天正の兵火を生き延びた塔
有田川を見下ろす山の中腹、浄妙寺の本堂からさらに石段を登ったところに、二層の多宝塔が建つ。空輪の頂までの高さは12.95メートル。鎌倉時代中期、おおむね十三世紀後半の建造である。下層が方形、上層が円形で、宝形造の屋根を本瓦で葺く。日本で形を整えた多宝塔の典型といってよい。
浄妙寺は臨済宗妙心寺派の寺で、山号を醫王山という。参拝者の多くは、この塔を目当てに坂を登る。
寺の来歴
寺伝は創建を大同元年(806年)に置き、鑑真の弟子である唐僧・如宝を開山、平城天皇の母にあたる藤原乙牟漏の発願と伝える。ただし乙牟漏は延暦9年(790年)に没しており、年代はそのままには合わない。確かな繁栄がたどれるのは平安末で、嘉応元年(1169年)に宮崎定範がこの地を領して以後、70石の寺領を寄せられている。
転機は天正13年(1585年)だった。豊臣秀吉の紀州攻めで伽藍は焼け、縁起の記録も失われた。難を逃れたのは二棟。現在の本堂にあたる薬師堂と、この多宝塔である。いずれも山中の木立に隠れていたために火を免れた。荒れたまま放置された寺を、正保4年(1647年)に紀州藩初代藩主・徳川頼宣が再興した。
指定の理由
多宝塔が国の指定を受けたのは明治37年(1904年)8月29日で、現在は重要文化財にあたる。価値は古さだけにとどまらない。和歌山県は多宝塔の数が際立って多く、総高36メートルの根来寺塔のような大作から、工芸品に近い高さ2メートルほどの小塔まで幅がある。浄妙寺の塔は、そのなかでも古い時期に属する一基である。
上層を見上げると、組物は四手先に組み上げられ、軒には垂木が二重に並ぶ。塔の大きさのわりに手の込んだ造りで、近くで見るほど印象が変わる。
塔の内部
見どころは内部にある。中央の須弥壇には五智如来が並ぶ。密教の本尊である大日如来を中心に据えた五体の如来である。背後の板壁には真言八祖の彩色像が描かれ、四方の壁には釈迦の生涯を八つの場面で表した八相成道図が残る。
これらの壁画は建物とは別に、和歌山県指定有形文化財となっている。古い顔料は剝落しやすく、塔の内部はいつでも開くわけではない。公開されたときも、薄暗がりに目が慣れてから、板の上の像がようやく見えてくる。
境内とアクセス
多宝塔のほかにも、浄妙寺には兵火を逃れた文化財が集まっている。本堂も鎌倉中期の建物で、こちらも国の重要文化財。堂内には木造の薬師如来坐像と両脇侍、十二神将立像が安置され、いずれも国指定の彫刻である。蓮華唐草文を螺鈿で表した須弥壇も国の重要文化財で、県内の鎌倉期工芸のなかでも質が高い。
境内は高台にあり、晴れた日には淡路島まで見渡せる。5月にはバラが咲く。JR紀勢本線の箕島駅から徒歩で約10分、路線バスなら「浄妙寺前」で下車する。車では阪和自動車道・有田インターチェンジから20分ほど、山門の近くに駐車場がある。
Q&A
- 多宝塔の中は見学できますか。
- 内部の公開は壁画の保存と関わり、随時とは限りません。境内はおおむね自由に入れますが、内部の拝観を予定する場合は事前に寺へ確認してください。
- 多宝塔とはどのような塔ですか。
- 下層が方形、上層が円形の二層塔で、宝形造の屋根をいただきます。日本で形が整った塔で、密教との結び付きが深いものです。
- いつ頃の建物ですか。
- 鎌倉時代中期、十三世紀後半ごろの建造とされ、明治37年(1904年)に最初の指定を受けました。
- 多宝塔のほかに見るべきものはありますか。
- 本堂、木造薬師如来坐像と両脇侍、十二神将立像、螺鈿の須弥壇が、同じ境内でいずれも指定文化財となっています。
- 訪れるのに良い時期は。
- 5月にはバラが咲き、晴れた日には淡路島まで望めます。高台の眺めは季節を問わず気持ちのよいものです。
基本データ
| 名称 | 浄妙寺多宝塔 |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県有田市宮崎町 |
| 寺院 | 醫王山 浄妙寺(臨済宗妙心寺派) |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/明治37年(1904年)8月29日 国指定 |
| 時代 | 鎌倉時代中期(十三世紀後半) |
| 構造 | 三間二層の多宝塔、宝形造・本瓦葺 |
| 高さ | 空輪頂上まで12.95メートル |
| 内部 | 須弥壇上に五智如来。板壁に真言八祖像、四壁に八相成道図(和歌山県指定有形文化財) |
| 所有 | 浄妙寺 |
| アクセス | JR紀勢本線・箕島駅から徒歩約10分/阪和自動車道・有田ICから車で約20分 |
参考文献
- 浄妙寺 多宝塔|有田市公式ウェブサイト
- https://www.city.arida.lg.jp/kurashi/sportsbunka/bunka/1000911/1000915.html
- 浄妙寺|有田市公式ウェブサイト
- https://www.city.arida.lg.jp/kanko/miruasobu/1001429.html
- 和歌山県の塔を訪ねるコース|わかやまの文化財
- https://wakayama-bunkazai.jp/map_content/map_content-6243/
- 浄妙寺 (有田市)|Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/浄妙寺_(有田市)
最終更新日: 2026.06.05