護国院多宝塔:紀三井寺に佇む室町時代の名建築

和歌山市の名草山中腹に広がる紀三井寺の境内に、ひときわ優美な姿で佇む護国院多宝塔。文安6年(1449年)に再建されたこの三間多宝塔は、境内最古の建造物であり、国指定重要文化財として大切に守り伝えられてきました。方形の下層と円形の上層が織りなす独特の造形、白漆喰の亀腹、そして四隅から風鐸を吊るす鋳鉄製の相輪——室町時代中期の建築様式を今に伝えるこの塔は、西国三十三所第二番札所として知られる名刹の歴史と信仰を象徴する存在です。

歴史的背景

紀三井寺の正式名称は紀三井山金剛宝寺護国院といい、宝亀元年(770年)に唐の僧・為光上人によって開創されたと伝えられています。為光上人は観音菩薩の導きによりこの地に至り、自ら十一面観音像を彫って本尊としました。以来、紀三井寺は天皇家や歴代の領主からの崇敬を集め、西国観音霊場の第二番札所として多くの巡礼者を迎え入れてきました。

多宝塔の前身となる塔は、嘉吉元年(1441年)の暴風により倒壊しました。その後、文安6年・宝徳元年(1449年)に再建のための勧進が行われ、現在の多宝塔が建立されたとされています。明治41年(1908年)4月23日、楼門および鐘楼とともに国の重要文化財に指定されました。

文化財指定の理由

護国院多宝塔が重要文化財に指定された理由は、室町時代中期の建築技法と意匠を高い水準で保持している点にあります。各部の絵様や彫刻、堂内の須弥壇に至るまで、15世紀の様式・手法が忠実に残されており、日本の仏教建築、特に多宝塔建築の発展を理解する上で極めて貴重な資料となっています。

また、紀三井寺には本塔のほかに楼門(永正6年・1509年建立)と鐘楼(天正16年・1588年建立)の計3棟の重要文化財建造物が現存しており、一つの寺院に中世から近世にかけての指定建造物が集中する点も特筆に値します。

建築の見どころ

護国院多宝塔は本瓦葺の三間多宝塔であり、多宝塔特有の造形美を見事に体現しています。下層が方形、上層が円形という二層構造は、密教における胎蔵界と金剛界の一体を象徴するものとされ、真言宗寺院の伽藍において重要な位置を占めます。

下層

下層は四本柱を中心とした方形の平面構成で、各所に室町時代中期の特徴を示す蟇股や組物が施されています。内部には須弥壇が設けられ、五智如来像が安置されています。

上層

上層は白漆喰でまんじゅう形に固めた亀腹の上に築かれ、直径約2.45メートルの円形平面に十二本の柱が立てられています。周囲には高欄がめぐらされ、端正で優雅な外観を形成しています。

相輪

塔の最上部を飾る相輪は鋳鉄製で、露盤・伏鉢・九輪・水煙・宝珠という伝統的な構成を備えています。四隅には鎖が張られ、それぞれに風鐸(ふうたく)が吊るされています。風に揺れて澄んだ音を奏でる風鐸は、この塔の大きな魅力のひとつです。九輪宝珠までの高さはおよそ11メートルに達します。

安置仏像

塔内には五智如来(大日如来を中心とする五体の如来像)が安置されています。五智如来は密教における最高の智慧の象徴であり、多宝塔の本来の信仰対象としてふさわしい存在です。なお、塔の内部は一般公開されていません。

拝観案内

多宝塔は紀三井寺境内の上方、開山堂の近くに位置しています。楼門から始まる231段の石段を登るか、2022年に導入されたバリアフリー対応のケーブルカーを利用して本堂エリアへ到達した後、本堂の裏手方面へ進むと多宝塔に至ります。朱塗りの塔は、春には満開の桜に包まれ、秋には紅葉に映えるなど、四季折々の美しい景観を楽しめます。

外観の見学は拝観時間内(午前8時〜午後5時)であれば自由にできます。内部は非公開です。境内への拝観料は無料です。

周辺情報

紀三井寺境内には多宝塔のほかにも見どころが豊富です。永正6年(1509年)建立の楼門と天正16年(1588年)建立の鐘楼はいずれも重要文化財に指定されており、それぞれ桃山時代の意匠を残す見応えのある建造物です。県指定重要文化財の本堂(宝暦9年・1759年建立)は総欅造りの堂々たる建築で、堂内には秘仏の十一面観音像が安置されています。

境内には約1,200本の桜が植えられ、毎年関西地方で最も早く桜の開花が宣言される名所としても知られています。山の中腹に位置する紀三井寺からは和歌浦湾を一望でき、日本遺産「絶景の宝庫 和歌の浦」の構成文化財にも選ばれています。

周辺には紀州東照宮や養翠園(大名庭園)、番所庭園などの観光名所があり、和歌山城へも市内バスで容易にアクセスできます。

Q&A

Q護国院多宝塔はいつ建てられたのですか?
A現在の多宝塔は文安6年(1449年)頃に再建されたものです。嘉吉元年(1441年)の暴風により倒壊した前身の塔に替わって建立され、紀三井寺境内で最も古い建造物として現存しています。
Q多宝塔の内部を見学できますか?
A内部は一般公開されておらず、特別公開の情報も現在のところありません。ただし、外観は拝観時間内(午前8時〜午後5時)であれば自由にご覧いただけます。
Q多宝塔とはどのような建築ですか?
A多宝塔は主に真言宗や天台宗の寺院に見られる二重塔の一形式です。下層が方形、上層が円形という独特の構造を持ち、法華経に登場する多宝如来(たほうにょらい)の宝塔に由来する名称です。密教の宇宙観を建築で体現した形式として、日本の仏教建築における重要な塔形式のひとつとなっています。
Q紀三井寺へのアクセス方法は?
AJR紀勢本線(きのくに線)の紀三井寺駅から徒歩約10分です。和歌山駅からは普通列車で2駅です。また、和歌山バスの「紀三井寺」バス停から徒歩約5分でもアクセスできます。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A春(3月下旬〜4月上旬)は桜の名所として最も人気のある時期で、多宝塔と桜の共演は格別の美しさです。秋の紅葉シーズンも見応えがあります。四季を通じてそれぞれの趣が楽しめますので、いつ訪れても魅力的です。

基本情報

名称 護国院多宝塔(ごこくいん たほうとう)
指定区分 国指定重要文化財(明治41年4月23日指定)
建立年 文安6年・宝徳元年(1449年)、室町時代中期
構造・形式 三間多宝塔、本瓦葺
高さ 約11メートル(相輪頂部まで)
安置仏像 五智如来
所在地 和歌山県和歌山市紀三井寺1201
所有者 護国院
拝観時間 午前8時〜午後5時(外観見学のみ、内部非公開)
拝観料 無料
アクセス JR紀勢本線 紀三井寺駅より徒歩約10分

参考文献

護国院(紀三井寺)多宝塔 | 和歌山市の文化財
http://wakayamacity-bunkazai.jp/shitei/4798/
建築物 – 紀三井寺(公式サイト)
https://www.kimiidera.com/landmark/
護国院多宝塔 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/157345
紀三井寺 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%80%E4%B8%89%E4%BA%95%E5%AF%BA
護国院(紀三井寺) – 日本遺産ポータルサイト(文化庁)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3198/

最終更新日: 2026.04.03