旧岩国税務署 — 大正ロマンを今に伝える洋風庁舎建築

JR西岩国駅から岩国の旧城下町へと向かう道すがら、ひときわ目を引く洋風建築が佇んでいます。旧岩国税務署(きゅういわくにぜいむしょ)は、大正14年(1925)に建てられた木造2階建てのモルタル塗り庁舎建築です。山口県内に現存する戦前の税務署建築としては唯一の事例であり、平成12年(2000)に国の登録有形文化財に指定されました。現在は地元の酒造会社・藤本酒造株式会社が所有し、大正時代の面影を今に伝えています。

旧岩国税務署の歴史

岩国税務署の始まりは、明治18年(1885)に設置された租税検査員派出所に遡ります。明治政府が全国的な税務行政の整備を進める中で、岩国にも税務の出先機関が設けられました。当初は岩国城の麓にある横山地区に庁舎がありましたが、その後現在の岩国3丁目の地に移転しました。

現在の建物は大正14年(1925)に竣工した新庁舎です。大正12年(1923)の関東大震災を契機に、全国各地で耐火性や耐久性を考慮した建築が求められるようになり、木造の骨組みにモルタルや人造石で外装を施した洋風建築が数多く建設されました。旧岩国税務署もこの時代の潮流を反映した建物であり、地方の官公庁建築としては高い完成度を誇ります。

税務署としての役目を終えた後、建物は藤本酒造株式会社によって取得され、現在に至るまで大切に保存されています。平成12年(2000)2月15日、その歴史的・建築的価値が認められ、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

建築の特徴とデザイン

旧岩国税務署は、木造2階建て、瓦葺きの建物で、建築面積は202平方メートルです。間口は約10間半(約19メートル)あり、堂々とした外観を見せています。

最大の特徴は、ルネサンス様式を取り入れた左右対称の建築構成です。正面中央に玄関を配し、その左右の両翼部を薄く前方に張り出させ、それぞれに切妻屋根をのせています。この均整のとれた構成は、大正期の地方庁舎建築としては洗練されたデザインといえます。

外壁にはモルタル仕上げが施され、随所に幾何学的な装飾文様が配されています。これらの装飾は、大正末から昭和前期にかけて流行した洋風建築のデザイン手法をよく示しており、西洋的な意匠と日本の伝統的な瓦屋根が調和した独特の美しさを生み出しています。

設計監督は税務監督局技手の田中俊郎によるもので、当時の官庁営繕組織が手がけた地方公共建築のあり方を知る上で貴重な事例となっています。

文化財としての価値

旧岩国税務署が登録有形文化財に指定された理由は、いくつかの重要な点に集約されます。

第一に、山口県内に現存する戦前の税務署建築として唯一の遺構であることです。全国的に見ても、大正から昭和初期の税務署建築が原型をとどめて残っている例は少なく、地方行政建築の歴史を伝える貴重な存在です。

第二に、関東大震災後に全国的に普及した、モルタルや人造石を用いた洋風建築の好例であることです。木造の骨組みに洋風の外装を施すという当時の建築手法を、地方の庁舎建築において実践した典型的な事例として評価されています。

第三に、税務監督局技手による設計という記録が残されており、中央の官庁営繕組織が地方の公共建築にどのように関与していたかを示す実物資料としての価値があります。

見どころと鑑賞のポイント

旧岩国税務署を訪れた際は、まず建物全体を少し離れた位置から眺めてみてください。中央の玄関を軸とした左右対称の構成と、両翼部の切妻屋根が生み出す均整のとれたシルエットが、大正期の洋風建築の美学を端的に物語っています。

次に、外壁に施された幾何学的な装飾文様に注目してください。モルタルで表現されたこれらの装飾は、地方の庁舎建築にも丁寧な意匠が施されていたことを示しており、当時の建築技術と美意識の高さがうかがえます。

また、西洋風のモルタル外壁と日本の伝統的な瓦屋根が組み合わされた独特の佇まいも見どころの一つです。和洋折衷の建築美が、岩国の静かな街並みの中で独特の存在感を放っています。

周辺情報 — 橋と城と酒のまち、岩国

旧岩国税務署が位置する岩国市は、西日本有数の歴史・文化の宝庫です。最も有名な観光名所は、錦川に架かる錦帯橋です。延宝元年(1673)に第三代岩国領主・吉川広嘉によって創建された五連の木造アーチ橋で、日本三名橋の一つに数えられています。春の桜、夏の鵜飼い、秋の紅葉と、四季を通じて美しい景観が楽しめます。

錦帯橋の背後にそびえる城山の頂には岩国城があり、ロープウェーで山頂まで上ると、岩国市街から瀬戸内海まで一望できる絶景が広がります。麓の吉香公園には、岩国徴古館や柏原美術館、吉川史料館などの文化施設が集まっています。

岩国は酒どころとしても知られ、市内には5つの酒蔵が活動しています。世界的に有名な「獺祭」を醸す旭酒造をはじめ、「五橋」の酒井酒造など、名水百選にも選ばれた錦川の清流を使った銘酒が数多く生まれています。錦帯橋近くの観光交流所「本家 松がね」では、岩国五蔵の地酒を一口から試飲することもできます。

また、岩国市には天然記念物のシロヘビが生息しており、「岩国シロヘビの館」で間近に観察することができます。

アクセス

旧岩国税務署は、山口県岩国市岩国3-13-9に所在しています。JR岩徳線・西岩国駅から徒歩約12分、岩国市街地への入口にあたる場所に位置しています。

広域からのアクセスとしては、山陽新幹線・新岩国駅からバスまたはタクシーで約10〜15分、JR山陽本線・岩国駅からバスで約20分です。岩国錦帯橋空港からは、東京(羽田)から約95分のフライトでアクセスでき、空港からバスで約30分です。

なお、建物は藤本酒造株式会社の所有であり、内部の一般公開は行われていない場合があります。外観の見学は道路上から可能ですが、周辺の住民や所有者へのご配慮をお願いいたします。

Q&A

Q旧岩国税務署とはどのような建物ですか?
A大正14年(1925)に建てられた、木造2階建てのモルタル塗り洋風庁舎建築です。ルネサンス様式を取り入れた左右対称のデザインが特徴で、山口県内に現存する戦前の税務署建築としては唯一の事例です。平成12年(2000)に国の登録有形文化財に登録されました。
Q建物の内部を見学できますか?
A建物は藤本酒造株式会社の所有であり、内部の一般公開は原則として行われていません。ただし、ルネサンス様式の美しい外観やモルタル装飾は、道路上からじっくりとご鑑賞いただけます。
Q最寄り駅からのアクセス方法を教えてください。
AJR岩徳線・西岩国駅から徒歩約12分です。また、新岩国駅(新幹線)やJR岩国駅からバスやタクシーでもアクセス可能です。錦帯橋観光と合わせて訪問されると効率的です。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A日本三名橋の一つである錦帯橋をはじめ、岩国城(ロープウェーで山頂へ)、吉香公園、岩国徴古館、柏原美術館、岩国シロヘビの館など、多くの歴史・文化スポットが徒歩圏内にあります。また、岩国五蔵の地酒を楽しめる試飲施設もあります。
Qこの建物の建築的な特徴は何ですか?
Aルネサンス様式を基調とした左右対称の構成で、正面中央に玄関を置き、左右の両翼部を前方に張り出して切妻屋根をのせたデザインが特徴です。外壁にはモルタルで幾何学的な装飾文様が施されており、大正末から昭和前期に流行した洋風建築の様式をよく示しています。

基本情報

名称 旧岩国税務署(きゅういわくにぜいむしょ)
指定区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成12年(2000)2月15日
竣工 大正14年(1925)
構造 木造2階建、瓦葺、モルタル塗り、建築面積202㎡
設計 税務監督局技手 田中俊郎
所有者 藤本酒造株式会社
所在地 山口県岩国市岩国3-13-9
アクセス JR岩徳線・西岩国駅から徒歩約12分

参考文献

旧岩国税務署 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/181443
旧岩国税務署 — 山口県の文化財
https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=110172
旧岩国税務署 — いわくに文化財探訪
https://iwakuni-bunkazai.jp/bunkazai/旧岩国税務署/
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000489
岩国観光振興課 — 岩国 旅の架け橋
https://kankou.iwakuni-city.net/

最終更新日: 2026.03.27