はじめに
山口県宇部市の丘陵地に佇む桃山配水計量室は、地元で「六角堂」の愛称で親しまれている大正時代の水道施設です。1924年(大正13年)に建設されたこの小さな八角形の煉瓦造りの建物は、かつて宇部市街地への配水量を計測する重要な役割を担っていました。現在は国の登録有形文化財および経済産業省の近代化産業遺産に認定され、宇部の近代化を象徴する貴重な建造物として、市民や訪問者に愛され続けています。ゴシック様式の優美な外観と、眼下に広がる宇部市街地の眺望が、訪れる人々を魅了します。
歴史的背景
桃山配水計量室の歴史は、宇部の発展を支えた沖ノ山炭鉱の物語と深く結びついています。大正時代、石炭産業を中心に宇部村は急速な発展を遂げ、人口も急増しました。それに伴い、近代的な上水道施設の整備が急務となっていました。
当時、沖ノ山炭鉱は独自に炭鉱や社宅への給水工事を計画しており、同時期に宇部市でも上水道敷設を計画していたため、沖ノ山炭鉱は将来市に施設を譲渡することを前提に工事に着手しました。厚東川上流から取水した水を中山浄水場で浄化した後、ポンプで標高約66メートルの桃山配水池に揚水し、自然流下方式を利用して市街地へ配水するというシステムが構築されました。計量室は1924年(大正13年)12月にこのインフラの一部として完成し、口径400ミリの配水本管2本と350ミリの配水本管1本を引き込んで配水量の計測を行っていました。
1926年(大正15年)に水道施設全体が宇部市に譲渡され、市営の上水道として市民生活の近代化に大きく貢献しました。計量室はその後も長きにわたり水道施設として機能し続け、宇部の近代化の歩みを見守ってきた存在です。
文化財指定の理由
桃山配水計量室は、1997年(平成9年)11月5日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。1996年(平成8年)の文化財保護法改正により導入された文化財登録制度は、歴史的な価値を持ちながらも都市開発や生活様式の変化によって消失の危機にある建築物や土木構造物を保護し、後世に継承することを目的としています。
登録の基準は、築50年以上を経過していること、国土の歴史的景観に寄与していること、再現することが容易でないこと等であり、桃山配水計量室はこれらの条件を十分に満たしています。建設から100年を超える宇部市最古級の水道施設であること、ゴシック様式を取り入れた意匠性の高い建造物であること、そして石炭産業の発展と密接に結びついた宇部市の近代化を象徴する存在であることが、高く評価されました。
さらに2007年(平成19年)には、隣接する旧桃山1号配水池監視廊入口とともに、経済産業省の近代化産業遺産にも認定されています。両施設は宇部市の水道施設を代表する最も古い建造物として、産業の発展と市民生活の向上に寄与した歴史的価値が認められています。
建築の特徴と見どころ
桃山配水計量室は、建築面積約30平方メートルの小規模な煉瓦造平屋建でありながら、独特の存在感を放っています。直径5.7メートルの八角形の平面を持ち、宇部の産業遺産を象徴する桃色の煉瓦で建造されています。外観はゴシック様式を採用しており、直線的な柱形と、ゆるやかなアーチ形をした入口や窓が織りなすコントラストの美しさが最大の特徴です。
建設当初は八角錐形の屋根を頂き、まるで中世の城を思わせる佇まいでした。この屋根は経年により失われましたが、2002年(平成14年)に復元され、現在は鉄筋コンクリート造の陸屋根が架けられています。興味深いことに、実際には八角形であるにもかかわらず、古くから「六角堂」と呼ばれ市民に親しまれてきました。この愛称は世代を超えて定着しており、建物のアイデンティティの一部となっています。
丘陵地に位置するため、周囲からは宇部市街地や周防灘を見渡す素晴らしい眺望を楽しむことができます。住宅地の細い路地を抜けてたどり着く立地もまた、大正時代にタイムスリップしたかのような独特の雰囲気を醸し出しています。
訪問ガイド
桃山配水計量室は24時間いつでも外観を見学することができます。宇部市西桃山の住宅地の中に位置しており、建物の内部は通常公開されていませんが、外観や周辺の景観は自由に楽しめます。
計量室から約400メートル北に坂を上ると、同じく登録有形文化財の旧桃山1号配水池監視廊入口があります。こちらはゴシック様式の尖頭形アーチや柱頭装飾が施された鉄筋コンクリート造の建物で、当時の建築意匠を今に伝えています。さらにその隣には、1987年(昭和62年)に建設された桃山3号配水池があり、パノラマ展望塔が設置されています。展望塔は土曜・日曜・祝日に無料で一般開放されており、宇部市街地や瀬戸内海、天候に恵まれれば九州や四国の山々まで一望できます。
駐車場は旧桃山1号配水池監視廊入口・桃山3号配水池付近にあり、そこから坂を下って計量室まで歩くルートがおすすめです。計量室周辺は道幅が非常に狭いため、車で直接向かう場合は注意が必要です。
周辺の見どころ
宇部市には産業遺産をはじめとする多彩な観光スポットがあります。市の代表的な観光地であるときわ公園は、常盤湖を中心に約100ヘクタールの広大な敷地に広がる総合公園で、日本初の石炭記念館を擁しています。石炭記念館では宇部の炭鉱の歴史を学べるほか、実際の炭鉱で使用されていた竪坑櫓を移設した展望台から市街地を一望でき、入館無料で楽しめます。園内にはUBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)の受賞作品など約100点の屋外彫刻が常設展示されており、自然とアートが調和した美しい景観を堪能できます。
宇部市の炭鉱遺産に興味がある方には、同じく登録有形文化財の沖ノ山電車竪坑石垣もおすすめです。また、市内各所に点在するパブリックアート作品を巡る街歩きも、宇部の産業の歴史と現代の創造性をつなぐ楽しい体験となるでしょう。
Q&A
- なぜ八角形なのに「六角堂」と呼ばれているのですか?
- これは地元で長年親しまれてきた愛称であり、なぜ六角堂と呼ばれるようになったのかは明確にはわかっていません。実際に八角形であることを知らない市民も多く、この名称のずれ自体が建物の魅力の一つとなっています。地域の歴史に根差した微笑ましいエピソードとして語り継がれています。
- 建物の内部は見学できますか?
- 内部は通常公開されていませんが、外観は24時間いつでも自由に見学できます。水道施設遺産の見学についてのお問い合わせは、宇部市水道局総務企画課(TEL: 0836-21-2171)までご連絡ください。
- アクセス方法を教えてください。
- 宇部市西桃山の住宅地内にあります。桃山3号配水池・旧桃山1号配水池監視廊入口付近に駐車スペースがありますので、そこに車を停めて計量室まで徒歩約5分で到着します。計量室周辺の道は非常に狭いため、直接車で向かう場合はご注意ください。
- この建物と石炭産業の関係は何ですか?
- 桃山配水計量室は1924年に沖ノ山炭鉱によって建設されました。石炭産業の急速な発展に伴い人口が急増した宇部では、近代的な水道施設の整備が急務でした。沖ノ山炭鉱が自社の炭鉱や社宅への給水を目的に水道システム一式を建設し、1926年に宇部市に譲渡しました。この建物は産業発展とインフラ近代化が交差する歴史の証人です。
- 近くに他の見どころはありますか?
- 徒歩圏内に同じく登録有形文化財の旧桃山1号配水池監視廊入口があり、ゴシック様式の装飾が見事です。隣接する桃山3号配水池の展望塔は土日祝日に無料開放されており、市街地や瀬戸内海の絶景を楽しめます。また、車で約10分のときわ公園には無料の石炭記念館やUBEビエンナーレの屋外彫刻群があります。
基本情報
| 名称 | 桃山配水計量室(通称:六角堂) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 1997年(平成9年)11月5日 |
| その他の認定 | 近代化産業遺産(経済産業省、2007年認定) |
| 建設年 | 1924年(大正13年) |
| 構造 | 煉瓦造平屋建、八角形平面、直径5.7m、建築面積約30㎡ |
| 建設者 | 沖ノ山炭鉱(1926年に宇部市へ譲渡) |
| 所有者 | 宇部市 |
| 所在地 | 〒755-0067 山口県宇部市大字小串字福富175-9 |
| 見学時間 | 外観は24時間見学可能 |
| 入場料 | 無料 |
| お問い合わせ | 宇部市水道局 総務企画課 総務企画係 TEL: 0836-21-2171 |
参考文献
- 桃山配水計量室 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/176586
- 桃山配水計量室|宇部市公式ウェブサイト
- https://www.city.ube.yamaguchi.jp/kyouyou/rekishi/library/1004064.html
- 登録有形文化財について|宇部市水道局
- https://ubesuido.jp/pages/122/
- 宇部の炭鉱遺産 — 石炭記念館(ときわ公園)
- https://www.tokiwapark.jp/sekitan/heritage/
- 桃山配水計量室(六角堂)|宇部観光コンベンション協会
- https://ube-kankou.or.jp/sightseeing/history-culture/post-9.html
最終更新日: 2026.04.17