授業を続けてきた校舎
名古屋市千種区、地下鉄本山駅から歩いてほどない愛知学院大学楠元キャンパスに、昭和3年(1928年)竣工の校舎が、今も教室として使われている。建てられたときの名は、旧制愛知中学校の本館だった。学校の歴史はさらにさかのぼる。起こりは明治9年(1876年)の曹洞宗専門学校支校で、大正10年(1921年)に現在の楠元町へ移り、大正14年(1925年)に愛知中学校と改称した私立学校である。
戦後の昭和28年(1953年)、同じ学校法人愛知学院によって愛知学院大学が開学すると、この本館は取り壊されることなく、そのまま大学校舎へと引き継がれた。薬学部や歯学部が学ぶ楠元キャンパスで、現在も現役の建物である。
構造は鉄筋コンクリート造の2階建、建築面積はおよそ805平方メートル。覚王山の斜面の下に位置し、地下鉄本山駅から徒歩圏内にある。
「指定」ではなく「登録」、その背後にある系譜
日本で古い建物を守る制度には、大きく二つの道がある。よく知られているのは、国宝や重要文化財を生む「指定」である。もう一つが、平成8年(1996年)に始まった「登録」で、明治から昭和初期にかけて数多く建てられた近代の建物を、比較的緩やかな枠組みで守るために設けられた。第1号館は平成10年(1998年)1月16日に登録有形文化財(建造物)として国の登録原簿に記載され、翌2月12日に告示された。登録基準は「造形の規範となっているもの」、登録番号は23-0008である。
設計には、はっきりとした系譜がある。手がけたのは佐藤三郎。名古屋高等工業学校(現在の名古屋工業大学)に学び、同校および鈴木禎次の建築事務所で鈴木に師事した人物である。鈴木禎次(1870〜1941年)は、木造中心だった名古屋の街並みを煉瓦造・鉄筋コンクリート造へと一変させた建築家で、名古屋高等工業学校の建築科教授を務めるかたわら、市内で数多くの近代建築を設計した。東海の辰野金吾と呼ばれることもあり、夏目漱石とは妻同士が姉妹にあたる相婿としても知られる。第1号館は、その鈴木の系譜を継ぐ弟子による作にあたる。
名古屋市はこれより早く、平成3年(1991年)に本建築を都市景観重要建築物等として選んでいる。
見どころ
建物の構成は、通りから眺めるとよくわかる。東西に長い正面の中央が三角形のペディメント(破風)として立ち上がり、その下にアーチを伴う玄関ポーチが設けられて、正面性を際立たせている。左右に伸びる翼部には、1・2階を貫く角柱(柱形)が並び、柱頭の上には丸瓦をのせた横架材が架かる。西洋古典の構成のなかに丸瓦という和の要素を取り込んだ、目を引く細部である。
両端にも目をやりたい。建物の両端部はわずかに前へ張り出し、長い正面の輪郭を引き締めている。外壁は茶褐色のスクラッチタイル張りで、櫛で引いたような表面が光を不均一に受け、学び舎にふさわしい落ち着いた表情を生んでいる。
昭和61年(1986年)には復元修理が行われ、外観は創建当初の姿に近い形へと戻された。今日目にする建物は、おおむね1928年の姿である。
キャンパスの周辺
楠元キャンパスは覚王山の斜面の下にあり、この一帯は名古屋市東部を半日歩くのにふさわしい。坂をのぼれば、明治37年(1904年)創建の覚王山日泰寺がある。特定の宗派に属さない寺院で、シャム(現在のタイ)から贈られたと伝わる仏舎利を安置する。
近くには、松坂屋を興した伊藤家の別荘・揚輝荘がある。その一部は鈴木禎次の設計によるもので、坂の下にある弟子の作とあわせて巡るのにふさわしい。さらに東には東山動植物園が広がり、同じ道行きの続きとして立ち寄りやすい。
第1号館は現役の大学施設であるため、見学は外観にとどめたい。内部は通常公開されておらず、授業期間中は授業や業務が行われている。
Q&A
- 建物の内部は見学できますか。
- 現役の大学校舎であるため、内部は通常公開されていません。外観はキャンパスや道路から眺め、撮影することができますが、授業期間中は授業や業務が行われていますので、配慮のうえご覧ください。
- どのような文化財ですか。
- 登録有形文化財(建造物)です。国宝や重要文化財で用いられる「指定」よりも緩やかな保護の枠組みである「登録」によるもので、平成10年(1998年)に国の登録原簿に記載されました。これに先立ち、平成3年(1991年)には名古屋市の都市景観重要建築物等にも選ばれています。
- 設計者は誰ですか。
- 佐藤三郎です。名古屋高等工業学校に学び、名古屋近代建築の先駆者で夏目漱石の義弟にあたる鈴木禎次に師事しました。
- アクセスを教えてください。
- 地下鉄東山線・名城線の本山駅1番出口から、北西へ徒歩5〜7分ほどです。本山駅は名古屋駅から約15分の距離にあります。
- 周辺の見どころは。
- 坂の上に広がる覚王山一帯です。覚王山日泰寺や、伊藤家別荘の揚輝荘庭園があり、さらに東へ進むと東山動植物園があります。
基本情報
| 名称 | 愛知学院大学楠元学舎第1号館 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市千種区楠元町1-1(キャンパス所在地は楠元町1-100) |
| 区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録 平成10年(1998年)1月16日(告示 同年2月12日)/登録番号 23-0008 |
| 年代 | 昭和3年(1928年) |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造2階建、建築面積約805㎡ |
| 旧用途 | 旧制愛知中学校本館 |
| 設計・施工 | 設計 佐藤三郎/施工 西村工務店 |
| 所有者 | 学校法人愛知学院 |
| アクセス | 地下鉄本山駅から徒歩約5〜7分(東山線・名城線) |
| 公開状況 | 現役の大学施設。外観の見学のみ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000434
- 文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/113314
- 文化財ナビ愛知(愛知県)
- https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1027.html
- 愛知学院大学 楠元・末盛キャンパス
- https://www.agu.ac.jp/access/kusumoto_suemori/
最終更新日: 2026.06.14