グリンバンク・チャペル:戦後復興の中に生まれた祈りと教育の象徴

山梨県甲府市の愛宕山を背景に佇むグリンバンク・チャペルは、山梨英和中学校・高等学校の精神的な拠り所として、75年以上にわたり生徒たちの心を育んできました。終戦からわずか4年後の1949年(昭和24年)に竣工したこの講堂は、学校の復興と発展の象徴であり、2022年(令和4年)10月31日に国の登録有形文化財に登録されました。

カナダ・メソジスト教会と山梨英和の歩み

山梨英和学院は1889年(明治22年)、カナダ・メソジスト教会婦人伝道会社と地元のキリスト者青年実業家たちの協力により、山梨県下初の女子教育機関として設立されました。東洋英和女学院(東京)、静岡英和女学院とともに「三英和」のひとつに数えられ、135年以上にわたりキリスト教精神に基づく教育を実践しています。

校訓「敬神・愛人・自修」は、歴代のカナダ人宣教師たちが築いた教育理念を凝縮したものです。初代校長ミス・ウィントミュートに始まり、多くの宣教師たちが甲府の地で教育に捧げた生涯は、現在も学校の精神として脈々と受け継がれています。

グリンバンク校長とチャペルの名の由来

チャペルの名称は、第10代・第12代校長を務めたカナダ人宣教師ミス・グリンバンクに由来します。グリンバンク校長は生徒や地域の人々から深く慕われ、1928年(昭和3年)には学校のセーラー服を制定しました。そのデザインは現在も受け継がれています。

学校教育にとどまらず、地域の人々にも英語を教えるなど幅広い貢献をされたグリンバンク校長は、1957年(昭和32年)に甲府市の名誉市民に選ばれ、1986年(昭和61年)には甲府市遊亀公園に顕彰碑が建立されました。1947年(昭和22年)に戦後再来日した際にカナダから持参したピアノは、現在もチャペルの2階に大切に保管されています。

建築の特徴と文化財としての価値

グリンバンク・チャペルは建築家・塩川旭の設計により1949年に竣工しました。鉄筋コンクリート造と木造を組み合わせた3階建ての建物で、T字形の切妻屋根にスレート葺きを施しています。建築面積は379平方メートルです。

1階は鉄筋コンクリート造に煉瓦貼りの外壁が施され、2・3階の講堂部分は木造にモルタル仕上げとなっています。戦後間もない時期の建材不足の中で、異なる構造を巧みに組み合わせた設計は、当時の建築技術と工夫を物語っています。

最大の建築的見どころは、講堂の天井にあります。キングポスト・トラス(真束小屋組)の合掌材を勾配天井の中に巧みに隠し、洗練された吹き抜け空間を実現しています。この「船底天井」と呼ばれる意匠は、船の底を逆さにしたような美しい曲線を描き、空間に温かみと荘厳さを与えています。いかりの形をモチーフにした照明器具も特徴的で、海を想わせる統一されたデザインとなっています。

登録有形文化財に選ばれた理由

グリンバンク・チャペルが2022年に登録有形文化財として登録された背景には、いくつかの重要な評価があります。終戦直後に建設されたミッションスクールの講堂として、日本の建築史・教育史における貴重な存在であること。鉄筋コンクリート造と木造を複合した構造に、当時の建築的工夫が凝縮されていること。そして何より、キングポスト・トラスの構造を勾配天井の中に隠して洗練された空間を創出した意匠的な完成度が高く評価されました。

見どころと魅力

グリンバンク・チャペルは現在も山梨英和の教育の中心として活用されており、毎日の朝礼拝や学校行事、音楽の授業などに使われています。主な見どころをご紹介します。

  • 1990年、創立100周年記念事業として設置されたパイプオルガンは、礼拝や特別な行事の際にその荘厳な音色を響かせます。
  • 船底天井の木造梁といかりモチーフのシャンデリアが織りなす空間美は、モダンでありながら厳かな雰囲気を醸し出しています。
  • 2階への階段踊り場の優美なカーブは、柔らかさと温かさを感じさせる繊細なデザインです。
  • 2階にはグリンバンク校長が1947年にカナダから持参したピアノや、1973年に山梨英和最後のカナダ人宣教師D.ロジャース氏から寄贈されたハンドベルの一部が展示されています。
  • 戦時中に「英和」から「栄和」への校名変更を余儀なくされた時代(1941〜1958年)の門柱の校名が、歴史の証としてチャペル内に保管されています。

訪問について

グリンバンク・チャペルは現役の学校施設内にあるため、通常は一般公開されていません。見学を希望される方は、事前に学校事務室にお問い合わせください。学校では、クリスマスミニコンサートや文化財登録記念講演会など、チャペルを会場とした特別なイベントが行われることがあります。

学校はJR中央線の車窓からも望める愛宕山の麓に位置し、緑豊かな落ち着いた環境にあります。

周辺情報

グリンバンク・チャペルが位置する甲府市愛宕町エリアは、歴史と自然が調和した魅力的な地域です。戦国の名将・武田信玄を祀る武田神社は、躑躅ヶ崎館跡に建てられた国の史跡で、桜の名所としても知られています。愛宕山には山梨県立科学館や愛宕山こどもの国があり、富士山や甲府盆地を一望できるハイキングコースも楽しめます。

甲府駅周辺では、舞鶴城公園(甲府城跡)や甲斐善光寺といった歴史スポットを巡ることができます。日本一の渓谷美と称される御岳昇仙峡は、特に紅葉の季節に見事な景観を見せてくれます。甲府名物の「ほうとう」や「甲府鳥もつ煮」、甲府盆地のワイナリーでのワインテイスティングなど、食の楽しみも豊富です。

Q&A

Qグリンバンク・チャペルは一般の観光客も見学できますか?
Aグリンバンク・チャペルは現役の学校施設内にあるため、通常は一般公開されていません。ただし、クリスマスコンサートや文化財記念イベントなど、特別な催しの際に公開されることがあります。見学をご希望の方は、事前に山梨英和中学校・高等学校にお問い合わせください。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
AJR新宿駅から中央線特急で甲府駅まで約90分です。甲府駅からはバスまたはタクシーで約10分で学校に到着できます。JR中央線の車窓からもキャンパスを望むことができます。
Q甲府エリアを訪れるのに最適な季節はいつですか?
A春(3〜4月)は武田神社周辺の桜が見事です。秋(10〜11月)は昇仙峡の紅葉が絶景となります。夏はぶどう狩りやワイナリー巡り、冬は澄んだ空気の中で富士山の眺望を楽しむことができます。
Q山梨英和とNHK朝ドラ「花子とアン」はどのような関係がありますか?
A「赤毛のアン」を日本語に翻訳した村岡花子は甲府出身で、東洋英和女学校卒業後に山梨英和で5年間教鞭を執りました。2014年に放映されたNHK連続テレビ小説「花子とアン」の放映を機に、全国から多くの方が学校を訪れました。カナダ人宣教師たちの精神が花子の生き方にも深く根づいていたことが再確認される契機となりました。

基本情報

名称 山梨英和中学校・高等学校講堂グリンバンク・チャペル
設計 塩川旭
竣工 1949年(昭和24年)
構造 鉄筋コンクリート造及び木造3階建、スレート葺、建築面積379㎡
文化財指定 登録有形文化財(建造物)、2022年(令和4年)10月31日登録
所有者 学校法人山梨英和学院
所在地 〒400-8507 山梨県甲府市愛宕町112番地
アクセス JR甲府駅からバスまたはタクシーで約10分
お問い合わせ 山梨英和中学校 TEL 055-252-6184 / 高等学校 TEL 055-252-6187
備考 現役の学校施設のため見学は要事前問い合わせ

参考文献

山梨英和中学校・高等学校講堂グリンバンク・チャペル — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/523437
山梨英和中学校・高等学校 公式サイト — 設備・施設
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/about/campus
山梨英和の歴史・校歌 — 山梨英和中学校・高等学校
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/about/history
登録有形文化財 グリンバンク・チャペル — Zoom Up KOFU 市民レポート
https://blog.goo.ne.jp/kofu-reporter/e/21e14c95b46dcb6177204f0032bdbfc1
「グリンバンク・チャペル」— 学校復興と発展の象徴として紹介されました — 山梨英和中学校・高等学校
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/blog_education/103054
山梨英和中学校・高等学校 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/山梨英和中学校・高等学校
歩みとビジョン — 山梨英和学院創立130周年記念サイト
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/houjin/130th/histories-vision/
役員室 拝見!山梨英和中学・高校校長 三井貴子さん — さんにちEye 山梨日日新聞電子版
https://www.sannichi.co.jp/article/2019/02/18/80197090

最終更新日: 2026.03.25