客室の造作のいたるところに息づいています。

三朝が湯治場から観光地としての温泉街へ変貌していく明治・大正・昭和を通じて、木屋旅館は温泉街の振れに沿う形で増改築を重ねてきました。時代ごとに積み重ねられた木造の建屋が複雑に連なり、館内はまるで迷路のよう。趣の異なる客室、味のある梁、磨き抜かれた柱や板戸が、歩くたびに異なる表情で旅人を迎えてくれます。

登録有形文化財に認定された理由

2010年、文化庁より木屋旅館の建物群は全館まるごと国の登録有形文化財に認定されました。建物は三朝温泉の中心部、河畔に位置し、建築面積はおよそ516平方メートル。木造の2階建を基本としつつ一部を3階建とし、屋根は桟瓦葺と鉄板葺、地階には浴室を設ける構成です。各階に庇を巡らせ、窓には高欄を付けた外観が、今も湯の街の風情を伝えています。

登録の背景には、温泉街の発展とともに増築を重ねることで生まれた複雑で特徴的な外観があります。三朝温泉が湯治場から観光地へと姿を変えていった先駆け的な旅館建築として、また大正期の温泉施設の原型を残しつつ、入浴以外の温泉利用としての「オンドル」施設までを備える昭和の温泉文化を代表する建物として、その文化的価値が評価されました。木屋旅館はまた、文化庁が認定した日本遺産第一号「六根清浄と六感治癒の地 〜日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉〜」を構成する宿としても知られています。

魅力・見どころ

木屋旅館の最大の見どころは、温泉教授こと松田忠徳氏の著書『温泉手帳』でも紹介された「楽泉の湯」に代表される足元湧出泉です。浴槽の底から源泉が直接湧き上がる方式は、今や全国でも数少ない希少なもので、楽泉の湯そのものは創業以前からの湯口として150年以上の歴史を誇ります。湯に身を沈めると、足元の小石の間から静かに泡立つ源泉を直接体感することができます。

館内にはほかにも、岩窟のような空間に設けられた蒸し湯、ラドンミストサウナ、そして寝転んでいるだけで身体の芯まで温まる岩盤浴風のオンドル室など、個性の異なる湯処が点在しています。いずれも24時間利用可能で、まさに「温泉ワンダーランド」と呼ぶにふさわしい滞在が楽しめます。

14室の客室はそれぞれ間取りや意匠が異なり、廊下や階段には貴重な木材がふんだんに使われています。夕食は、鳥取和牛、日本海の鮮魚、契約農家の野菜、そして幻の三朝米などを用いた月替わりの会席料理が個室で供され、館内には囲炉裏を配した休憩処も設けられています。

周辺情報

木屋旅館は、鳥取県中部の観光拠点としても抜群の立地にあります。車で内陸へ少し走れば、切り立つ崖の窪みに懸造の堂宇を建てた「日本一危ない国宝鑑賞」と称される三徳山三佛寺投入堂があり、木屋旅館では専属ガイドが同行する参拝ツアーも用意しています。急峻な行場をガイドとともに登拝できるのは、この宿ならではの体験です。

周辺には、白壁土蔵群で知られる倉吉の町並み、雄大な鳥取砂丘、水木しげるロードで親しまれる境港、白兎海岸などが日帰り圏内にあります。三朝温泉街そのものも、河原の露天風呂や湯けむり漂う小路、石段の参道、浴衣で歩ける夜の温泉街など、散策の楽しみに事欠きません。

訪問にあたって

三朝温泉への最寄り駅はJR倉吉駅で、バスまたはタクシーで15〜20分ほど。特急スーパーはくとを利用すれば、姫路や大阪方面からもアクセスが容易です。飛行機の場合は鳥取空港から直通バスも利用できます。歴史的建造物であるため、階段や廊下に勾配や曲がりがあり、段差も随所にあります。その一つひとつが、登録有形文化財の宿に泊まる醍醐味でもあります。ゆっくりと時間をかけて、建物そのものを味わう滞在を心がけるのが、この宿の楽しみ方です。

Q&A

Q木屋旅館のどの部分が文化財として登録されているのですか?
A本館をはじめとする木屋旅館の建物群は、全館まるごと2010年(平成22年)に国の登録有形文化財に登録されました。建築面積はおよそ516平方メートル、木造2階建一部3階建の構成です。
Q温泉の特徴は何ですか?
A最大の特徴は、浴槽の底から直接源泉が湧き出る「足元湧出泉」で、楽泉の湯は創業以前から150年以上の歴史を持つ自噴泉です。泉質は世界屈指のラドン含有量を誇るラジウム塩化物泉です。
Qオンドルとはどのような施設ですか?
A朝鮮半島由来の床暖房施設で、湯浴み着を着て温められた床に寝転ぶことで、温泉の蒸気と遠赤外線効果でじっくり身体を温めることができます。木屋旅館のオンドルは、昭和の温泉文化を伝える希少な施設として文化財登録の評価にもつながっています。
Q客室数や食事について教えてください。
A客室は趣の異なる14室です。食事は月替わりの季節の会席料理を個室でご用意し、鳥取和牛、日本海の鮮魚、契約農家の野菜、三朝米などを使った料理をお楽しみいただけます。
Q三徳山投入堂への参拝は可能ですか?
Aはい。木屋旅館では、日本一危ないとも称される三徳山三佛寺投入堂への参拝ツアーを、専属ガイドの同行付きで案内しています。険しい行場を安全に登拝するためのサポートが受けられます。

基本情報

名称 木屋旅館
所在地 〒682-0123 鳥取県東伯郡三朝町三朝895
創業 明治元年(1868年)
文化財指定 国登録有形文化財(2010年登録)
構造 木造2階建一部3階建、桟瓦葺及び鉄板葺、建築面積約516㎡、地階浴室
客室数 14室
チェックイン/アウト 15:00/10:00
アクセス JR倉吉駅よりバスまたはタクシーで約15〜20分/鳥取空港より直通バス利用可
関連遺産 日本遺産「六根清浄と六感治癒の地 〜日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉〜」構成文化財

参考文献

木屋旅館公式サイト「文化財建築の魅力」
https://www.misasa.co.jp/about/cultural/
木屋旅館公式サイト(トップページ)
https://www.misasa.co.jp/
日本遺産ポータルサイト「木屋旅館(三朝温泉)」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1040/
楽天トラベル「登録有形文化財の宿 木屋旅館」
https://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/20014/20014.html
JTB「登録有形文化財の宿 木屋旅館」
https://www.jtb.co.jp/kokunai-hotel/htl/7310011/

最終更新日: 2026.04.20