永山本家酒造場事務所(旧二俣瀬村役場庁舎)― 昭和初期の洋風庁舎が銘酒「貴」とともに生き続ける文化財
山口県宇部市北部の二俣瀬地区、厚東川のほとりに佇む瀟洒な二階建て洋風建築。昭和3年(1928年)に二俣瀬村の役場庁舎として建てられたこの建物は、現在、純米酒の銘醸蔵として全国に名を馳せる永山本家酒造場の事務所として使われています。平成29年(2017年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの建物は、昭和初期の地方自治の姿を今に伝えるとともに、130年を超える酒造りの歴史と見事に調和し、訪れる人々に深い感動を与えてくれます。
昭和天皇御大典を記念して建てられた村役場
この建物の歴史は、昭和3年(1928年)10月3日に遡ります。昭和天皇の御大典(即位の礼)を記念して建設されたこの庁舎は、当時の二俣瀬村の行政の中心地でした。二俣瀬村は明治22年(1889年)の市町村制施行により、旧厚狭郡の木田・山中・車地・瓜生野・善和の五か村が合併して成立した村です。厚東川沿いに広がるこの地域は、かつて数軒の造り酒屋が軒を連ね、酒造米を精白する水車が回る、酒造りの里でした。
昭和22年(1947年)に二俣瀬村が宇部市に編入されると、村役場としての役割を終えたこの建物は、明治21年(1888年)の創業以来この地で酒造りを続けてきた永山本家酒造場の事務所として新たな使命を得ました。行政機能から民間企業の拠点へという円滑な転換により、建物は途切れることなく使い続けられ、建築当初に近い良好な保存状態を保つことができたのです。
登録有形文化財としての価値
この建物は平成29年(2017年)5月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その文化的価値は、建築様式と歴史的意義の両面にわたります。
建築的には、木造2階建て、切妻造り桟瓦葺の建物で、外壁は石造を模して目地を切ったモルタル塗りという、当時流行した洋風の仕上げが施されています。正面中央の玄関上部にはペディメント(三角破風)が設けられ、玄関の両脇と建物四隅には柱形(ピラスター)が付されるなど、西洋建築の古典的な意匠が随所に見られます。これらの装飾は、昭和初期の地方の村々が近代化と格式を建築に込めようとした志を物語っています。
内部の配置もまた、大変貴重です。1階は役場事務室、村長室、収入役室、炊事場として使われ、2階全体が一室の議場となっていました。この「1階を役場、2階を議事堂」とする形式は、明治後期以降の町村役場建築の定型ですが、この形式を残す建物は山口県下でも極めて少なく、しかも建築当初に近い状態で保存されている点が高く評価されています。地方自治の歴史を建築として体感できる、まさに貴重な文化遺産です。
見どころ・魅力
永山本家酒造場の敷地内に位置するこの文化財建造物は、醸造場や酒蔵群、厚東川の景観と一体となった趣深い空間の中で鑑賞できます。石造りを模した白いモルタル壁、格調高いペディメント、桟瓦の屋根が織りなす外観は、周囲の田園風景や山々を背景に非常にフォトジェニックです。
建物内部は現在も酒造場の事務所として使われているため、一般的な内部見学はできませんが、外観からピラスターの意匠や玄関まわりの構成、建物全体のプロポーションを十分に楽しむことができます。酒蔵見学と組み合わせて訪れれば、この地の歴史・建築・酒造りの伝統が一体となった奥深い体験が待っています。
永山本家酒造場と銘酒「貴」
永山本家酒造場は明治21年(1888年)に初代・永山橘太郎が創業した老舗の酒蔵です。蔵の前を流れる厚東川は、日本最大級のカルスト台地である秋吉台を水源とし、3億年以上前のサンゴ礁が隆起してできた石灰岩層を通ってカルシウムなどのミネラルを豊富に含んだ中硬水が湧き出しています。この水が、蔵の酒に透明感としっかりとした味の骨格を与えています。
五代目蔵元・永山貴博氏のもと、2002年に誕生したブランド「貴(たか)」は、「癒しと米味」をコンセプトに掲げ、飲むほどにほっとする、飽きの来ない純米酒を目指しています。2003年には有名食雑誌の「地方の隠れた名酒部門」で1位を獲得し、全国的な注目を集めました。2015年の醸造からは醸造アルコールを一切使わない純米酒専門蔵となっています。
さらに2019年には農業生産法人「株式会社ドメーヌ貴」を設立し、自社で酒米・山田錦の栽培を開始。ヨーロッパのワイナリーで学んだテロワールの思想を日本酒に取り入れ、田んぼから始まる酒造りを実践しています。酒蔵見学は要予約で随時受け付けており、「貴」や地元銘柄「男山」の有料試飲も楽しめます。
周辺情報
永山本家酒造場は宇部市北部に位置し、山口県を代表する自然・文化の観光スポットへのアクセスも良好です。
- 秋吉台・秋芳洞 — 車で約30分。日本最大のカルスト台地である秋吉台は国の特別天然記念物に指定され、広大な草原に石灰岩の柱が林立する壮大な景観が広がります。その地下には日本有数の鍾乳洞・秋芳洞があります。永山本家酒造場の仕込み水の源流であるこの大地を訪れれば、酒の味わいの背景をより深く理解できるでしょう。
- ときわ公園 — 宇部市中心部にある大規模な都市公園。動物園、植物園、彫刻美術館、湖畔の散策路を備え、国内最大級の野外彫刻コレクションで知られます。
- 宇部市の野外彫刻 — 宇部市は1961年から続く「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」の開催地として「彫刻のまち」の名で親しまれ、市内各所に彫刻作品が展示されています。
- 厚東川ダム・小野湖周辺 — 酒蔵の近くに位置する自然豊かなエリア。環境学習施設やキャンプ場があり、野鳥観察や自然体験が楽しめます。
- 別府弁天池 — 秋吉台近くにある、透き通るコバルトブルーの湧水池。天然記念物に指定されており、ミネラルウォーターの持ち帰りも可能です。
Q&A
- 永山本家酒造場事務所の建物の内部は見学できますか?
- 建物は現在も酒造場の事務所として使用されているため、一般的な内部見学はできません。ただし、外観からペディメントやピラスターなどの建築的特徴を十分に鑑賞できます。酒蔵見学を予約すれば、建物の歴史についてもお話を伺える場合があります。
- 酒蔵見学や試飲はどのように申し込めますか?
- 酒蔵見学は事前予約制です。電話(0836-62-0088)または公式サイト(domainetaka.com)のお問い合わせフォームからお申し込みください。有料試飲では「貴」をはじめとする各種銘柄をお楽しみいただけます。
- 山口宇部空港からのアクセスは?
- 山口宇部空港から車で約30分です。公共交通機関でのアクセスは限られているため、レンタカーのご利用をおすすめします。山陽自動車道・宇部ICからは約20分です。
- 文化財建造物の見学に入場料はかかりますか?
- 建物の外観見学に入場料はかかりません。建物は酒蔵の敷地内にあり、公道からも見ることができます。詳しい解説を含む酒蔵見学については、直接酒蔵にお問い合わせください。
- 訪問に最適な季節はいつですか?
- 一年を通じて美しい景観が楽しめます。春は田植え、秋は稲穂が揺れる田園風景が見事です。毎年11月23日の新嘗祭を新酒解禁の日としており、この時期は搾りたての新酒を味わえる特別なシーズンです。冬は酒造りの最盛期で、蔵の活気ある雰囲気を体感できます。
基本情報
| 名称 | 永山本家酒造場事務所(旧二俣瀬村役場庁舎) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成29年(2017年)5月2日 |
| 建築年 | 昭和3年(1928年) |
| 構造・規模 | 木造2階建、切妻造桟瓦葺、モルタル塗り 建築面積121㎡ |
| 所在地 | 〒759-0133 山口県宇部市大字車地字川部138-1 |
| 所有者 | 株式会社永山本家酒造場 |
| 電話番号 | 0836-62-0088 |
| 公式サイト | https://www.domainetaka.com/ |
| アクセス | 山口宇部空港から車で約30分、山陽自動車道・宇部ICから約20分。レンタカー推奨。 |
参考文献
- 永山本家酒造場事務所(旧二俣瀬村役場庁舎) — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/294130
- 永山本家酒造場事務所(旧二俣瀬村役場庁舎) — 宇部市公式ウェブサイト
- https://www.city.ube.yamaguchi.jp/kyouyou/rekishi/library/1004065.html
- 会社概要 / 沿革 — 永山本家酒造場「貴」公式WEBサイト
- https://www.domainetaka.com/company-2/
- 宇部の造り酒蔵 永山本家酒造場 — 宇部観光コンベンション協会
- https://ube-kankou.or.jp/buy/shopping/post-14.html
- 永山本家酒造場 — 宇部観光コンベンション協会
- https://ube-kankou.or.jp/sightseeing/traditional-crafts/post-73.html
- 貴(たか)│永山本家酒造場 — IMADEYA ONLINE STORE
- https://imadeya.co.jp/blogs/brewery/nagayama_honke
- Think Globally Act Locally【貴】永山本家酒造場 — 酒蔵プレス
- https://www.sakagura-press.com/sake/nakayamahonnke2023/
最終更新日: 2026.03.25