矢田貝家住宅の屋敷構え

矢田貝家住宅は、鳥取県西伯郡伯耆町上細見にある地主の屋敷で、嘉永7年(1854年)建築の主屋を中心に、主屋・離れ・茶室・腰掛待合・土蔵・長屋門・庭門・中門の8棟が平成23年(2011年)に登録有形文化財に登録された。

名字は「やたがい」と読む。矢田貝家住宅は大山の西麓、日野川の右岸に開けた平地にあり、国道181号に面している。伯耆町によると、このあたりは江戸時代に出雲街道が通っていた道筋にあたる。

8棟は、道路から奥へ向かっておおよそ順に現れる。通りに沿って長屋門が建ち、その正面の奥に主屋が東を向いて構える。長屋門と主屋のあいだには庭門があり、左右にのびる塀とともに前庭と主庭を分けている。主屋の背後には土蔵が北を向いて建つ。

主屋の南側には離れが接続する。離れの前から茶室の方へ塀がのび、その塀に開いた中門をくぐると露地に入る。露地の途中に腰掛待合が建ち、その先に観楓庵と称する茶室がある。表の門と主屋、裏の土蔵、南の茶の空間と、矢田貝家住宅は性格の違う三つの区画から成り立っている。

矢田貝家住宅の来歴

伯耆町は、矢田貝家をたたら製鉄に関わった一族と伝え、現在地に屋敷を構えたのを幕末の嘉永年間としている。島根大学の研究グループが2026年に公表した総論によれば、初代は嘉永7年(1854年)に上細見などの土地を買い受けて分家した。主屋の厨子二階に残る棟札にも同じ年が記されている。

矢田貝家は行商や貸金、醸造業で家産を広げ、明治時代には酒と醤油の醸造を手がけ、やがて小作地の経営を柱とする地主になった。鳥取県の解説も、矢田貝家住宅を地主経営と醸造業を営んだ家の住宅として紹介している。

明治時代の敷地には、酒蔵や醤油蔵、炭納屋、隠居屋敷など、家業と暮らしのための建物がひしめいていた。その配置は、家に伝わる家相図や明治16年(1883年)の家屋譲渡証の付図から読み取れる。ただし多くは早くに姿を消し、残っていた米蔵や大工小屋なども昭和63年(1988年)から平成3年(1991年)にかけて解体された。

いまの屋敷の姿を決めたのは、4代当主の矢田貝顯造(1905〜1992年)である。顯造は屋敷地を東と南へ広げ、表庭・裏庭・露地からなる庭園を自ら構想して、昭和3年(1928年)ごろから10年以上にわたって工事を続けた。顯造の日記を読み解いた建築史家の藤木竜也によると、庭門は昭和6年(1931年)、離れの茶室は昭和6年から8年(1931〜1933年)、観楓庵は昭和13年(1938年)、中門と腰掛待合は昭和14年(1939年)、長屋門の移築と改修は昭和15年から16年(1940〜1941年)の工事である。庭を先に整え、建物はあとから据えていく順序だった。

顯造が昭和60年(1985年)に東京へ移ると、矢田貝家住宅は空き家になった。平成12年(2000年)の鳥取県西部地震では、長屋門の柱などが傷んでいる。平成13年(2001年)からは蕎麦店や交流施設として貸し出され、その後も借り手と使い方は何度も入れ替わってきた。

平成22年(2010年)に鳥取県教育委員会と専門家による建造物調査が行われ、翌平成23年(2011年)7月25日に8棟が登録された。庭園も、表庭・裏庭・露地を含む4397.55平方メートルが、令和7年(2025年)4月に「矢田貝氏庭園」として鳥取県の文化財に指定されている。

矢田貝家住宅の登録8件

矢田貝家住宅の8棟は平成23年(2011年)7月25日にそろって登録有形文化財に登録され、登録番号は31-0165から31-0172までの連番になっている。登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。年代と規模は文化庁のデータベースによる。

  • 矢田貝家住宅主屋:嘉永7年(1854年)、建築面積204㎡
  • 矢田貝家住宅長屋門:明治中期(昭和前期に敷地内で移築)、建築面積24㎡
  • 矢田貝家住宅庭門:明治中期、間口2.2m
  • 矢田貝家住宅土蔵:明治中期、土蔵造2階建、建築面積50㎡
  • 矢田貝家住宅離れ:昭和前期、建築面積46㎡
  • 矢田貝家住宅中門:昭和前期、間口1.2m
  • 矢田貝家住宅腰掛待合:昭和前期、建築面積6.8㎡
  • 矢田貝家住宅茶室(観楓庵):昭和前期、建築面積18㎡

顯造の日記を使った近年の研究で、いくつかの棟の年代はさらに絞り込まれた。庭門のように、文化庁が明治中期とする棟を日記が昭和6年(1931年)の造営と記す例もある。根拠は各棟のページで扱っている。

鳥取県は、幕末に建った当地方の伝統的な主屋を核に、昭和初期の付属屋が一揃い残る点を評価し、矢田貝家住宅を近代の風情を伝える屋敷構えとしている。

矢田貝家住宅の見学と行き方

矢田貝家住宅は個人の所有で、文化財としての常設の公開はない。平成13年(2001年)以降は、飲食店や催しの場として屋敷が貸し出されてきた。山陰の店舗案内サイト「SANIN HANKA Guide」には、邸内の「森のめぐみ TeaSalon」が金曜と土曜の午前9時から午後5時に開き、入場料は500円(未就学児は無料)と載っている。掲載の時期が書かれていないため、出かける前に店か伯耆町教育委員会事務局生涯学習室(電話0859-62-0712)へ確かめてほしい。

営業時間外に敷地へ入るのは控えたい。通りに面した長屋門と、その奥の主屋の表構えは国道181号から眺められる。撮影の可否は公表されていないので、敷地内ではその日の管理者に尋ねること。

鉄道ではJR伯備線の伯耆溝口駅が最寄りで、矢田貝家住宅は駅の北北西、直線でおよそ1.1キロの国道181号沿いにある。駐車場は店舗の紹介記事に「あり」とあるだけで、台数は分からない。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008754
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅離れ
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008755
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅茶室
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008756
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅腰掛待合
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008757
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008758
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅長屋門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008759
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅庭門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008760
国指定文化財等データベース(文化庁)矢田貝家住宅中門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008761
文化遺産オンライン 矢田貝家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/195095
とっとり文化財ナビ(鳥取県文化財課)矢田貝家住宅
https://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/117213810028FEE749257C5A00296E73
伯耆町 国登録有形文化財(矢田貝家住宅)
https://www.houki-town.jp/new1/10/20/2/5/4/01/
鳥取県立公文書館県史編さん室 伯耆町で資料調査を実施(2012年)
https://www.pref.tottori.lg.jp/item/761211.htm
二階堂行宣ほか「矢田貝家の歴史」『山陰研究』別冊2(島根大学、2026年)
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/55736
藤木竜也「家相図・日記に繙く矢田貝家住宅」『山陰研究』別冊2(島根大学、2026年)
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/55741
田中宏夫「近代村落地主の作庭記」『山陰研究』別冊2(島根大学、2026年)
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/55742
SANIN HANKA Guide 森のめぐみ TeaSalon(営業案内)
https://www.hankag.jp/view.php?no=4680
うさぎの耳 WEB MAGAZINE 森のめぐみ Tea salon(2024年開店の紹介)
https://usamimiweb.com/%E3%80%90new-open%E3%80%91%E3%80%8C%E6%A3%AE%E3%81%AE%E3%82%81%E3%81%90%E3%81%BF-tea-salon%E3%80%8D%E5%8F%A4%E6%B0%91%E5%AE%B6%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%A0%E3%81%8F%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%96/

最終更新日: 2026.10.07

基本情報

名称矢田貝家住宅
所在地鳥取県西伯郡伯耆町上細見字樋ノ上486他
指定登録有形文化財 8件
座標35.35719, 133.43024